本文へ移動

J’s GOALニュース

一覧へ

【J1:第9節 広島 vs 柏】レポート:あえて盾を掲げた剣豪・柏と、それでも矛を突きつけ続けた剣豪・広島。ビリビリとした空気の中、決着はつかず(13.05.30)

やはり。案の定。
柏・ネルシーニョ監督は、FUJI XEROX SUPER CUPで広島相手に試し、そして失敗した3バックを、このタイミングで再び仕掛けてきた。しかしコンセプトは違う。攻撃から守備へ、コペルニクス的転回だ。

前線にはクレオではなく田中順也を1トップに据えて広島の中央からの攻撃起点を監視した。ジョルジ・ワグネルは塩谷司、工藤壮人は水本裕貴、アタッカーがストッパーのマークにつく。守備時には5枚のラインが最後尾に並び、広島の「5トップ」に対応。さらにボランチも後に重心を置いて、シャドーや佐藤寿人の動きに対応した。
まずは、守備ありき。ネルシーニョ監督は前節の浦和戦での教訓から、現実的に勝点1を拾う作戦に出た。大連戦の疲労で体力的な不安もある上に、6失点という大敗で精神的にもショックを受けた選手たちに対して、やるべきことをまず、整理させた。状況は違うが、かつフィリップ・トルシエ氏がフランスに大敗した後、それまでの闘いぶりから一転、守備に重きを置くやり方を敢行してチームを立て直そうとしたスペイン戦を思い出した。

ただ、対広島戦で守備的な闘いを敢行するのは、別に初めてではない。キーマンは、ジョルジ・ワグネル。2011年はミキッチを完全マークし、昨年は森脇良太(現浦和)に張り付いた。そして今回も、攻撃よりも守備に奔走した。試合後、指揮官はカウンターの質に不満を述べたが、あれほど守備にパワーを割けば、それもまた想定内。柏のビッグチャンスは37分、増嶋竜也のフィードに抜け出した田中順也がバーに当てたシュートのみで、特に後半は攻撃の機会をほとんど創ることはできなかった。それでも策士は「我々にとっていい結果」と勝点1に満足気な笑みを見せた。
柏の出方は、広島・森保一監督にしても想定内だった。昨年の闘いでは柏の守備的なやり方に戸惑い、焦りからミスを重ねて失点。相手の術中にはまってしまう「若さ」を露呈した広島の選手たちだったが、その教訓をしっかりと身体に植え付けていた。若き指揮官は選手たちのメンタル的な成長を信じ、柏の策にも落ち着き払っていた。

ピリッとした空気感の中で、剣豪同士がにらみ合う。「少しでも隙を見せたらやられる」(青山敏弘)という重い空気を打ち払うかのように11分、ホームチームが仕掛ける。その起点は昨年、柏の厳しいマークに「何もできなかった」と悔しさを露にした青山だ。
青山がボールを持った瞬間、田中が寄せる。だがそこで彼は、無理に自分で前に運ぼうとはせず、シンプルに素早く縦パスを入れた。その速い判断が高萩洋次郎に前を向かせ、スルーパスを出せた一つの要点。
ミキッチが走り、クロス。石原直樹がニアに詰め、ボールを保持。マイナスクロス。柏、崩れた。その先には、フリーでパク・ヒョンジンが待つ。決定的なタイミングだ。
しかし、今季加入したばかりのルーキーは、ここで痛恨のミス。ファーストタッチに失敗、シュートを打てなかったのだ。

勝負のアヤ、というものを考えた時、このシーンの重要性は時間が経てば経つほど、重きを為す。その後も広島は、千葉和彦のスルーパスからミキッチがフリーで抜け出し、塩谷がオーバーラップを仕掛けて決定的なシュートを放つなど、チャンスはつくった。後半も、佐藤寿人が相手の裏を突いて、あわやPKかというシーンも創出した。青山が運動量を発揮して上下に動きを見せ、高萩といい距離感からのパス交換で柏の守備陣を揺さぶり、ミキッチは強烈な突破で右サイドを完全に制圧した。だが、時間の経過と共に柏の守備はさらに集中を増し、こじあけられても最後の最後に身体を張って跳ね返す。ゴールにたどり着くには、ミリ単位の精密さが必要だった。
しかし、11分のシーンでは、柏の守備もまだ手探り。「エクセレント」とネルシーニョ監督が絶賛した強固な守備は、この時にはまだわずかな隙があった。だからこそ、悔やまれる逸機。左足に抜群の精度を持ち、森保監督の期待も熱い若きサイドアタッカーは、湘南戦でもゴール前でフリーのシーンを得ながら、シュートを打てなかった。試合後のミックスゾーン、パクの表情は悔しさに紅潮していた。
しかし、どんな偉大な選手であっても、失敗はある。重要な分岐点は、その失敗を糧にできるのか、引きずってしまうのか、ということ。もちろん、パク・ヒョンジンは前者だ。ACLからJリーグ、試合を重ねるごとの成長を見れば、前者だと信じることができる。

剣豪同士の果たし合いは、ビリビリとした空気を最後まで保ちつつ、互いに刀を鞘に収めた。決着は11月10日、柏のホームゲームで。トップレベルの実力を持っているチーム同士、次こそは互いにいいコンディションで決戦を迎えてほしい。今は、心地よい疲労感に身を委ね、次への期待感に心を躍らせながら、リーグ中断期間を過ごしたい。

以上

2013.05.30 Reported by 中野和也
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

J.LEAGUE TITLE PARTNER

J.LEAGUE OFFICIAL BROADCASTING PARTNER

J.LEAGUE TOP PARTNERS

J.LEAGUE SUPPORTING COMPANIES

TOP