14年のJ2・J3入れ替え戦は、因縁浅からぬ両者の対戦となった。
2010年に千葉・市原市で行われた全国地域リーグ決勝大会。カマタマーレ讃岐は1位、AC長野パルセイロは2位でJFL入りを決めた。このときの直接対決は0-0のまま、大会の規定によってPK戦が行われ、讃岐に軍配が上がっている。JFLの対戦成績は2011年が1勝1敗、12年も1勝1敗、13年は2引き分け。直接対決の結果はどの年を見ても拮抗している。
長野は昨年のJFLを制し、天皇杯でもベスト16進出という快挙も成し遂げた。仮に長野がJ2ライセンスを持っていれば、自動昇格が可能だった。しかしホームの南長野運動公園総合球技場はJ2の規格に達しておらず、改修工事が着工したのは翌14年の1月。長野にとって昇格を懸けた勝負のシーズンは14年のJ3で、昨季は基盤作りの1年だった。長野は14年から発足したJ3でも優勝争いに絡み、ツエーゲン金沢にこそ及ばなかったが2位を死守。自動昇格は逃したが、入れ替え戦の出場権を得ている。
讃岐は昨季のJFLを2位で終え、鳥取との入れ替え戦を制して今年から晴れてJ2に昇格を果たした。開幕から7連敗、14戦勝ちなしと厳しい戦いを強いられたが、J2の戦いを通してチームは粘り強さを獲得。シーズン折り返しの第21節では「11」に止まっていた勝点も、最終的には「33」まで積み上げ、自動降格を免れている。
讃岐にはJ2を1シーズン経験したアドバンテージがある。長野の美濃部直彦監督も「守備のところで非常に粘り強くなった」と讃岐の成長を警戒する。相手の強みを消す戦術的な対応力と、J2の壁に当たりながら培った粘り強さは、こういう大一番で生きる要素だ。攻撃陣を見てもアンドレア、木島良輔と“個”で打開できるタイプが揃っている。
とはいえ長野も美濃部監督が2年間かけてチームに植え付けた精密なパスワークがあり、やはり“個”のアクセントがある。宇野沢祐次、勝又慶典が組む2トップは切れとスピード、そして連携がピカイチ。長崎から期限付きで加入した山田晃平は、そのドリブルを生かして左サイドで輝いている。
宇野沢は前線でボールを収め、運ぶだけでなく、今季はチーム最多の16得点。しかもキャプテンを任されるという、チームの絶対的存在だ。長野在籍は今季で5年目だが、柏に在籍していた04年には史上初のJ1・J2入れ替え戦に出場し、第2戦でアビスパ福岡からゴールも挙げている。“史上初のJ2・J3入れ替え戦”でも、彼の活躍に期待がかかるところだ。
守備を見ると川鍋良祐、大島嵩弘、松原優吉が組む3バックは大型で、ビルドアップも十分。守護神・田中謙吾が「ゴール前で身体を張ってくれますし、キーパーの位置を考えてコースを切ってくれる。フリーでクリーンに打たれることは、今シーズンほとんどなかった」と舌を巻く粘りを持つ。
長野にはクラブとしてJ2経験がない。しかしJ2経験がない選手には、キャリアがないからこそ、上のカテゴリーへの強烈な想いがある。
大卒3年目のGK田中謙は「大学時代からJリーガーに絶対なりたいと思っていた。J3はできましたけれど、自分の中で本当のプロリーグはJ2からだと思っている。まずスタートラインに立たないといけない」と意気込む。大卒2年目の右ウイングバック西口諒は「昔から憧れている夢に、もう少しで届くというところまで来ている。死に物狂いでやりたい」と自らを鼓舞する。
長野の強みと想いは、決して讃岐に劣るものではない。となれば2014年の対決も、過去3年と同様に拮抗した勝負になるのではないだろうか――。
J2とJ3はベンチ入りの人数、交代枠に違いがある。長野のホーム東和田で行われる第1戦は「ベンチ入り5人、交代最大5名」というJ3のレギュレーションで行われる。また入れ替え戦ではアウェイゴールルールが適用され、勝点と得失点差が同じだった場合は、アウェイで決めたゴールの多い側が勝者となる。従って第1戦はおそらくゴールを獲りに行く讃岐、慎重にロースコアゲームを狙う長野という構図になるだろう。
以上
2014.11.29 Reported by 大島和人