G大阪と対戦する時、先制されて「ガンバ〜フォルツァ〜アレー・いったれ・いったれ〜」って歌われると弱気な気分になりそうになるが、先制したのは甲府。ここまでクリスティアーノを使いながら、彼のストロングポイントを削ぐことなくJFK甲府のJ1仕様のチームプレーを学んで活かす手法を取っていた城福浩監督。今節はついに彼をベンチスタートにし、38歳の盛田剛平をワントップに据え、2列目に35歳の石原克哉と22歳の稲垣祥の運動量豊富なベテランと若手を並べた。この布陣は最初から機能して、盛田がワンタッチで落としたボールを2列目が繋ぐシーンを作ることができて、攻撃の押し上げができそうな手応えのある立ち上がりだった。そして、7分、石原が左から打ったミドルシュートはディフェンダーに当たって都合のいい軌道のループシュートになって決まる。崩して打ったシュートではないが、シュートは打たなきゃ入らないという場所、時間帯のシュート。これで甲府が試合の主導権を取るが、内容ではG大阪は4分に宇佐美貴史から藤春廣輝へのクロス、18分のパトリックのミドルシュート、21分の宇佐美の突破からのシュート、40分のパトリックのヘディングシュートと決定機かそれに準じるチャンスを作っていた。もともと前半8分のゴールだけでG大阪から逃げ切れるとは思っていなかったが、甲府の守備はGKの荻晃太のグッドセーブや青山直晃のアグレッシブなボール奪取や最後の場面でのスライディングなどで決定機を防いだ前半だった。
後半、長谷川健太監督は岡崎健哉に代えて二川孝広を投入する。ポゼッション能力が上がりそうでなんとなく嫌だったけれど、後半立ち上がりにG大阪の巧さと甲府の甘さが出る。左サイドで4本のパスをほとんどワンタッチで繋いで、甲府のペナルティエリアからだいぶ遠い所にいた宇佐美へボールが渡る。なんかどこかで見たことある距離で嫌な感じがしたら、そのままドリブルで仕掛けてペナルティエリアの外からミドルシュートをズドンと決める。天皇杯3回戦のG大阪対徳島の記憶が蘇る。宇佐美のシュートも凄いし、ほとんどワンタッチでミスなくパスをつなぐG大阪の選手たちはやっぱり上手い。甲府は立ち上がりの戦い方が、行くのか、堅くするのか中途半端だったように感じた。それでも同点なので気持ちを切り替えてやるだけなんだが、67分にG大阪のFKから甲府の壁がハンドを犯してPKを与えてしまう。キッカーの遠藤保仁の存在感が生み出したチャンスだったといってもいいだろう。このPKを遠藤にきっちり決められて1−2と甲府は逆転を許してしまう。
城福監督は同点に追いつかれ後の56分にクリスティアーノを投入していたのだが、投入直後に左サイドから僅かにファーに外れたシュートがあったものの、74分の決定機はホームランではないものの、センターライナーのようなシュートで枠の上。右サイドからジウシーニョが入れたグラウンダーのセンタリングを盛田がスルーして、クリスティアーノに渡ったボールだった。ウソみたいに軽くて高性能のスパイクを履いているけれど、昔ながらのもう少し重いスパイクの方がシュートを抑えられるんじゃないかと思ってしまうシーンだった。甲府は1−2のまま、80分を過ぎると時間とともに追い詰められた気分になる。もっとそうしたいG大阪の長谷川監督は、82分に宇佐美をベンチに下げ、86分に遠藤をベンチに下げてゲームの店仕舞いを図る。しかし、関西学院大との天皇杯3回戦の記憶が力になっているのか、決まる時は決まる。87分に山本英臣の40メートル以上あるミドルシュートが決まって、ワァ〜という間に同点。1分後には阿部翔平のクロスのようなシュートが決まって3−2と逆転。意外にも山本にとってJ1では初ゴールで、阿部(翔)はJ1リーグ9年目、247試合目の初ゴール。このまま勝てば盆と正月とクリスマスが一緒に来た勢いになるはずだった。しかし、サッカーもG大阪も甘くはない。
印象的だったのはアディショナルタイムの93分に倉田秋に同点ゴールを決められた時。アシストのヘディングで競り勝ったパトリックをマークしていた佐々木翔が足を伸ばして座り、頭を下げた姿が、「あしたのジョー」の最終回のリングのシーンと重なった。真白に燃え尽きるほど戦った…結果の3−3。記者会見で長谷川健太監督は「勝点1を拾った」という言葉を使ったくらいだったが、追い付かれた城福浩監督の会見はピリピリした感じだったし、その目安となる会見場を出ていく時の歩くスピードは過去最高ではないものの、時速35キロくらいで誰もぶら下がりにいけないスピード。
甲府とG大阪との対戦成績はこれで3勝1分4敗と、昨年度のデータでみると営業収益が約15億の甲府が約28億のG大阪に対してよく健闘している。今年のG大阪から挙げた勝点は1ポイントだが、クラブの規模や環境を考えると、横浜FM、名古屋、大宮、柏から勝点3を挙げているのだからG大阪からの勝点1をことさら批判するようなことではない。問題なのは最下位の徳島から勝点1しか挙げられていないことで――3−2で勝てていれば大満足だったけれど――3−3の引き分けは最悪ではない。どうしても倉田に決められた3点目が悔しいし、強く印象に残るが、G大阪から3ゴールを挙げたことを高く評価したい。甲府の立ち位置を考えるとそうすべきではないだろうか。16位のC大阪との勝点差はわずか1ポイントではあるが、甲府は15位で降格圏内ではない。中位の上との勝点差は開いてきたが、12〜13位あたりはまだまだ充分に狙える。8位に順位を下げたG大阪はACL圏内入りを果たすには再開後のような連勝が必要になるので、立ち位置からすれば甲府に勝てなかったことはかなり残念な結果ということになるだろう。どっちにしても、勝っても負けても引き分けても次が大事。8月最後の第22節に向けていい準備を始めよう。
以上
2014.08.24 Reported by 松尾潤