前半を終えてロッカーに引き上げる選手達にスタンドの一角から向けられたのは拍手ではなく、期待感の裏返しとも取れるブーイングだった。前半のシュート数は山形の9本に対し、15分に齊藤和樹が放った1本のみ。後半の内容を見れば、数字通りの力の差があったとは言い切れない。つまり、この時点での0−3というスコアそのものより、リーグ戦終盤にきて継続して披露できていた、球際やセカンドボールの争い、切り替えといった「今シーズンの拠り所」とも言うべき要素をほとんど見せることができずにいたことに対して、それは向けられたのである。
そうしたベースになる部分が発揮できていなかったことに加え、「足元のパスが多くて、スペースに走ることもできなかったし、僕らのいいところが出にくかった」と、巻誠一郎は見ていた。仲間隼斗も「うちが負けてはいけないところ、アグレッシブさが足らなかった」と、ベンチから見た前半の印象を振り返る。
山形が先制した10分の場面は、「スカウティングで前に出てくることが分かっていた」と、GK畑実のポジショニングや特徴を踏まえた上で、「最初のセットプレーだったし、位置もクロスを入れやすい距離だったので1本打ってみよう」と判断した宮阪政樹の質の高いキックによって生まれたものだが、山形の早い出足を受けて熊本が後手を踏んでしまったことも関係した。3−4−3の布陣でスタートした山形は、ディエゴ、川西翔太、山崎雅人の前3人が高い位置から細かくチェックをかけて間合いを詰める。これが結果として、熊本がビルドアップしていくための“判断の時間”も奪うことにつながった。合わせて4の両翼、山田拓巳と伊東俊の左右ウイングバックが最終ラインにまで入ってスペースを埋める守備対応でペースをつかむと、ディエゴらに当てた後のセカンドボールを回収、そこでポイントを作って熊本の中盤をボールサイドに寄せ、再び中に生じるスペースにつける形でリズムを掌握していった。30分にはディエゴが中央でキープしてタメ、左を上がってきた伊東にはたくと、伊東からのダイレクトの折り返しに山崎が詰めて2−0。さらに44分にも、カウンターで持ち込んだ山崎が一度はパスをひっかけたものの、こぼれ球を左足で思い切って狙い3−0とした。
早い時間に簡単に先制を許したことは、熊本から落ち着きをも奪った。守備でリズムをつかめないことで、攻撃でも奪って1つめのパスをひっかけたり、コンビネーションが噛み合っていない状態で無理やりつけてロストしたりと、この数試合からすれば「らしくない」場面を頻発。攻撃も単調となり、相手に怖さを与えることはできていない。
試合後、「修正に時間がかかった」と振り返った小野剛監督は、ゲーム中に選手達が主体的に判断し、流れを引き戻すのを期待していたことも明かしたが、後半の頭からは巻と仲間をピッチに送り出し、さらに中央にいた園田拓也と右サイドにいた篠原弘次郎を入れ替える形で最終ラインの並びに変化をつけた。これにより流れは一転、前半は見られなかったサイドのスペースへの配球やドリブルでの仕掛けで熊本が攻勢に転じる。得点に結んだのは68分。ボックスの右外で齊藤がファウルを受けて得たフリーキック、高柳一誠からのボールを園田が頭で合わせ、まずは1点を返す。その後も75分に橋本拳人からのクロスに齊藤、85分に巻、89分に高柳、90+3分には左からの黒木晃平(76分にキムビョンヨンに代わって途中出場)のニアへのクロスに澤田崇と、後半だけで12本のシュートを放つなどアディショナルタイムにかけてもチャンスを量産。しかしネットを揺らすことはできず、4試合ぶりの敗戦となった。
山形は、石崎信弘監督も言及しているように後半の戦い方に課題を残したが、積極的なプレッシャーで熊本に自由を与えず、さらには山崎の2つの得点にも表れている通り、ゴールに向かうアグレッシブさも奏功した。プレーオフ圏への再浮上にも望みをつないで、残り3試合の可能性にかける。
一方の熊本は、後半に本来の姿勢を取り戻して盛り返し、数多くの決定機を作れたからこそ、山形の流れに引き込まれた前半の戦いぶりが悔やまれる内容となった。残念ながらプレーオフ進出の権利を得る6位以内は消えたものの、あと3試合で順位を上げる可能性は十分残されている。「次はホームの最終戦ですし、サポーターも選手もいろんな思いがあると思う。また1週間、真摯にサッカーを向き合ってトレーニングしていくべきだし、それができるチーム。下を向かず、継続してやっていきたい」と巻は言う。
愛媛を水前寺競技場に迎える次節(11/9)は、0−4と苦杯を舐めた前期対戦のリベンジを果たすだけでなく、チームの成長ぶりを見せなくてはならないホームでのラストゲーム。今シーズンの集大成として、しっかりと締めくくりたい。
以上
2014.11.02 Reported by 井芹貴志