「シュートの本数で得点が決まるわけでもなく、ポゼッション率でも勝敗は決しない。」
今節のプレビュー冒頭に書いた言葉である。シュート数はほぼ同じでも、CKでは圧倒的にG大阪に上回られた第5節。だが鳥栖は完璧な試合運びで勝利したシュート数はほぼ同じ、CKでは圧倒的にF東京を上回った第6節。1点は返したものの、あと1点が遠く敗れた鳥栖。
今節の鳥栖は、敵将に「あの2発以外は崩されていない」と言われても、完勝だった。相手は違えど、鳥栖の戦う目的、意図するサッカーは同じ。しかし、そこには実際に対峙した選手にしかわからない“奥深さ”があるのだろう。今節のレポートは、選手のコメントを引用しながら、その“奥深さ”をお伝えしたい。
F東京戦を終えた豊田陽平は、「相手に読まれていたようだ」と振り返った。クロスやフィード、ロングスローなど手元の集計ではあるが50本以上を前線に入れて攻めた鳥栖だったが、85分に入れた1点だけで終わった。
「F東京よりも、引いていた」と司令塔の藤田直之は今節を振り返った。DFラインを下げていたわけでなく、守備の時には両ウィングバックが最後尾まで下がって5バックで守る甲府の守備をそう表現した。「とてもやりづらかった(藤田)」そうである。そんな相手をどうやって崩したらいいのかを、小林久晃は「焦らずにボールを回すこと」と前日の練習後に語っていた。甲府の守備と対峙した鳥栖の選手たちは、小林の言葉通り焦らずボールを動かしながら甲府の守備を緩めていった。
「鳥栖ボールならば、『それがどうなんだ』というつもりでやっていた(城福浩監督)」甲府は、ボールを奪うところと鳥栖にボールを持たせるところを使い分けながら守備に時間を割いていた。焦らずにボールを動かす鳥栖と、それをわかってボールを持たせていた甲府。双方の意図するサッカーにはなっていたのだろう。
ただ、それだけでは得点は生まれない。相手の堅い守備ブロックを緩め、隙を突いてシュートを放たないとゴールは生まれない。それを実践したのが池田圭だった。
試合開始からDF裏だけを狙うのではなく、中盤からのボールを受ける“くさび”の動きを繰り返していた。相手DFの距離を広げるためには、逆サイドへの展開と縦へのクサビのボールを用いることはサッカーでは常道。この日、ボランチに入った岡本知剛は交代するまでボールを縦へ横へと動かし続けた。それがゴールという形になったのが23分。
GK林彰洋からのロングフィードを前線で競った後、ボールを拾った金民友が右サイドの水沼宏太に送り、DF裏へ抜け出した池田が右足を振り抜いてゴールネットにボールを突き刺した。ゴールに至るまでに、クサビで受ける動きとDF裏へ抜ける動きを繰り返していたからこそ生まれたゴールだった。
このゴールで、前へ出ざるを得ない状態となった甲府に追い打ちをかけたのが、後半開始16秒だった。後半のキックオフボールを前線で競った豊田の足もとにボールがこぼれてきた。迷わず右足で振り抜いたボールはゴール左隅に突き刺さり、さらに甲府は前がかりにならざるを得ない状態となった。
「鳥栖に点が入ってから、甲府がボールを持つ時間が長くなって、やっと前への推進力が出せた」と新井涼平は振り返った。55分に運動量のある下田北斗を2列目に入れた。70分には松本大輝も入れて前線を活性化した。ただ、ボールを回す位置が高くなり鳥栖ゴールには近づきはするものの、決定的な場面を迎えることは少なかった。前線にパワーを掛けることはできたものの、個人の力量による突破を試みるだけで、鳥栖の守備を崩すことができなかった。ここでも、小林(鳥栖)の言った「焦らず…」が実践できていたのだろう。この日はトップの位置に入った盛田剛平の言葉が、甲府の攻撃のすべてを物語っている。「今日は点が取れなかったことが…。明人(河本)がドリブルで突っかけて自分がポストでポンポンとはたいたり、マルキーニョスが縦に抜けてサポートに来てくれて中でやれる場面もあった。そういうのでも崩せたらよかった」
ゴールさえ決まれば、その試合は勝てるかもしれない。しかし、長いリーグ戦では相手も研究してくるし、コンディションの良し悪しも影響するだろう。そんな時に相手をどのようにして崩し、ゴールに迫るのか。この試合で見せたFWとしての池田の献身的な動きが、後々大きな意味を持つような気がしてならない。得点を取ったことにだけ目が行きがちだが、ボールを受ける動きと裏に抜ける動きが甲府の守備を一瞬だけ緩めたのではないだろうか。
彼自身にとっては開幕戦以来の得点だが、この1点は残りのリーグ戦を戦うための大きな1点だったと感じた次第である。
公式記録には得点者しか載らない。得点者がその結果を出すためにどれだけ走ったのかや駆け引きをどこから行っていたのかは残らない。見ている人の記憶にも残らないかもしれないが、決めた本人にはその感触と経緯ははいつまでも残るものである。
『サッカーの華』と言われるゴール。その華には多くのプロセスが存在している。サッカーは、『木を見て森を知る』スポーツなのである。
以上
2014.04.13 Reported by サカクラゲン
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