DF 31 堀米 悠斗(アルビレックス新潟)
きっと苦しい時間のほうが長かった。
だから優勝を届けたい
ルヴァンカップ決勝を戦うアルビレックス新潟の絶対的なキャプテン・堀米悠斗。
在籍8年目を迎える大黒柱に、ファイナルを戦う上でのポイントや、ファン・サポーターへの思いなどを聞いた。
聞き手:野本 桂子
準決勝の前に再確認した「コンパクト」と「ミドルプレス」
――ルヴァンカップ初の決勝進出、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
――ここまでの戦いを振り返って、どんな思いがありますか。
「1stラウンドは、チームにケガ人がすごく多い時期で、日程的にもかなり苦しい中で、大学生2人(JFA・Jリーグ特別指定選手の稲村隼翔と笠井佳祐)の力も借りながら、ベンチ入りできるギリギリの人数で戦っていました。ルーキーの石山青空だったり、奥村仁だったり、本当に若い選手が頑張ってくれました。プレーオフラウンドでは、長崎との第1戦で、阿部ちゃん(阿部航斗)が登録ミスで出られなくなるというアクシデントもあった中で、代わりに出たミツくん(吉満大介)がビッグセーブで何度もチームを救ってくれました。いろいろなことがあった中で、本当にみんなの力で1試合1試合に向き合ってきた結果、ここまでくることができました」
――プライムラウンド準決勝・川崎F戦の直前まではリーグ戦4連敗。4試合で15失点と苦しい状況でした。しかし、4連敗のあと中3日で始まった川崎Fとの準決勝は、2戦合計6-1で圧勝し、決勝進出を決めました。立て直すために、キャプテンとして働きかけたことはありますか。
「リーグ戦で4連敗したあと、いろいろな選手が、それぞれポジションが近い選手と話し合っている様子が見られました。 僕は(鈴木)孝司さんやヨシくん(高木善朗)と話す機会が多かったんですが、いま、何が難しいとか、『よかった時期はこういうことがやれていたのに、それができていないよね』と話していく中で、『守備がうまくいっていたときは、こうだったよね』という話になりました。『それを選手で統一し切れなくて負けたらもったいないよね、準決勝まできているのに』と。そんな思いから、僕が選手を代表して、リキさん(松橋力蔵監督)に話しにいったんです。『選手の中ではこういう意見が出ているのですが、どうですか』って。リキさんもほぼ同じ考えを持っていて『やっぱりそうだよね』と。それで、準決勝・第1戦の前日練習で、あらためてリキさんがみんなに確認してくれたんです。具体的には、プレスをかけるラインを設定しました。しっかりとみんなで話し合って、言葉にして、確認して。キーワードは『コンパクト』と『ミドルプレス』。これまでも、チームがいいときにはできていたので、新しいことに取り組むというよりは、思い出しながらやったという感じです。実際、選手同士の距離感がコンパクトになると、ボールを奪ったあとも味方とつながりやすいので、守備がよくなったことに比例して、攻撃もよくなったと思います」
――すぐに動いて、大事な仕事をされたんですね。
「まあ、僕は代表して話しにいっただけなので。みんながいろいろな意見を持っているのは当然で、それをどうすり合わせるかが一番大事です。いろいろなやり方があるし、それが正解かどうかは、やってみなければ分からないところもあります。準決勝の川崎F戦では、みんなで話し合ったコンパクトな守備が本当にうまくいったというだけで、これが名古屋に対しても通用するかどうかは、また別の話。決勝までいったことで満足しないことが大事だと思います」
――「コンパクト」と「ミドルプレス」という、迷ったときに立ち返るキーワードができました。
「ピッチでの感覚的なところも大事です。ずっとミドルゾーンで構え続けるわけではなくて、相手の体の向きが悪かったり、パスがズレたりしたときには、そこからハイプレスに移行する。そこで奪いに出ていくか、いかないかの判断は、試合に出ている選手の能力や体力的なところ、ゲームの流れにもよるでしょうし。その感覚をどれだけ合わせられるかがすごく大事でした」
――前線の選手も、後ろを振り返りながらプレスにいくタイミングを図っていました。
「長倉幹樹や(宮本)英治といった身体能力に強みのある選手は、ほかの選手よりも速くボールに寄せられるので、同じスピードで後ろがついていかないと、スペースが空いてしまいます。『自分はプレスにいっています。なんで後ろがついてきていないんですか』となるのではなく、周りを見て、『いまなら連動していける』というタイミングをしっかりと共有することが、彼らの強みを発揮できることにもつながると思うので。そこはすごく変わった部分かなと思いますね。準決勝の2試合は、選手同士がしっかりとアイコンタクトしながら、お互いを気にしながら動けていました」
――今大会、左SBは堀米選手のほかに森璃太選手、星雄次選手、早川史哉選手、稲村選手、7月に徳島から完全移籍で加入した橋本健人選手が出場しています。橋本選手は加入したばかりのころ、堀米選手から「もっとクロスを上げていい」と言われたことでチームに馴染みやすくなったと話されていました。
「紅白戦で対戦したとき、健人が左足でボールを持つんですけど、中に1枚しかいないからクロスを上げるのをやめて、つなぎ直すシーンが連続して見られたので、そのときは言いましたね。『クロスを上げていいんじゃない? それが武器なんだから。“健人がボールを持ったら、クロスが出てくるんだな”と中の選手に分かってもらえるまで、合わなくてもいいから上げたほうがいいよ』って。無理に上げろというわけではなくて、健人はキックの精度の高さが武器で、それを持ち味としている選手なので、いずれ中の選手が健人のクロスのタイミングを理解して合わせてくれるようになるから、いまからやめていたらもったいないなと思ったんです。でも、それくらいですね。それ以外は健人が自分で感覚をつかんでプレーしていると思います。考えながらやれるタイプなので、安っぽい質問はしてこないですし、賢い選手だなと思います」
――左SBの本職同士、高め合える存在ですね。
「そうですね。健人は、いまのJリーグ全体で見ても、めちゃくちゃいい選手だと思います。守備にそこまで穴は見当たらないし、足元の技術が高いので、アルビらしいSBかなと思います。いまは健人がメインで出ているので、自分は自分にできる仕事をしながら、次のチャンスに備えています」
ハイプレスをはがす勇気を持てるか。そこが勝負の分かれ目
――決勝で対戦する名古屋には、どんなイメージをお持ちですか。
「能力の高い選手が多いです。彼らは、僕たちに3-0で勝ったリーグ戦(J1第29節)から、何かをつかんだように見えます。その後のリーグ戦の結果や戦いぶりを見てもそう感じます。あの試合では、マンツーマンでハメてきたのですが、よりハードワークできる選手がスタートから出て、守備の規律を守りながらプレーしていました。おそらく、いまもそれでうまくいっていて、決勝でもああいう形でやってくると思います。それを上回るためにはどうしたらいいか、しっかりと分析して、対策して臨まないと、とても難しいゲームになると思います」
――勝負の分かれ目は、どこになると思いますか。
「まずは、試合の立ち上がりに失点しないことが重要です。相手はハイプレスで、自分たちのビルドアップを成立させないように戦ってくると思うので、 それをうまくはがせるか、はがす勇気を持てるか。マンツーマン気味に守ってくるなら、僕たちは目の前の相手をはがせば、守備にズレを生じさせることができます。決勝の舞台で、いつもどおりに、そこにトライする勇気を出せるかがポイントになると思います」
――堀米選手自身はどんなプレーを見せたいですか。
「今季のリーグ戦で対戦した際、ホーム(J1第3節/1○0)では勝ちましたが、アウェイ(J1第29節)では何もできずに負けたイメージが強く残っています。あのときは、前と後ろの選手の距離が遠くて、“つながり”という意味では、ウチらしくないゲームでした。僕自身も一人で打開するタイプではないので、どれだけ周りと関われるか、多くの選手と関われる立ち位置を取れるかが重要です。自分に限らず、新潟はコンビネーションで打開していく選手が多いと思うので、周りとのいい距離感を保ちながらプレーしたいと思います。そこは、準決勝で修正できた部分でもあります。それから、自分たちがボールを持っていない時間にイヤがらずにプレーすること。そこであたふたしてしまうと、プレスにいくタイミングがズレて連動できず、ボールを奪ったときに味方が近くにいないという、苦しい状態になるので。ボールを持てない時間も、どこかで選手間の距離を整えるタイミングを作って、徐々に新潟がペースを握り返せるようにできたらと思います」
長年、応援してくれている方がおいしいお酒を飲めるように
――初タイトルまであと1勝に迫っています。優勝にはどんな影響があると思いますか。
「いくつか思いつくものはあるけど、実際にそうなるのかは分からないですし、何が起こるのか、楽しみな面もありますよね。自分たちの想像を超えるようなプラスの反響があるのか、世間の反応が意外とあっさりしているのか。終わってみないと分からないなと思います」
――堀米選手は、「結果を出すことでアルビレックス新潟というクラブの格を高めたい」ということも、たびたびお話されています。
「そうですね。そこはもうすでに、変わってきている部分はあるのかなと思います。準決勝の川崎F戦も、2試合続けていいゲームができたぶん、決勝進出が決まっても浮かれることなく、割とあっさりしていたと思います。緊張みたいなものも一応ありましたけど、勝ち方としては劇的ではなかったので、そこまで自分たちの中に気持ちの変化はなく、みんなすぐに次のリーグ戦に切り替えていました。でも、強豪と言われるクラブは、こういう経験をたくさんしてきているんだなと思います。川崎Fや横浜FM、鹿島、浦和、G大阪といったチームは、優勝争いを何度も経験して、徐々にクラブとしての格が高まって、いまの立ち位置にいるんだなと。新潟もそうなっていくには、単発で終わらせないようにするしかないと思いますね」
――新潟の歴史だけを見れば、非常に大きな一歩だと思います。
「ここまでたどり着いたからこそ、本当に簡単ではないなと感じます。やっぱり、サッカーとクラブの経営規模は、切り離せないと思います。アルベル前監督も『このクラブの経営規模はまだまだ足りないし、チームが強くなるためには、そこも並行してやっていかなければいけない』と、ずっと言い続けていました。僕自身も、そういう目線でチームやクラブ全体を見ることが多くなっています。よく、強化費がいくらで、Jクラブの中で新潟はこれくらいの順位、という報道記事を見たりしますが、僕は逆に、そこにやりがいを感じているところもあります。お金があるクラブが優勝するのは、当たり前じゃないかと思うんですよ。 まあ、当たり前というか『そりゃ、そうだよね』と。新潟には、いろいろな地方のクラブで苦労してきた選手も多い。ウチでJ2を経験していないのは、小野裕二さんぐらいなんじゃないですかね。そういう選手たちが集まって日本一を獲るのはカッコいいなと、個人的には思うんです。そこにみんなでチャレンジできるのが、いまは楽しいなと思っていますね」
――這い上がってきた選手たちのストーリーが結集して、ドラマチックですね。
「まあ、お金は欲しいですけどね。あるに越したことはないのは、間違いないので」
――優勝することで、そこが少し変わるといいですね。
「そうですね。ただ、決勝で勝たないと、何も起こらないとは思っています」
――堀米選手は新潟に来て8シーズン目。今季は「輝く星を共に掴もう」という言葉を入れた堀米選手の新しいチャントができました。一緒にタイトルを獲りたいという、サポーターの強い思いも感じます。
「そうですね。昔のチャントも好きなので、たまには歌ってほしいなと思いますけど(笑)。多くの選手が今季、タイトル獲得を目標に掲げていましたし、リーグ戦では思ったような成績が出ていないので、このルヴァンカップで『2024年、よかったな』と思えるような結果を出せればいいなと思います。若い選手は、もう思い切ってやるだけですよね。『自分がヒーローになってやる!』っていう気持ちで、その場を楽しんでほしい。いろいろ背負うのは、ベテランでいいんじゃないかなと思いますね」
――最後に、決勝への意気込みとサポーターへのメッセージをお願いします。
「当日は本当に多くの新潟サポーターが国立競技場に駆けつけてくれるはずなので、初めての決勝の舞台を一緒に楽しみたいですね。サポーター生活を振り返れば、きっと苦しい時間のほうが長かったんじゃないかな。もちろん、試合に勝った日は、うれしい気持ちになると思いますが、長い目で見れば、悔しい思いをしてきたことのほうが多かったと思うので。特に、何十年もアルビを応援してくれている人に、優勝を届けたいなと思います。決して、新しいサポーターを軽く見ているわけではないのですが、アルビのサポーターには、おじいちゃん、おばあちゃんもすごく多いんですよ。会場入りするバスの中から出迎えてくれるサポーターを見ていても『この人、ずっと応援してくれているな。何年もここで見てくれているな』って、顔を覚えるくらい長く応援してくれているのが分かるので。そういう人たちがおいしいお酒を飲めるように、いい結果を出したいなと思います」
堀米 悠斗(ほりごめ・ゆうと)
1994年9月9日生まれ、30歳。168cm/67kg。北海道出身。コンサドーレ札幌U-12→コンサドーレ札幌U-15→コンサドーレ札幌U-18→コンサドーレ札幌→福島ユナイテッドFC→北海道コンサドーレ札幌を経て、2017年にアルビレックス新潟に完全移籍で加入。