課題はゴール。それ以上でも、それ以下でもない。5試合で失点2と守備は改善できている。あとは、ゴール・ゴール・ゴール。広島サポーターは、ゴールに飢えている。
主導権が握れていないわけでもない。相手にボールを持たれていてもチーム全体で追い込み、自分たちが主体性を持ってボールを奪いとることができている。そこから広島らしくつないで、相手陣内に侵入することもできているし、ショートカウンターで脅威を与えることもできている。だが、ゴールが揺らせない。決定的なシーンの数が足りない。
相対する新潟は、ここ5試合で4得点8失点と、昨年の「秋の王者(後半戦勝点数第1位)」という実績からすれば物足りない戦績ではあるが、質は高い。ボール支配率にしても攻撃の回数を見てもリーグでは上位。広島以上に得点がとれていないことで11位という順位に甘んじてはいるが、リーグ5位の失点数(平均1.04)は彼らのクオリティの証明。「常にチームとしてハードワークしてくる。どんな状況でも走ってくるし、90分通して戦えるチーム」と千葉和彦は古巣に対して言及する。実際、今年の第8節に対戦した時は、新潟のプレッシャーの前に広島はボールをほとんど前に運べず、放ったシュートはわずか1。ACLによる連戦の疲労がピークに達していたとはいえ、まったく広島らしさを出すことができず、守りに守って引き分けに持ち込むことが精一杯だった。
新潟は今節、攻撃の中心として全試合出場をここまで続けていた田中亜土夢が出場停止。また前節の対仙台戦で負傷交代した成岡翔の出場も微妙で、CF鈴木武蔵はアジア大会に出場中。攻撃陣の陣容に不安を残してはいるが、一方で新外国人選手のラファエル シルバに対する期待も高まる。195センチの高さを誇る指宿洋史を生かした形の速攻と今季取り組んできたパスサッカーとの融合に取り組み、形も少しずつ整い始めた。レオ シルバという大黒柱を中心に攻守にわたってレベルの高さを保持する新潟は、常に簡単に勝てる相手ではない。しかも、広島対策として柳下正明監督が3バックを準備し、ミラーゲームを仕掛けるという情報もある。広島にとって難しい試合となることは、間違いあるまい。
ただ、今の広島は相手がどういう対策を立ててこようが、あまり気にしてはいられないだろう。勝利のためには点をとらなければいけないのだが、第16節の対柏戦で5点をとって以降、7試合連続して広島は複数得点を記録できない。最近5試合で2得点、完封を喫した試合も3試合。浦和戦以降、4試合連続してシュートは1桁にとどまっているなど、チャンスの総数そのものも少ない。中央を固めてボールをサイドに出させ、クロスをはじき返す。ドリブルで中央を突破する形のない広島への対策は、どのチームも万全に整っている。
そこを上回って得点をとるためには、ブロックごと吹き飛ばすかのようなパワーが必要だろう。それはたとえば、ミドルシュート。ヤマザキナビスコカップ準々決勝で野津田岳人が見せた強烈なドライブシュートは、中央を固めた浦和の守備を水泡と化した。「ウチにはシュート力を持つ選手は他にもいる。もっともっと、打てばいい。シュートを打つことによって相手は前に出てくるし、コンビネーションによる崩しがやりやすくなるスペースもできる」と塩谷司は言う。
その塩谷自身の存在も、広島の得点力アップのためのキーワードだ。たとえばレナト(川崎F)のように1人で2人を突破できる選手がいるわけでもない広島において、ブロックを崩すための方策は人数をかけることが第一。田中マルクス闘莉王(名古屋)のオーバーラップがわかっていても止められないように、後ろから一気にゴール前に来られるとDFもマークにつくのが難しくなるのは必定だ。
シーズン当初、広島が結果を出していたのは、塩谷の攻撃参加からの得点が試合を決めていたから。中断明けは失点の増加によって塩谷自身の攻撃参加もできないでいたが、安定した守備の復活によって後ろからの攻撃が創りやすい状況にもある。
「前にあがっていくために必要な自信は取り戻してきた。オーバーラップにはリスクが伴いますが、シュートまでやりきってしまえばいいだけ。ペナルティエリアの中にも入っていけると思うし、相手にとってイヤなプレーを選択したいですね」
フィジカル能力に長け、球際に強い石原直樹がケガから復帰し、G大阪との練習試合でハットトリックを記録するなどコンディションもあがってきた。
チーム状態は間違いなく右肩あがり。あとは、「得点」というきっかけがあれば、勝利という歓喜が伴えば。
そう考えているのはおそらく、広島も新潟も同じだろう。浮上に向け、上位進出に向けて両チームとも勝点3を強烈に欲する戦いが、激しくならないはずがない。
以上
2014.09.19 Reported by 中野和也