エディオンスタジアムで見せた広島の強さは、さすがはJリーグ2連覇中の王者と言うべきだろうか。塩谷司、水本裕貴という主力2選手を日本代表で欠き、彼らの代わりを本職のセンターバックではないファン ソッコと清水航平が務めるも、そこは穴になるどころかゲームを優位に進める強みとなり、なおかつ柏が最も警戒していた佐藤寿人と高萩洋次郎のホットラインが2ゴールを叩き出した。数的優位を得て、本来ならば3点目、4点目を奪って第2戦をより有利な状況にしておきたいと気持ちがはやるところだが、むしろ守備的に戦ってアウェイゴールを献上せずに終える。強者らしい戦い方だった。
前半の90分を終えて、2−0で広島がリードした状況。しかし広島に気を緩める気配は感じられない。おそらく今季の柏が日立台では無類の強さを誇ることは承知だろうし、それに「ACL(ウエスタンシドニー戦)ではホームでリードしながらアウェイで負け、痛い思いをしているので、そこは繰り返さないようにしたい」(柴崎晃誠)と、今季同じようなシチュエーションで味わった苦い経験が、より警戒心を強める背景にはある。
広島としては、引き分けでも決勝進出が決まるだけに、大きくリスクを冒す必要はない。もちろん極端な守備的シフトを敷くとは思えないが、ホームの柏が攻勢に出て、そこで一気に流れを持っていかれないためにも、まずは守備ブロックを作り、相手が前がかりになったその裏を突いて、アウェイゴールを狙う。そんなゲームプランが現実的だろうか。
柏が決勝へ進出するためには、最低でも2−0か、3点差をつけた勝利が義務付けられる。ただ、その条件に付いて、ネルシーニョ監督は「ミッション・インポッシブルではない」と逆転に自信を覗かせる。
「ホームゲームでは鳥栖、神戸との試合では2−0、川崎F戦は4点を奪って勝ちました。我々には複数得点を取る力があります」(ネルシーニョ監督)
柏が先制すれば、日立台のボルテージが極限まで上がる。そこで畳み掛ける攻撃ができれば理想的だが、気を付けなければならないのはアウェイゴールだ。無失点ならば2−0でも勝ち上がりの可能性が生まれる。だが、1点を奪われると柏は最低でも4点が必要になる。その重要さは「試合の終盤に立て続けに2点を取れることもある。最初から前がかりになりすぎることはなくしたい」(大谷秀和)、「まずは最初から行きすぎない。90分で2点を取るイメージでいる」(増嶋竜也)と、選手たちも十分に理解している。
柏は先制したいが、アウェイゴールを奪われたくない。対する広島はそれほど無理をする必要がない。となれば、立ち上がりは堅い展開が予想される。その手堅く、重苦しい雰囲気を破るのは“地の利”ではないだろうか。やはり柏がホームで見せる圧倒的な強さは、いくら広島が「ついこの間、あのスタジアムでやっているので、雰囲気に呑まれることはない」(清水)と言っても、浦和、鹿島、川崎F、鳥栖、神戸の上位陣や、さらに南米カップ王者のラヌスまでもが日立台では屈したことを考えれば、スタンドを黄色く染めるサポーターが広島に脅威を与えることは間違いない。
2012年の天皇杯準々決勝大宮戦では、前半に不甲斐ないパフォーマンスで0−2とリードを奪われ、前半45分を終わって全く勝てる気配がなかった試合でも、後半に息を吹き返した柏は、澤昌克、増嶋竜也、そしてアディショナルタイムの工藤の逆転ヘッドで劇的に勝ち切った。そしてそこから勢いづいた柏は、天皇杯で頂点を極めた。
0−2のビハインドとはいえ、まだ90分も残されている。何が起こるか分からないし、そして会場は何かが起こるスタジアム、“難攻不落”の日立台だ。
連覇に箔を付ける逆転勝利を挙げ、ファイナル行きのチケットを手にする。そのドラマチックな幕切れを、絶対に見逃してはならない。
以上
2014.10.11 Reported by 鈴木潤