清水が驚くほど大胆にメンバーを変えたのに対して、逆にG大阪は驚くほどメンバーを変えずに戦った試合。5−2という結果だけを見ると、おもしろみに欠ける準決勝だったと想像しがちだが、実際の試合内容は、ミスの部分さえ除けば非常に観て楽しめる雨中の熱戦だった。
キックオフ約1時間前に先発メンバーが発表された時点で、記者室ではあちこちでざわめきが起こっていた。J1残留が最優先課題である清水は、前節・名古屋戦からスタメンを9人変更し、変わらなかったのはGK櫛引政敏と次節が出場停止のヤコヴィッチだけ。先発11人中7人が21歳以下という非常に若いチームで、1トップの加賀美翔は2年目にしてプロ初出場。その他も今季の出場数が少ない選手が多く、メンバーの入れ替えは予想されていたものの、これほど大胆なのはやはりサプライズだった。
一方、G大阪のほうは、リーグ優勝に望みをつないだ前節・浦和戦からスタメンの変更は3人だけ。ベテランの遠藤保仁や今野泰幸らを休ませることもなく、清水が若手主体で臨むという情報も流れていた中で、こちらは予想以上のフルメンバーという意味でのサプライズだった。ただ、客観的に考えてみれば、リーグ戦は浦和の結果次第(すなわち他力本願)であるのに対して、天皇杯は自力でタイトルを獲得できる状況にある。ならば、そこに全力を注ぐのは当然と言えば当然のことだ。
そうしたメンバー、そしてキックオフ前に強くなった雨の中で始まった試合。立ち上がりは、雨で滑るピッチ上で緊張感もある清水の若い選手たちがミスを恐れて縦に蹴ることが多くなったのに対して、経験豊富なG大阪の選手たちはしっかりとパスをつなぎ、主導権を握る。もちろん、そうなることは清水の選手たちも覚悟していて、自分たちのリズムが出てくるまでは辛抱強く戦うつもりだった。だが、開始9分にG大阪のエース・宇佐美貴史が放ったグラウンダーのミドルシュートをGK櫛引政敏が後方にこぼしてしまい、それがそのままゴールイン。この状況で絶対にやってはいけないミスにより、G大阪に先制点をプレゼントしてしまった。
さらに、その落胆が尾を引いている中での14分、遠藤の左CKをニアサイドで競り勝ったパトリックがうまく流し込んでG大阪が追加点。ここでも警戒していたセットプレーに対する清水の守備はあいまいだった。
この時点では、清水サポーターでさえ「終わった」と思った人は多かっただろう。だが、そうならなかったことが、この試合を非常におもしろくしてくれた。その後、G大阪の選手たちが一息ついて中盤にスペースができ始め、清水の選手たちが試合に慣れてきたこともあって、細かくパスをつなぐ清水の攻撃が機能し始める。「高さではかなわない分、ボールを足下に入れて、数的優位を作って(裏に)飛び出していく」と大榎克己監督が言う形が、サイドを中心に表われ始めた。その中で作り出した20分のチャンスから、ボックス内でボールを受けた加賀美翔が鋭い反転から左足シュート。これがDFの足に当たってコースが変わり、ゴール左に吸い込まれた。
加賀美は、これがプロの公式戦での初シュートだったが、それがなんと初ゴール。ユース時代から見せつけていた勝負強さを、初の大舞台でもしっかりと発揮し、清水サポーターを勇気づけた。これで勢いづいた清水は、その4分後にも狙い通りの攻撃を見せる。この試合ではボランチに入った石毛秀樹が、鋭い出足から中盤でボールを奪ってそのまま一気にカウンター。右でボールを受けた村田和哉が、縦に行くと見せかけて中にドリブルで切り込んでスルーパスを送り、左から裏に飛び出した高木善朗が1タッチシュートをゴール右に流し込んだ。電光石火のショートカウンターは最近の清水の持ち味だが、普段は控えに回ることが多い選手たちがそれをより鮮やかに見せつけ、試合を振り出しに戻したことは、清水にとって本当に大きな収穫だった。
これで試合はがぜんおもしろくなり、その後も一進一退の攻防が続いたが、37分に左の倉田秋のクロスに対してGK櫛引が中途半端に飛び出してしまったことによってパトリックにヘディングシュートを決められ、G大阪が勝ち越し。ここでもミスから試合の流れが大きく変わってしまった。
後半は、清水の若い力を痛感したG大阪の経験豊富な選手たちがうまくコントロールしながら試合を進め、前半のようなスキは見せない。それでも何度か清水がチャンスを作り出したが、そこでは前半のような決定力を発揮できなかった。その上でG大阪は、後半27分にロングボールをパトリックが落としたところから宇佐美が距離のあるループシュートを決めて4点目。ここでも清水の対応が甘かった面があるが、それまであまり見せ場を作れていなかった宇佐美が一瞬のスキを見逃さなかったことは、さすがという他ない。
さらに後半40分には、センターバック、ヤコヴィッチの不用意な横パスを佐藤晃大が奪い、パスを受けたリンスがゴール左隅に決めて5点目。最近のG大阪の良い流れ通り、交代選手たちが活躍して試合を決定づけた。
G大阪としては、絶対に延長戦には持ち込みたくなかったので、90分で勝ち切って決勝戦に駒を進めたことが何より大きな収穫。さらに宇佐美に公式戦8試合ぶりのゴールが生まれ、2トップが2点ずつ決めたことは、今後に向けても大きなプラス要素になりそうだ。
一方、13年ぶりのタイトル獲得の夢が途絶えた清水のほうは、良い面と悪い面が強いコントラストを見せた試合。攻撃面では、未来に向けて楽しみな要素が多く見えたし、加賀美翔、石毛秀樹、金子翔太、水谷拓磨、三浦弦太といった20歳以下の選手たちが、それぞれ持ち味を発揮し、輝きを見せた。しかし、守備ではイージーミスが重なり、5失点中3点はやってはいけない個人的なミスからだったし、他の2点も防げる失点だった。しかも、ミスをしたのが普段試合に出ている選手ということで、ここはJ1残留に向けて早急に修正しなければいけない課題となる。
以上
2014.11.27 Reported by 前島芳雄