第12節からリーグ戦の勝利がなく降格圏17位に沈む大宮はもちろん、衝撃の監督解任から2連敗の鳥栖も、昨年の大宮のように泥沼の連敗地獄にハマりかねない危機的状況にあった。ただ、共に3日前の天皇杯に勝利したことは、手応えとともにチームに多少の明るさをもたらした。勝者は勝点3を得ると同時に手応えを確かなものにし、敗者は何も得られず全てを失う。残酷な試合は、2位と17位の実力を反映する形で決着した。
大宮の立ち上がりは悪くなかった。最終ラインを押し上げ、いつになく前線から激しいプレスを、それなりの連動性を持って敢行した。攻撃でもシンプルに前線に預け、泉澤仁の突破やカウンターから鳥栖ゴールに迫った。ただ、その良い流れが一発のプレーで変わる。この日、右サイドバックには初スタメンとなる趙源熙が入っていた。菊地光将は「源熙とはコミュニケーションを取っていて問題なかった」と語るが、彼のプレーは終始不安定で、ポジショニングも常に外に開き気味だった。10分に金民友が菊地と趙の間にランニングし、ボールを受けてペナルティエリアに侵入。和田拓也の必死のカバーで事なきを得たが、大宮はこれで浮き足立ってしまった。
鳥栖のプレスの前に、後ろからボールをつなぐことができず、精度の低いロングボールを蹴らされる。逆に鳥栖のしつこい裏へのボールにDFラインを押し下げられ、ボランチとの間のバイタルエリアが空く。ボールホルダーへの寄せの甘さは、もはやこのチームの最大のウイークポイントだ。そして鳥栖は、「試合の中で、(センターバックとサイドバックの間が)空いていることは気になっていた」(水沼宏太)と、完全にそこに狙いを定めていた。14分、ラインの揃わない大宮最終ラインの、趙と菊地の間に金がダッシュを仕掛け、スルーパスを受けた金が厳しい角度から北野貴之の左を抜いて、先制ゴールをサイドネットに突き刺した。
その2分後、大宮は泉澤の仕掛けからパスを受けたムルジャが倒されPKを獲得するが、鳥栖はこれを林彰洋がビッグセーブして流れを渡さない。大宮は次第に前線と最終ラインが間延びし、セカンドボールも拾えなくなったし、攻撃でビルドアップもままならなかった。さらに37分には高橋祥平が負傷交代のアクシデントに見舞われる。それでも大宮は、カウンターとロングボールに活路を見出す。44分、カウンターから泉澤がドリブルで持ち上がってズラタンにパスすると、クロスに正面でムルジャがヘディングを放つがバーに嫌われる。2度の決定機をフイにした大宮だが、45+4分、横山知伸からのロングボールをムルジャ、家長昭博とつないで同点に追いつく。ここまでは、勝負の行方は分からなかった。
後半、速い段階から、互いにラインが下がって間延びし、カウンターの撃ち合いになった。これは、コンパクトにしたくてもできないが前線に強力なアタッカーをそろえる大宮に利する展開かと思われたが、「シンプルさが必要な中で強引さが出て、自分たちのリズムが出なくなってしまった」(大熊清監督)。最も大きな誤算だったのはムルジャで、後に体調不良も伝えられたが、判断が悪く、無理な独力突破を計ってはつぶされた、逆に鳥栖は、「ボールを取ったらダイレクトプレー、一番早くゴールに結び付くプレーでゴールを奪いにいくのは鳥栖のスタイル」と安田理大が胸を張ったように、ロングボールも織り交ぜシンプルに攻撃を仕掛けた。
69分、鳥栖はまたしても趙と菊地の間を狙う。藤田直之からワンタッチの縦パスに反応した豊田陽平が抜け出し、クロスに水沼宏太が飛び込んでリードすると、77分には右サイドで大宮を押し込み、囲い込んでボールを奪うと、水沼、豊田、池田 圭の3人が連動してパスをつないで最後は池田が大宮ゴールを割って突き放した。その直後、大宮は家長のクロスをズラタンがヘッドでねらうがポストに弾かれる。終盤は菊地を前線に上げてパワープレーを仕掛けるが、鳥栖も小林久晃を投入して5バックで対応。菊地個人としてはことごとくヘディングを競り勝ったが、最後までゴールには結びつかなった。
シュート数では大宮12、鳥栖8。決定機の数で言えば、大宮も鳥栖も4つずつ。そう見ると互角の戦いで、決定力が差を分けたように感じられるが、現実にはチームの完成度の差がそのまま点差として表れたと言っていい。切り替えの速さ、プレスの連動性、攻撃における共通理解、2位と17位の間にはすべてに大きな隔たりがあった。
鳥栖はこれでひとまず、監督交代後の連敗によるプレッシャーから解放された。連敗中は無得点が続いていただけに、攻撃陣が躍動して3得点を挙げたことは、手応えをさらに大きなものとしている。浦和が引き分けたことで勝点差1と首位に肉薄した。ここからは優勝争いという別のプレッシャーとの戦いになるだろう。大宮はこれで3連敗となり、リーグ戦9試合連続未勝利。残留圏から勝点5離され、同時に1徳島が勝利したことで18位との勝点差も4に縮んだ。降格圏脱出どころか、最下位転落さえ現実味を帯びてきた。内容は良いのに結果が伴わないならまだしも、内容の悪さに結果が伴ってのことだけに、何とも重い気分にさせられる。
ただ、大宮の次節はさいたまダービーである。「ダービーはその時のチームの状況にかかわらず絶対に勝たなくてはいけない戦い」と金澤慎が語るように、大宮はさいたまダービーにはチーム一丸となり、たびたび実力差をはね返してきた。特に2007年と2012年、秋の入り口に行われるさいたまダービーを大宮は17位で迎え、圧倒的劣勢に耐えながら勝点を奪い、残留への起爆剤としてきた歴史がある。「こういう状況だからこそダービーで自信を取り戻して、その先の試合につなげたい」(金澤)――今はその言葉を信じるしかない。
以上
2014.08.24 Reported by 芥川和久