今季最大の鬼門攻略、やはり一筋縄ではいかなかった。それだけに決勝点のインパクトは絶大だったが、一方で残念な部分も多い。収支はプラスマイナスで言えば少しだけプラスといったところ。今季のホーム最終戦、8戦未勝利だったホーム豊田スタジアムでの勝利を、“終わりよければすべてよし”と言い切るにはやや苦しい。「ずっと押し込まれた中で、最後の最後で一発で点が入る。今季のグランパスはそこで結果を出してきた」と玉田圭司はこの試合を評した。その言葉には良い悪い、両方の意味が込められている。
前半はクオリティが見える試合だった。名古屋は大方の予想通り、出場停止の本多勇喜の代役にダニルソンを置き、ボランチに矢田旭、前線に玉田を配する布陣でスタート。対する大宮はボランチに増田誓志が戻り、前線はズラタンとムルジャのツートップで臨んできた。名古屋は不慣れな左サイドバックでダニルソンが不安定なプレーを連発していたが、大宮も前線にうまくボールが収まらず、隙に付け入ることができなかった。守備においても「今日は裏のスペースを消すことを意識した」と渋谷洋樹監督は話したが、DFラインの反応は鈍かったと言わざるを得ない。開始早々にそのスペースを突かれて失点したからだ。
6分、敵陣右サイドから中へとドリブルしていた田口泰士が、左足で切り返すように縦へのフィードを送る。DFライン裏に抜け出したのは永井謙佑だ。落ち着いたコントロールから右足を振り抜くと、ボールはGK清水慶記の脇をすり抜け逆サイドネットに吸い込まれた。「泰士はオレの動きをよく見てくれますからね。裏のスペースもけっこうルーズに空いていたし」と振り返った永井はこれでキャリアハイの11得点目。2列目からの得点の取り方を会得したスピードスターは、今や押しも押されもせぬ前線のエースだ。
しかし名古屋の先制以降、前半を沸かせたのは大宮の方だった。とりわけ、家長昭博はすさまじい存在感を発揮した。立ち上がりこそうまくボールを受けられなかったが、失点後は右サイドでシンプルにパスを引き出し、1対1で無類の強さを見せた。対人能力ではリーグ屈指のダニルソンをまるで子ども扱いにし、次々と右サイドを突破。スピードと駆け引きのドリブルと、安定したフィジカルを駆使したボールキープで起点となり、瞬く間に主導権を大宮側に引き寄せてみせた。惜しむらくは、ツートップとうまく呼吸が合わせられなかったことか。家長の存在感ほどには、大宮はチャンスを生み出すことはできなかった。
前半は1−0のまま折り返し、情勢はやや大宮よりといったところ。先制以外は低調だった名古屋と、早く同点に追いつきたい大宮の両指揮官は後半へ向け、ともに迅速に手を打った。西野朗監督は田鍋陵太に代えて磯村亮太を投入。これまでの起用法からはサイドバックに入れてダニルソンを中盤に戻すかと思われたが、磯村はそのまま田鍋が務めた右サイドハーフのポジションへ。対照的に大宮は増田に代えて今井智基を入れ、右サイドバックへ。右サイドバックの中村北斗を左へ配置転換し、そのポジションにいた和田拓也をボランチへスイッチさせた。この采配が、試合の流れを大きく変えた。
後半開始早々に家長が右サイドを突破しズラタンに決定機。そこで得たコーナーキックから高橋祥平がヘディングシュートを放つなど、入りをものにしたのは大宮だった。ダニルソンのサイドバックは本人もストレスを溜めこんでいるのは見え見えで、前半よりもその質を下がる一方。そして5分後、そのストレスが最悪の事態を呼ぶ。大宮の右サイドのビルドアップを阻止しようとダニルソンが前に出る。それを田口は制したが、急造左サイドバックのストレスは頂点に達していた。持ち場を離れたプレッシングがかわされ、スペースに走り込んだムルジャにスルーパスが通ると、最後は中央に飛び込んだ橋本晃司に冷静に流し込まれた。今季、磯村はサイドバックでの起用が多く、本人も「出るならボランチかサイドバックと思っていた」と準備もできていた。確かに家長への対応は考慮すべき部分ではあったが、結果的にはダニルソンのサイドバック継続は裏目に出た。「スムーズな左サイドの連係ではなかったから、そこを突かれた」という楢崎の言葉は、暗にその部分を指摘したものだ。
そして失点を機に、名古屋の組織は控え目に言って崩壊した。各ポジションの選手が思い思いの判断でプレーし、そこに連動性が感じられない。65分には玉田に代わり松田力が投入されたが特効薬にはならず。ある時などはリスタートを巡って楢崎と田中マルクス闘莉王が激しく言い合うなど、チームとしてのストレスも最高潮に達した。大宮はその間、70分のムルジャの決定機や79分の家長の突破など、名古屋を攻めたてた。85分には今井のクロスにムルジャがダイビングヘッドを見せたが枠を捉えることができず。名古屋も反撃のチャンスはあったが、前線のストライカーたちが迫力を欠いた。
迎えたアディショナルタイム。試合の決着は唐突に、そして劇的に訪れた。両チームそれぞれの問題を抱え、終盤に試合は膠着。大宮の渋谷洋樹監督は86分にムルジャに代えて長谷川悠を入れ、クロスに活路を見出していたが、効果は得られていなかった。最終的に采配を当てたのは西野監督だ。前線の活性化を見込んで起用した松田が機能しないと見るや、交代出場から27分で小川佳純に代え、引退を決めた中村直志をホーム最終戦で起用しないという非情の決断を下す。
1分後、試合は決した。左サイドで小川が永井へのパスから得意のフリーランニングを見せると、その間に永井が追い越してきた田口にDFの股を抜くスルーパスを通す。田口が追いすがるDFを切り返しでかわし中央に折り返すと、走り込んだ小川が冷静に、しかし渾身の力を込めてゴールに叩きこんだ。
「自分が入って良さを出すなら、二人三人と絡んでチャンスを作って、その中でゴールを生むこと。少ない時間でもそれを示すことができたのは良かったです」(小川)。
今季の豊田スタジアムでのリーグ戦初勝利を生む、まさしく値千金の一撃。今季はベンチ暮らしが増えた背番号10の意地を見た。
寸でのところで勝点を逃した大宮の落胆ぶりは痛々しいほどだった。指揮官は「まだチャンスが与えられている」と前を向いたが、選手たちの目に光は少ない。次に賭けるしかないことは理解できていても、この敗戦のショックはそう簡単に切り替えられるものではないのだ。「ここで頑張らないでいつ頑張るんだ」と橋本はうつむき加減に絞り出すのがやっとだった。
今季初の歓喜に沸いた名古屋も、試合後はしんみりとした雰囲気が漂った。昨季と同様、チームを長らく支えた功労者たちが別れのセレモニーに臨んだからだ。ケネディは「5年半ありがとう。今日の勝利は喜ばしいが、別れは寂しい」と言い、玉田は「ストイコビッチ前監督からメッセージが来ました。『君はベストプレーヤー。まだまだできるから、頑張れ』と。この情熱が消えない限り、サッカーを続けます」と秘話を交えてあいさつした。ホームで最後の勇姿を見せられなかった中村だったが、「14年間同じチームで、こうして挨拶できることを誇りに思う」と納得した表情だった。彼らの功績は、名古屋のクラブ史に永遠に刻まれることだろう。
それでも、終わりよければ…にしてはいけない内容の試合ではあった。今季の戦いにしてもそうだ。
「直志が出られる状況にしてやりたかったというのは、出ている選手全員が思っているとは思う。もうちょっと上位を争っている状況でこの結果ならいいけど……。まあ、勝てて良かったです」
楢崎の感想が掛け値なしのこの試合の評価だろう。次は優勝がかかる浦和のホームに乗り込む。他人の土俵ではあるが、頂点を争う緊張感を少しでも若い選手たちが感じ取り、責任あるプレーを見せてほしいもの。世代交代が進んだ、というだけで、変革のシーズンを終わらせてはいけない。
以上
2014.11.30 Reported by 今井雄一朗