前半は、ほぼ清水の思惑通りに進んでいた。しかし後半、流れが変わったり、不測の事態が起こったりした時に冷静に対応できるチームとしての成熟度という面で、明確な差があったことは否めない。そして、それがそのままスコアと結果にも表われたゲームだった。
現在の鹿島の力を考えれば、清水がホームであっても守備から入る辛抱強い戦い方を選んだのは間違いではなかった。雨で水を含み、さらにボールの走りが良くなったアイスタのピッチで、立ち上がりからきっちりとパスをつなぎながら清水ゴールに迫っていく鹿島。序盤はその攻撃に押し込まれる時間帯もあったが、清水はチーム全体でしっかりと守備のブロックをコンパクトに整え、球際も粘り強く対応。23分のダヴィのシュートが左ポストを直撃するピンチもあったが、「前半は、ゲームプラン通りというか、しっかり形を整える守備のところができていた」(大榎克己監督)と意図する試合運びができ、少しずつ攻撃の形も作り始めることができていた。
そして31分には、左サイドバック・イ キジェがアーリークロスを入れ、それをファーサイドに逃げたノヴァコヴィッチが頭で折り返し、逆サイドの石毛秀樹がもう一度頭でマイナス方向に落としたところに大前元紀が走り込んで左足シュート。これが綺麗に決まって、押され気味の清水が先制点を奪うことに成功する。1-0で後半に折り返したところまでは、完全に清水のゲームだった。
鹿島としては、前半は判定やイエローカードに対するストレスも出て、選手たちが落ち着かない状況だったが、そこをハーフタイムできっちりと落ち着かせたのは、トニーニョセレーゾ監督の手腕だろうか。後半は立ち上がりから攻撃のギアを上げて清水ゴールに迫り、開始2分でカイオのシュートが右ポストに当たる場面を作るなど、攻めのプレッシャーを強めていく。
だが、清水も負けじと速攻で反撃に出て、後半13分にはカウンターから石毛秀樹のスルーパスで河井陽介が抜け出してシュートを放つが、これはGK正面。この日は左の2列目に入った石毛が、効果的なポジショニングやノヴァコヴィッチへのサポートを見せ、チームとしても前半から追加点のチャンスはいくつか作ったが、それを決めきれなかったことも敗因のひとつだった。
そして後半14分、鹿島が押し込んだ中からカイオがペナルティエリア左でドリブル突破を図り、遅れて対応した吉田豊に倒されてPKを獲得。これを小笠原満男が当然のように決めて(16分)、J1で16年連続ゴールという新記録を達成し、試合を振り出しに戻した。
ただ、その後にもう一波乱。後半18分、前半からノヴァコヴィッチに対して激しく当たっていた植田直通が2枚目のイエローカードを受けて退場。これで清水が数的優位を得ることになったが、そこからの戦い方が非常にもったいなかった。「相手が10人になってからもっと落ち着いて攻めれば良かった」と大前も悔やんだように、まだ同点で30分近く時間が残っている中で、それほど攻め急ぐ必要はなかった。これが鹿島なら、じっくりとパスをつなぎながら相手を疲れさせ、つけいるスキを与えないままジワジワと追い込んでいったことだろう。
だが、清水の選手たちは、同点に追いつかれた焦りがあったのか、早く点を取りたいという意識が出たのか、21分に手痛いカウンターを食らう。柴崎岳のパスから交代出場の遠藤康に飛び出され、たまらずイ キジェがファウルで止めて一発レッド。これで10人対10人になったばかりか、そのFKを小笠原に見事に決められ(後半23分)、逆転も許してしまった。
逆に言えば、10人になりながらも冷静にカウンターで攻めるスキをうかがい、ここぞという場面でキャプテンの小笠原がきっちりとFKを決めるあたりは、本当に鹿島らしい勝負強さ。さらに27分には、遠藤がまたもバイタルエリアで抜け目ない動きを見せ、その遠藤の左クロスをダヴィが頭で叩き込んで3点目をゲット。事実上これで勝負は決まった。
その後は、鹿島がスキのない試合運びを見せて、清水がリスクを負った攻撃的な交代策で反撃に出たがノーチャンス。鹿島が危なげなく2点差を守り切って、2008以来6試合連続で勝てていなかったアイスタで、貫禄の逆転勝ちを見せた。
終わってみれば、4連勝で3位に浮上した鹿島が、これまで以上に鹿島らしさを発揮し始めたという印象の試合。今後の優勝争いに向けて、注目すべき存在になりそうだ。
ただ、清水としても勝つチャンスは十分にあった。今の順位を考えれば、少なくとも勝点1は取らなければいけない試合だった。今後上位との戦いが続く中で、冷静かつしぶとく勝点を稼いでいくという部分も欠かせない要素になっていくだろう。
以上
2014.08.24 Reported by 前島芳雄