前節は「ウチが苦手とするサッカー」(小野剛監督)を徹底された中、守備陣、というよりも、ピッチに立った11人+3人、もっといえば、この一戦に向けてトレーニングの質を高めたチーム全員と、そしてバス9台以上で乗り込んだサポーターの皆で、3試合連続となる無失点ゲームを演じて5試合ぶりの勝利を挙げた熊本。シュートはわずか3本にとどまったが、前半10分の左コーナーキックから園田拓也がキッチリと決め、1−0を理想のスコアに掲げる指揮官率いる長崎を下した。押し込まれる中でも耐えて「決めるべき時に決める」ことで勝点3を得たゲームはしかし、とらえ方によっては「こっちのレールの上に」(同監督)引き込んだ展開だったと言っていい。得点も決して偶然に生まれたものではなく、嶋田慎太郎のショートコーナーからワンタッチのパスを6本つなぐという、関わった選手のイメージやタイミングが見事に連動した素晴らしいゴールだった。
この勝利により順位は14位に浮上。残り4試合で6位の大分との勝点差は10と、地力だけではなし得ないもののJ1昇格プレーオフ圏進出の可能性はまだ残る。少なくとも自らの手でできることは最後まで完遂したい。まずは今節、勝点差9の山形を直接たたくことで、道を拓かなくてはならない。
その山形、前節は早い時間にキム ボムヨンが警告2枚で退場したこともあり、4失点を食らって横浜FCに敗れ、1度は到達したプレーオフ圏から再び外れてしまった。しかし一方で天皇杯ではベスト4まで進出。熊本と対戦した2回戦以降、メンバーを入れ替えながらもすべて1−0のスコアで勝ち進んでいる。さらに前節もゲームの流れに応じて細かくシステムを変えるなど、石崎信弘監督の綿密な采配もあり、4失点しているものの守備に問題を抱えているわけではない。30節の水戸戦から3バックの布陣を採り入れたことにより、相手ボール時のプレッシャーがかかりやすくなり、また攻撃では前3人の関係でゴール近くでのチャンスを作る回数も増えるなど、攻守の役割が明確化したことで終盤に入って順位を上げてきた。大分を勝点差1で追う状況にあって、山形にとっても連敗は避けなくてはならない一戦である。
熊本は今シーズン、天皇杯2回戦も含めて山形とは2度対戦して1勝1敗だが、この2試合はいずれも、まだ山形がシステムを変える前での対戦。ただ園田、橋本拳人のCB2人が「能力の高い選手が揃ってる」と口を揃える通り、自由にプレーできる余裕を与えては失点のリスクが増すことは明らか。ここまで13得点のディエゴ、また天皇杯で試合終盤に決勝点を許した山崎雅人、そして前期の対戦でも得点を与えた川西翔太、この3人を個の局面でも抑えつつ、良好な関係を断ち切る守備が求められる。
その点、前節・長崎戦での経験が生かされる側面もあるが、山形の場合はさらに、ボランチの宮阪政樹にも警戒が必要。出どころを潰す、また遠目から狙うミドルの可能性も消し込むという意味でも、ここ数試合表現できている全体のラインの押し上げを継続することが、この試合でも不可欠。「天皇杯が今年初めてセンターバックとしてプレーした試合で、自分がマークしていた山崎選手に決められたので、あれからどれだけ成長したかを見せたい」と橋本は言う。
もう1つポイントになるのが、攻守の切り替えだ。ここ数試合、後半に入ってから齊藤和樹や澤田崇がスペースに抜け出す場面を作れているが、この試合でも早い切り替えから相手3バックの脇、左右のスペースを衝けるか。長崎戦で至近距離からボールを顔面に受けて早々に交代した片山奨典は木曜まで全体トレーニングを回避しており左サイドバックは代わる可能性が高いが、どれだけ両サイドでボールを引き出せるかが、攻撃で主導権を握れるかにも関わってくる。2試合の出場停止が空けて長崎戦でベンチ入りしていた仲間隼斗もコンディションを戻してアピールしているが、37節磐田戦から意図している的確なサポートを繰り返してテンポ良くボールを動かせるか、そのための2列目の連携にも注目したい。
この試合を含めホームゲームはあと2試合だが、40節愛媛戦は水前寺競技場で開催されるため、うまかな・よかなスタジアムでのゲームは今シーズン最後となる。今季限りでの引退が発表された藤本主税と吉井孝輔の花道を飾るのもさることながら、自分たちで掲げた目標に手をかけるためにも、結果を出したい。
以上
2014.10.31 Reported by 井芹貴志