チームは苦境にある。前節の鹿島戦を落とし、今季初の三連敗。27節からの6試合で1勝5敗と、終盤の勝負どころで失速した形だ。今季の目標だったタイトルの可能性はなくなり、ACLの出場権獲得についても現在3位の鹿島が2連敗した場合、その鹿島が4位鳥栖と最終節で対戦するため、鳥栖を上回る事ができない。4位を狙うにしても、G大阪と浦和の優勝争いに委ねるしかなく、いずれにしても苦しい状況だ。
そんな中、チームは新しい選手を試している。来季からの加入が決まっている筑波大学の車屋紳太郎だ。特別指定の車屋は今週からチームに合流しており、最終ラインに入り広島戦での先発出場に向けて準備を進めている。当の車屋は「正直緊張してるんですが、思い切ってやりたいです」と抱負を口にする一方、稲本潤一や谷口彰悟といった選手たちからポジショニングについて声をかけられていると述べ「がんばります」と口にしている。
その車屋に声をかけている一人の稲本は「(車屋は)自由にやるしかないと思っています。いきなり来てスタメンという戸惑いだとかもあると思うから、あまりあれこれ注文を付けるんじゃなくて、ぼくとか(谷口)彰悟とか、その辺がカバーしながら彼の良さを引き出せればと思います」と述べている。左利きの車屋は、足元の技術がしっかりしており、ビルドアップの面で良さを出すことが期待されている。風間八宏監督はその車屋の先発については「出るかどうかわからないけどね(笑)」と話すが、出場することになるのだとすれば、もちろん注目して欲しい選手の一人である。
この車屋を含めた川崎Fが迎え撃つのが、広島だ。Jリーグを連覇した昨季とは違い、今季は現在までのところ7位と結果を残せていない。ただ、チームの調子自体は悪くなく、また各ポジションにポテンシャルを秘めた選手が揃っており、簡単な試合にはならないだろう。川崎F戦で印象的なゴールを決め続けてきた佐藤寿人や、貪欲さが光る石原直樹といった攻撃面で特徴を持つ選手はもちろん、甲府戦で先発出場した野津田岳人や、スピードのある浅野拓磨といった若手選手にも警戒が必要であろう。また広島は浦和と並び、攻守において両サイドが特徴的な動きを見せるチームであり、柏好文や清水航平、もしくはミキッチといった選手たちの上下動をどう封じ込めるのかがポイントとなる。
広島のサッカーについて稲本は「広島だったりレッズだったりは他のチームとは違ったサッカーをするので、後手に回る時間帯はしっかり5バックになってもいいと思います」と述べて攻守におけるメリハリの重要性を指摘。さらに試合運びの重要なポイントの一つとして「後ろと前の距離感はできるだけ広くならずにやれればと思っています」と口にしている。
この稲本の距離感という発言は風間監督が述べてきた川崎Fの重要なポイントの一つでもあるが、これを維持することで川崎Fの攻撃は良くなるはず。2年連続の得点王を狙う大久保嘉人にとっても、ライバルを突き放す得点を決めるためにも維持したいポイントである。ちなみにその大久保は、チームの攻撃が停滞気味になると、中盤に降りる回数が増える傾向にあるが、そうなってしまうといざという場面でゴール前に居られない。だからこそ、ボールが出てこない時間帯が長引こうとも前線で耐え、その大久保に大島僚太と山本真希が絡む攻撃に期待したいと思う。
ともにタイトル争いからは脱落してしまっているが、ホーム最終戦となる川崎Fとしてはなんとか勝利したい一戦である。
なお、これは余談になるが27日にチームからジェシとパウリーニョについて、期限付き移籍の満了が発表され、来季はチームから離れる事が明らかになった。ジェシについてはすでに新聞報道やジェシ自身のSNSでの書き込みにより、契約の満了は一部サポーターの間には知られるところとなっていたが、実際に公式に発表されると寂しいものがある。
チームによると、この時期の発表はジェシ自身が望んでのものだったそうで、それはつまりホーム最終戦でしっかり挨拶したいとの意思の表れだとも言える。大病を患いながら回復した奥さんに切望され、サポーターと共にタイトル獲得を目指してきたが、負傷した膝のケガが最後まで完治していたとは言いがたく、今季は21試合の出場にとどまった。長く川崎Fでプレーしてきた選手と同じかそれ以上の強い気持ちでタイトルを望んできた選手なだけに、川崎Fでの最後のシーズンで結果を出せなかったのは残念でならない。ただ、これもサッカーというものの一面である。川崎Fのために全身全霊をかけて戦ってきてくれたジェシには感謝の言葉しかない。
また、同時に発表されたパウリーニョについてもホーム最終戦を前に残念なリリースが出る事となった。対人プレーに強みを見せ、守備を安定させてくれる事が期待されたパウリーニョではあったが、マイボールの時間が長くなるチームのスタイルで良さを発揮できず。、こちらは14試合の出場にとどまった。川崎Fには馴染めなかったが、G大阪で才能を開花させたパトリックのように、彼のスタイルが生きるチームはあるはずで、新天地での活躍を期待したいと思う。
チーム編成上、チームを去るのは彼らだけとは限らないが、少なくともジェシとパウリーニョの2人が川崎Fのユニフォームに身を包み、等々力でプレーできるのはこの試合が最後となる。彼ら二人を気持ちよく送り出すためにも、チームには勝利を期待したいと思う。
以上
2014.11.28 Reported by 江藤高志