スタジアムを熱くさせたのは17.7度という4月下旬の温かさだけではなかったはずだ。勝利した柳下正明監督が「スピーディーでタフなゲーム。お互いどっちに転ぶかわからないゴール前でのプレーが結構あって、見ている人は楽しめたんじゃないかな、と思います」と言えば、敗れたトニーニョ・セレーゾ監督も「前後半ともに非常にすばらしい試合内容を示すことができたと思います」と振り返る。手に汗握る攻防が90分通じて見られる、お互いの長所を出し合う好ゲームだった。
鹿島は、今季これまでの公式戦で1トップを務めてきたダヴィが出場停止。代わりに赤崎秀平がプロ初先発を果たした。今季は、ダヴィの突進力を活かした縦に速い攻撃が基準となっていただけに、戦力ダウンが心配されたが、赤崎は最初のプレーでその不安を払拭する。素早い動き出しでDFラインからのパスを引き出すと、適確なトラップでボールを収め、右サイドの遠藤康にはたき、守から攻へ切り替わる役目をいとも簡単にこなす。その後も、あるときはスペースに飛び出し、あるときはポストに入って味方とワンツーをこなし、あるときはマークを引き連れて味方がドリブルを仕掛けるスペースをつくる。特に土居聖真との連携はすばらしかった。
しかし、先制点を奪ったのは新潟。序盤から攻め立てる鹿島の攻撃を受け止めると、20分、岡本英也と交差して相手のマークをはがした川又堅碁の動きを見逃さなかった成岡翔が、ファーサイドにクロスを送る。これを川又がダイレクトボレーでシュート。コンパクトに振った左足のシュートを逆サイドに流し込み、一瞬の隙を突いて先制点をものにした。
最初の1点を奪われたことで、より攻勢に出る鹿島。それを激しいプレスで絡め取り、ショートカウンターを仕掛けようとする新潟。マンツーマンディフェンスの新潟は、1枚はがされるとカバーリングが遅くなる。30分、山本脩斗が左サイドをスルスルと抜け出すドリブル突破から、最後は土居聖真が詰めて同点に追いつく。「人に強く来るから1人をはがせればチャンスになると思っていた」(土居聖真)。鹿島がはがすか、新潟が奪いきるか、試合はより一層激しさを増していった。
ただし、新潟にはレオ・シルバがいた。互いにカウンターの応酬となったとき、鹿島が相手をはがしてつくったはずのチャンスには、必ずレオ・シルバが立ちふさがった。68分には素早いい切り替えから、5対2の絶好機をつくったが、柴崎岳のドリブルが少し大きくなったところをレオ・シルバに絡め取られてしまう。これには柴崎岳だけでなく、遠藤康らの他の選手もガックリと膝に手をついてしまった。すると74分、新潟は粘り強いプレーから高い位置でボールを失うと、鈴木武蔵の折り返しを青木剛がクリアしようとしたボールが自陣ゴールに吸い込まれてしまう。終了間際、怒濤の攻撃で反撃を試みた鹿島だったが、新潟GKの守田達弥の奮闘もあり、新潟が公式戦4試合ぶりの勝利をあげた。
試合開始前、鹿島サポーターからは何度も曽ヶ端準の名前がコールされた。この日の出場で217試合連続出場(J1新記録)というとなる大記録を更新した曽ヶ端は、「結果がすべて。負けたら意味がない」と、言葉少なにスタジアムをあとにした。大記録更新を勝利で祝えなかったのは鹿島にとって痛恨。しかし、結果は新潟に屈したが、試合ごとに若い選手たちは自信を身につけ、より高いレベルの試合を見せるようになっている。
川又堅碁と共に、日本代表候補に相応しいプレーでスタジアムを沸かせた柴崎岳も「特に悲観する内容ではなかった。チーム的に結果は出なかったけれどパフォーマンスは悪くなかったと思います」と、胸を張っていた。
以上
2014.04.13 Reported by 田中滋
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