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【J1:第30節 甲府 vs 川崎F】レポート:100歳3トップを活かしたJFK甲府ハウスが川崎Fから逆転で勝点3を奪取。J1残留に向けて活力となる勝利を甲府が挙げた。(14.10.27)

J1の順位表を肴に飲めるという久しぶりの感覚。営業収益が30億も40億もあるクラブからは、「13位で?」と言われそうだし、次の1試合で降格圏に落ちる可能性のある13位ではあるけれど、やっぱり嬉しい。彼らの半分かそれ以下でやっている甲府が、高い攻撃力の川崎Fに勝ったこともそうだし、今シーズン初めての逆転勝利を挙げたこともそう。何より、チームの戦う方向性がより明確になったことが残り4試合――第31節と第32節の間が3週間も空いているスケジュールはやりにくいけれど――を戦う上で活力になる。第25節で神戸に勝った時も一定の手応えがあったが、今節との違いは――サッカーチームを家に例えるなら――今まで外さなかった大きな柱を外した家造りでの勝利だったということ。

前節は浦和対策ということもあって5-3-2のスタートポジションを選択したJFK甲府だったが、今節は再び3-4-2-1のスタートポジションで川崎Fに挑んだ。これまでの3-4-2-1との違いは前線の3枚を日本人で構成していることで、キリノのケガとクリスティアーノの出場停止がその理由のひとつだけれど、後者はまぁまぁのポイント。ディフェンスラインは不動の右CBの青山直晃が風邪の影響でコンディションが整わずベンチ外で、松橋優が起用された。青山のコンディションに問題がなければ、どちらを選択するかでは城福浩監督は悩んだと思うが、今節はレナト対策もあって犬より速い松橋を選択。対する川崎Fは足首を痛めている中村憲剛がベンチスタートで、ボランチは山本真希が大島僚太とコンビを組んだが、先発は大方の予想通り。

開場前に少し雨が降って、ちょうどいい水撒きになった山梨中銀スタジアム。ボールを繋ぐのが上手い川崎Fに有利じゃないかという声も聞こえたが、始まってみると甲府の合わせるとちょうど100歳(盛田剛平38歳、石原克哉36歳、阿部拓馬26歳)になる3トップは、音楽や洋服に対する世代間ギャップがあっても距離感は保って攻守で効いていた。ただ、チームとして中を意識しすぎていて、15分に川崎Fの右サイドからフリーで入れられたボールがレナトのスーパーゴールに繋がった時は、(勝点3は厳しい・・・かなぁ)と思った。ここまでリーグ戦を29試合戦って、失点した試合では1回も勝っていないという現実は重かったからだ。ただ、ピッチの選手は過去のネガティブな記録や傾向を覆す為に戦っているわけで、できれば”日程くん”の思惑(最終節の清水対甲府の結果で残留と降格が分かれるかのようなマッチメイク)だって外したいと思っている。そして、この3トップは徐々にゴールシーンに近づいていき、27分にT-阿部と盛田のワンタッチ・コンビネーションの連続で川崎Fのディフェンスラインを崩してT-阿部が移籍後初となる、「GKに当たらないように蹴りました」ゴールを決めた。

少し前の時間帯は甲府がボールを持っても動き出しの少ない膠着した内容だったので、レナトショックが心配だったが、レナトの先制ゴールは川崎Fの選手にマイナスの影響があったことが試合後に分かった。もちろん、レナトが悪いとかではなく、チーム全体の問題。山本真希は、「(先制したあと、今日の試合は)やれると思ってしまって動きが少なくなって、サポートが遠くて遅くなった。去年からの課題。勝たないといけないところで勝点を落としている。甲府はもともと頑張るチームだけど、今日くらいのプレッシャーならかわせないと川崎Fは機能しない」という趣旨の話をしたし、風間八宏監督は「1点取ってからサッカーをやめてしまった」という表現をしたくらい。風間監督には感情を顕にしないというイメージを持っていたが、試合後のテレビのインタビューのとりつくしまもない感じに、珍しく怒りの裾がはみ出ていた。

前半のうちに追いつけたことで甲府の選手もファン・サポーターもアドレナリンかドーパミンか分からないが、闘争ホルモンがドクドク出てきたはず。前半の終盤は川崎FのFKのチャンスや精度の高いクロスからのチャンスが続いたが、最後のところでハードワークで押さえ込んだし、川崎Fの選手にスーパーゴールの神様は2度目の微笑みは見せなかった。甲府の今季初の逆転勝利に対する期待が高まった後半、川崎Fは中村を入れてその期待を潰しかかる。川崎Fには来年のACL出場、リーグ優勝という目標や夢があるから当然のこと。中村の右足からいいパスが出そうで怖かったが、先に決定機を作ったのは甲府で、51分の盛田のヘッド、56分のT-阿部のシュートと甲府が崩すコンビネーションを持っていることを心強く感じた。失点の少なさはリーグ5位といい線いっているのに、得点力となれば徳島に次ぐリーグ第2位の貧打線が悩みだったが、豊打線とはいかないものの”貧”は脱却できそうな勢い。

ただ、後半の真ん中になるとオープンな展開になるのでここは関門だった。川崎F相手に打ち合えば勝ち目はない。71分には右サイドの攻守の要のジウシーニョがフライングボディアタックでイエローを貰い、退場の心配が必要になったし、体調不良だった阿部翔平や途中出場が多い松橋もだいぶん疲れている様子。75分、城福監督は阿部(翔)に代えて稲垣祥を投入する。そのころには右に攻めたと思ったら左に攻める完全なオープン戦。79分に稲垣が川崎Fのペナルティエリアの左斜め外、約7メートルの距離で倒されて、(これでちょっと休んで冷静になれる)と思ったFKのチャンスを得る。ここで決めることを強くイメージできていなかったが、山本英臣が右足でカーブをかけたボールはGK・杉山力裕が出られない按配の位置に曲がっていき、甲府の選手が何人かジャンプして頭を先に飛び込んでいき、ゴールネットが揺れた。決めたのは久しぶりの佐々木翔。隣で飛び込んだ新井涼平が着地で痛んでいたが、みんな気がついていないのか知らん顔でベンチ前に駆け寄って初の逆転の瞬間を抱き合って喜んだ。甲府がリードしてからは川崎Fのアクセルはベタ踏みになるから甲府が自陣のペナルティエリアで守ることが多くなる。ガチャガチャする様子を見ながらPKを与えることやこぼれ球の神様が川崎Fに微笑まないか心配したが、アディショナルタイムに入って3分ごろに右サイドから崩されそうになったときに新井がスライディングでCKに逃げたシーンが最大のピンチだった。このあとのCKも凌ぎ、アディショナルタイムに入って4分25秒に登里亨平が打ったミドルシュートが枠を飛び越え、村上伸次主審が終了の笛を吹いて甲府の偉大な勝利が確定した。

結果として、鳥栖が敗れ、鹿島と浦和が足踏みし、G大阪だけが首位・浦和に迫った第30節。4位・川崎Fの優勝の可能性は相当厳しくなったが、勝点が同じ3位・鹿島との直接対決があるのでACLリベンジ権は自力で持っている。下心いっぱいだけど、ぜひ次節の清水戦は期待したい。甲府は、今シーズンずっと使い続けてきた柱であるクリスティアーノを外した家を造って勝利した。出場停止だったので”外した”は正確な表現ではないし、城福監督は彼を”外す”という認識ではない。最終節まで、彼のストロングポイント”活かしたい”という姿勢は貫くだろう。しかし、チャンスを与えながらそれを促すという姿勢ではもうない。彼が普段の練習でアピールしてチャンスを勝ち取らないとベンチに座って金を稼ぐことになりかねない。ケガはしないし、シュートにパンチ力はあるし、1対1で勝負できるし、体力もスピードもあるクリスティアーノ。ものすごく魅力的な選手だけど、チームプレーはやれ切れていないし、かといって個でゴリゴリとゴールを決められているわけでもない。JFK甲府ハウスを造る上で、少しねじ曲がっているこの柱を使うと、梁や壁などの他の部材に負担をかけた家しか造ることができなかった。しかし、チャンスを与えながら・・・ではなくなったことで、城福監督の采配を選手が具現化しやすくなった。この意味で第25節・神戸戦とは違う意味の勝利。残留戦線は勝点3差の中に5チームがひしめくギュウギュウ状況は変わっていないので月曜からは気を引き締めるが、第30節・川崎F戦はなかなかいいJFK甲府ハウスが建ちました。

以上

2014.10.27 Reported by 松尾潤
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