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【J1:第21節 広島 vs C大阪】レポート:祈りと鎮魂に満ちた試合は双方にとって「負けたくない」戦いだった。(14.08.24)

8月19日深夜から20日にかけての空とは、まったく違う穏やかな青空が広がり、肌を刺す太陽の光すら存在した。悪夢のような大規模土砂災害と同じ地域(広島市安佐南区)に存在するエディオンスタジアム広島で、Jリーグの試合が開催される。その重い意味を、誰もがわかっていた。だからこそたった1日で、試合会場のみで384万4292円もの募金が集まった。
広島の選手たちは喪章と「がんばろう広島」のTシャツを身につけてピッチに登場。C大阪の選手たちや主審、さらに2万1102人のサポーターも含め、スタジアム全員が黙祷を捧げた。
1分間の沈黙の時間が終わった後、C大阪のサポーターから、こんな叫びが聞こえてきた。
「広島ッ、広島ッ」
胸が熱くなった。
彼らもまた、スタジアムで募金に賛同してくれていた。それだけでなく、広島を熱く励ますコールまで。
なんと美しいんだろう。なんて、素晴らしいんだろう。
Jリーグが存在することへの誇りを、このC大阪サポーターの行動が改めて呼び起こさせた。
思い起こせば、大規模な被害が明らかになると、全国のJクラブが支援の輪を広げてくれていた。最初に行動が明らかになったのは、天皇杯で広島と対戦するはずだった水戸。さらに仙台・山形・浦和・大宮・柏・F東京・甲府・松本・富山・岡山・福岡・北九州。現在、把握しているだけでもこれほどのJクラブが義援金募金などによる支援の声をあげてくれている。この事実だけをとってみても、Jリーグは世界に誇れるリーグなのである。

では、そのサッカーの内容は、どうだったのか。
一言でいえば、どちらも「負けたくない」という気持ちが前に大きく出たゲームだったと言える。
広島は再開以降の5試合で13失点と守備が崩壊状態に陥った。そこを立て直すべく、鳥栖戦から5-4-1のブロックを堅持する守備のやり方を徹底し、我慢を重ねて守備組織を再構築する治療にかかっている。一方のC大阪も、広島のやり方に対応する形で扇原貴宏をアンカーに置いた3ボランチの布陣に変更。フォルランとカカウの2トップにスピードと運動量が光る平野甲斐が絡む形でカウンターを狙った。

どちらもまず、守備で主導権を握ろうと考えた。決して、守るためだけの守備ではない。広島は低い位置でボールを奪い、そこからポゼッションをとることでスペースを使いたい。C大阪は広島の起点となる皆川佑介を藤本康太と山下達也で潰しにかかり、そのこぼれを扇原が拾って速攻を仕掛ける。だが、たとえばFWにクサビが入った時、リスクをかけて後ろから選手がどんどん飛び出して連動するシーンは、両チームともほとんどなかった。

特に広島は互いの距離が遠く、連動したコンビネーションは不発。皆川の頑張りは素晴らしく、藤本や山下も抑え込むのに苦労していたが、ポストプレーでボールを落としても有効な攻撃につながらない。一方のC大阪も広島のブロックを崩せず、最後はフォルランの個人技に頼らざるをえない。かつては互いに「攻撃一辺倒」で、大量点が飛び交う試合となったこのカードだが、この試合はチャンスそのものが少なかった。

後半、カカウがチームの中で機能性を増すことによって、C大阪が主導権を握る。フォルランのミドルがゴールマウスを襲い、交代で入ってきた永井龍や吉野峻光らの勢いがチームに活気を与えた。だが、それでも「あとは決めるだけ」という決定機は、ほとんどない。永井がスルーパスに抜け出した86分のシーンは確かに得点の香りがしたが、そこも林卓人の牙城を崩すほどではなかった。

アディショナルタイム、フォルランのCKがゴールマウスを襲う。はじいた。セカンドボールを拾った広島が縦にパスを出すと、カウンターが発動する。高萩から柏好文につなぎ、カットインからシュート。広島にとって68分に皆川が見せた胸トラップからのシュートに次ぐ2度目の決定機だったが、ゴールにはつながらない。

「戦い」は見せられた。最後まで諦めず、粘り強く守ることもできた。それは広島・C大阪、双方に言えること。だが、サッカーがもっているカタルシス、アイディアへの驚き、幾何学模様を描くような美しいパスの軌跡なども含め、両チームの「売り」であったはずの攻撃の魅力が発揮できたとは言いがたい。
それは広島とC大阪、それぞれが抱える厳しい現実が、大きく作用していると言わざるをえない。広島は守備の再構築中であり、地元で起きた大災害のことを考えても、絶対に負けたくなかった。C大阪は16位という降格圏に足を突っ込んでおり、勝点ゼロだけは避けなければならない状況。その現状が「負けたくない」試合につながったと考える。

守備が上手くいくようになった。だから次は攻撃。そんな形で階段を登るようにうまくいけば、誰も苦労はしない。だが、それをやっていかないと「勝点3」にはつながらないのは当然だ。広島もC大阪も、厳しい現実から逃げずに向き合っていることは間違いないが、そこからもう1つステップを登って個人技ではなく「チームとして」の攻撃を取り戻したい。そのきっかけにこの試合がつながったのであれば、勝点1に大きな意味が生まれてくるのだが。

以上

2014.08.24 Reported by 中野和也
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