本文へ移動

J’s GOALニュース

一覧へ

【J1:第30節 清水 vs 広島】レポート:広島が完璧な試合運びで3−1の完勝。清水は、第一の広島対策は機能したが、もうひとつは機能せず。(14.10.27)

「非常に効率の良い点の取り方をするチーム」
試合前に大榎克己監督が語っていた広島の印象だが、まさにその通りの3得点だった。しかも、そのうちの1点目と3点目は、広島の大きなサイドチェンジから生まれたもの。そこもこの試合におけるひとつの焦点となっていた。
清水の大榎克己監督が、広島に対してもっとも警戒し、対策を施してきたところは「攻撃に入った時には4-1-5のような形になって(5トップのうち)シャドーの動きをしている石原くんと野津田くんが、バイタルエリアに落ちてきて起点を作られるのを防ぐためにボランチを2枚にしました」という部分。2年目の藤田息吹を大一番でプロ初先発させ、2ボランチにしてシステムは4-2-3-1の形に変え、ホームでは3試合連続となる雨中の決戦に臨んだ。
一方、広島の狙いは、「清水は我々がボールを奪った瞬間に必ずボールサイドにプレスに来るということは予想できていたので、それを回避するためにサイドチェンジを使っていこう、幅を使っていこうと選手に伝えていました」(森保一監督)というもの。ボールサイドに人数をかけてプレスにくる清水に対して、両サイドの柏好文と山岸智がワイドに張っている広島としては、彼らにサイドチェンジのパスを通すことさえできれば、フリーでボールを持てる状況を作ることができ、主導権を握ることができる。
もちろん大榎監督としても、そうしたサイドチェンジも広島の特徴であることはわかっていたが、「正直サイドチェンジはさせたくないし、同サイドで取り切ろうという狙いでしたが、最悪サイドチェンジされてもしっかり(全体を横に)スライドして対応しようと。それよりもバイタルエリアを使われほうがイヤだったので、優先順位としては真ん中を空けないところからスタートしました」という考え方だった。

そうした両者の狙いを背景に、立ち上がりは清水が主導権を握る。初先発の藤田も堂々とした良い入り方をしたため、バイタルエリアへの縦パスを自由に入れさせず、運動量的にも清水のプレスが広島のパス回しを上回って、サイドチェンジされる前にボールサイドで奪いきるということができていた。そして攻撃でも、サイドで起点を作って崩すという狙いが形になって、セットプレーのチャンスもいくつか作れていた。
14分には左サイドバック・吉田豊が鋭い出足からバイタルエリアでボールを奪い、惜しいシュートを打つといったチャンスも作れており、その時間帯で清水が先に点を取れていれば、試合はまったく違ったものになっていた可能性もある。
だが、時間が経つごとに広島が清水のプレスを外してサイドを変えられるようになってきて、27分には日本代表の右DF・塩谷司のサイドチェンジを起点にチャンスを作るなど、狙いが形になってきた。そして、その直後の28分、同じ塩谷の正確なサイドチェンジのロングボールを左に流れた佐藤寿人がダイレクトで中に折り返し、2列目から飛び込んだ石原直樹が押し込んで広島が先制点をゲット。大榎監督が言うように、シンプルだが選手同士の意思疎通が素晴らしく、非常に効率の良いゴールシーンだった。

こうなると広島の戦い方ははっきりしたものになる。すなわち、ボールを失ったら素早くリトリートして5-4-1の形で守り、奪ったボールは速攻に行くか、それができなければ逆にじっくりと後ろからつないで相手のスキをうかがっていく。選手全員が、自分たちのやるべきことを本当によくわかっている。
それに対して清水のほうは、5-4-1の守りをサイドからもなかなか崩せなくなり、広島が守備の形を整える前に攻めたいと思っても、素早くサイドを変えられて前からのプレスが機能せず、高い位置でボールを奪えないという状況に陥ってしまう。
清水の2列目が4枚から3枚に減ったことによって、ボールサイドで奪いきれない場面が増えたと言えるかもしれないが、それだけで大榎監督の布陣変更が間違っていたと言うことはできない。もしも清水のほうが先制点を奪えていれば、無理に前からプレスに行く必要はなくなり、しっかりと守備のブロックを整えて、サイドチェンジされても落ち着いて対応することができていたはずだからだ。
そう考えると、「前半は、自分たちがボールを奪った時に(清水が)厳しくプレッシングしてくるので、そこをしっかり我慢しながらやっていこうというのは試合前から言っていました。そこをうまく乗り切って先制点を取れたことが、一番大きかったと思います」(青山敏弘)という言葉が、勝負の分かれ目を端的に物語っている。

広島の2点目は38分、清水が警戒していたバイタルエリアへの縦パスで起点を作ってから左サイドに展開し、山岸の完璧なクロスを石原が綺麗に頭で流し込んで今季10点目。石原が2年連続の2桁ゴールを達成してアドバンテージをさらに広げた。それでも清水は、43分に大前元紀のFKからのノヴァコヴィッチのヘッド、46分に六平光成の右クロスからの大前のシュートと決定機が2つ続いたので、何とか勝点を得るには、どちらかは決めなければいけなかった。
そのため後半も流れは大きく変わることなく、清水がシンプルな攻撃を増やして攻めの迫力を増しても、広島の守備はほとんど揺るがない。そんな中での後半20分、この日は何度も見事なサイドチェンジのパスを通していたボランチ・青山敏弘が、右サイドの柏にサイドチェンジを送り、柏が中に切れ込んで左足シュート。これはGK櫛引政敏がわずかに触ってコースが変わったが、逆サイドにきっちりと滑り込んでいた佐藤の腹に当たってゴールイン。佐藤はこれで11年連続2桁得点という大記録を達成。11という数字にあやかり、三浦知良公認のカズダンスを踊って、自らの記録更新を祝った。本人曰く「泥臭いゴール」だったが、佐藤自身のコメントに、彼の真骨頂がよく表われている。

この3点目は、清水にとっては非常に重い1点となり、後半35分に高木俊幸の豪快な左足ミドルシュートで1点を返すのが精一杯。終盤になっても、広島のサイドチェンジが清水の選手たちの体力や戦意を削りとっていき、青山や塩谷からの綺麗なサイドチェンジが通るたびに、記者席の後ろで観戦していた清水の控え選手たちから「あ〜」というため息が上がる。自分たちもプレーしている立場だからこそ、それをやられた時の“キツさ”が痛感できるのだろう。
もちろん、清水の選手たちの残留にかける気持ちの強さや頑張りは十分すぎるほど伝わってきたが、内容に関しては広島の思惑通りの展開のままタイムアップ。広島は3連覇の夢が数字上も消えたが、体力的にはかなり厳しく、高萩洋次郎を欠く中でも非常に手応えのある1勝を挙げた。
逆に清水のほうは、何としても勝ちたかったホームでの敗戦で再び降格圏内の16位に。次節はアウェイでの川崎F戦となるが、そこでも絶対に勝点が必要な状況に追い込まれてしまった。

以上

2014.10.27 Reported by 前島芳雄
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

J.LEAGUE TITLE PARTNER

J.LEAGUE OFFICIAL BROADCASTING PARTNER

J.LEAGUE TOP PARTNERS

J.LEAGUE SUPPORTING COMPANIES

TOP