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【J1:第4節 川崎F vs 甲府】レポート:組織力の甲府に苦しめられた川崎Fが、土壇場で同点に。勝ち星のないチーム同士の対戦は、引き分けで決着(13.03.31)

川崎Fの選手の、サポーターへの思いは強い。どんなに厳しい試合でも、負けが込んでも、無私の精神で応援を続けてくれるサポーターに対し、敬意と感謝の気持ちを持っている。だからこそ、今季初めての等々力での試合にかける思いは強かった。そして、その思いに今季一度も勝ててないという状況が拍車をかけた。ただ、川崎Fは前半をうまく戦うことができなかった。勝ちたい思いが空回りしたのか、チームはその方向性をまとめられずにいた。そんな状態にあるチームにとって、甲府との対戦は悪夢のようなものだった。

チームとしての組織力と、選手個々が発揮するひたむきさとに後押しされた甲府の前に、川崎Fは思うようにパスを繋ぐことができなかった。川崎Fの良さを消し、粘り強く守備を続ける甲府は、前半12分にシンプルなパスワークでゴールを陥れる。「(羽生直剛に)当てて走ろうと思ってました。羽生さんといい関係を作れました」とその場面を振り返る松橋優は、その羽生と「相手が4−3−3なので、駆け引きしながら上がっていこうという話はしてました」と述べている。ごくシンプルなワンツーパスでサイドを突破した松橋は「なかなか自分もあんなにいいクロスは上げられることがない」と謙遜する素晴らしいクロスを中央に入れる。そこにDFを振り切った平本一樹が走りこみゴール。羽生家に生まれた赤ちゃんにゆりかごダンスを捧げる、という約束を忘れるほど、平本にとってはうれしいゴールだったという。勝ち星がない苦しいシーズンで、地力に勝る川崎Fを相手にしたアウェイゲームでの先制点は、ベテランの平常心を奪うほどの大きさだった。と同時に、川崎Fにとっては、ここまで消化してきたリーグ戦4試合、ヤマザキナビスコカップ1試合のすべての試合で先制点を奪われるというショッキングな瞬間でもあった。

問題はどこにあるのか。どうやら選手個々の考えにズレが生じているようである。例えば守備については、西部洋平がこんな説明をしている。「鳥栖戦(第3節)でああいう負け方をして、そこから少し守備的にはなっていると思う。(その守備のやりかたを)揃えないと、というのはあると思う」と振り返る。
その一方で、大久保嘉人は攻撃面でのズレについて解説する。「今日に限っては流動性がなかったですね。今までの2試合とは違って、みんな止まって出して終わり。最後はパトリックの頭、になってしまう。そうなるとどうしても難しい」
守備が決まらず、攻撃ではその場に足を止めて流動性をなくす。そうした川崎Fに対して甲府が運動量を伴った組織的な守備で対抗。そうなるとどうしても苦しい戦いにならざるをえない。前半の川崎Fの悪さと、甲府の先制点はそういう意味では必然的なものだった。

もちろん、川崎Fがそのまま指をくわえて黙って試合を終えるわけがない。ホームで負けられない川崎Fは試合途中にワンボランチだった山本真希に中村憲剛を並べる形でシステムを変更し、ピッチ中央でのボールの奪い合いで優位に立つことを目指し、ある程度それを実現させている。前半のハードワークの影響もあり、甲府の運動量が落ちた後半に川崎Fがペースを取り戻すのはそういう意味でも必然的な流れだった。

甲府の交代采配は、基本的に守備を考えてのものである。56分の保坂一成から山本英臣への交代は、前半からピッチ中央で川崎Fの選手にプレスをかけ続けた保坂の消耗を考えれば当然のもの。平本の交代について城福浩監督は「前線へのプレッシャーが少し弱まって、相手にDFラインから良いフィードされていた」ためであり、ここに圧力を掛けたかったのだと説明。前半から攻守に貢献していた羽生の水野晃樹への交代も、羽生の疲労を考えれば妥当であろう。
この采配が甲府の選手のメンタルに守備を意識付けた訳ではないとは思うが、1点をリードした敵地での試合終盤。勝ちたい気持ちが引き気味の守備陣形を取らせた側面は否定できない。もちろん、ホームで負けられない川崎Fのなりふり構わない前への気持ちがそこに加わる。後半の川崎Fの攻勢は、そういう意味でも必然性を持っていた。

だからこそ、レナトが手にした64分のPKと、その失敗は川崎Fにとって致命傷になりかねない危うさがあった。しかし意外と選手は冷静さを保っていたという。例えば大久保は「まだ時間はあったから。そんなに焦ることもなかった。それでレナトが落ち込んじゃったらチームとしても良くないから、大丈夫だよと。PKは誰かのせいでもないし、あんなの運だし。問題なかったです」と話し、レナトを気遣う言葉を残している。
そんな大久保の言葉に気持ちを強く持ったのかはわからないが、試合終了間際の88分。レナトからのクロスを大久保がエリア内でヘディング。一度はGK河田晃兵に阻まれるも、このこぼれ球を詰めた矢島卓郎が押し込み土壇場で川崎Fが同点に追いつく。

結果的に試合は1−1で終了するが「残念な結果でした。ホームで初めてできましたし、勝ちたかった試合でした」と話すパトリックに代表されるように悔やしさを見せるのは川崎Fの選手たち。その一方で、同点に追いつかれた甲府の羽生は、チームメイトから試合後に勝てないことを謝罪されたと振り返りつつ「(GK河田が)PKを止めてくれたし、相手のシュートがポストに当たる場面もあったし、ラッキーだったところもある。アウェイでしたし、それをポジティブに考えたい」と前向きだった。

この試合をどう捉えるのかはそれぞれの立場や考え方による。ただ、川崎Fの戦いのズレは、西部や大久保の話を聞く限り話し合いで修正できる類のもののようだ。ここまで積み上げてきたサッカーのベクトルを合わせるだけでいい。そして、それはそう難しいものではない。選手たちがそう言っているのだから、もう少し彼らの修正能力を信じてみようと思う。チャンスを作れているだけに、歯車が噛み合いさえすれば、問題はない、はずだ。

土壇場まで勝利の可能性があった甲府にとっては、もしかしたら後を引く引き分けなのかもしれない。ただ、それは前述の羽生の言葉にもあるように前向きに考えることが可能なものでもある。そして少なくとも前半に関しては素晴らしい戦いができていた。勝点を2つ落とした戦いだという表現は可能だが、0にならずに済んだ試合でもあった。そう考えて、甲府にとって前を向くことのできる試合だったのだろうと思う。

以上

2013.03.31 Reported by 江藤高志
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