2014年3月1日は城福浩が監督として甲府に来て3回目の開幕。1年目は身一つで甲府にやってきてチーム作りを始め、前年のチームでフィットしきれていなかったダヴィを活かすなどして最後はJ2優勝というクラブ初のタイトルを手にして、クラブ史上3度目のJ1昇格を果たした。しかし、攻撃のキーマンだったダヴィとフェルナンジーニョを残留させることはできず、2年目となった2013年は攻撃をほとんど一から作り直すスタートとなり、アジア以外の外国籍選手を開幕時の3人を含めて合計で8人獲得し、シーズン中に4人と契約を終えるという出入りの激しい、苦しい前半戦となった。それでも、粘り強く取り組んでチームの“最大値”を見つけ出した。後半戦からは鉄壁の守備を足掛かりにして少ない得点を活かして勝点を増やし、16位の湘南に勝点12差をつけた15位でクラブ史上2度目のJ1残留を果たした。JFK甲府3年目は右ウィングバックの柏好文の移籍以外ではほぼ2013年を継続できるスタートとなった…はずだった。
2月14日から15日にかけて関東甲信越地方に降った雪が甲府市内では1メートルを超える積雪となるなどし、山梨県に通じる鉄道・交通は全て遮断された。チームはキャンプ地の宮崎県から予定より1日遅れの16日に羽田空港まで戻ったものの、そこで足止めされ山梨に戻れる目途は立たなかった。静岡市やJ1清水など多くの関係者の協力もあって静岡市内でトレーニングができることになったが、山梨に戻ってトレーニングをする目途が立たないまま、ホーム・山梨中銀スタジアムでの開幕戦中止が21日に決まった。日本サッカー協会、Jリーグ、鹿島関係者などの協力や理解があって国立競技場で甲府対鹿島の開幕戦を同じ日程で行うことが可能になったが、開幕1週間前に予定していたJ2富山とのトレーニングマッチは中止となり、開幕直前の大事な2週間の予定が大きく狂ったまま開幕戦を迎えることになった。
城福監督は、「(山梨でトレーニングができないのであれば)もう少し宮崎に残ってキャンプを延長するという選択肢もありましたが、2週間で山梨に帰るというテンションでスケジュールを組んでいたので、選手のメンタル的な疲労も考慮すると延長はプラスにならないと判断しました。(東京都内で足止めという)リスクはあったが、山梨には選手の家族もいるので少しでも山梨に近づく方がいいという判断もありました。(23日、24日にようやく)山梨に戻ったとき、街中にはまだ雪が残っているのに、視察に行った山梨大学医学部の練習グラウンドには雪がなかった。(ピッチに水分が多くて)芝生はまだ使える状態にはなっていなかったですが、クラブの職員・育成のコーチだけでなく、県内のいろいろな人が協力して除雪をしてくれた結果。その想いを感じました。だからこそ開幕戦を山梨中銀スタジアムでやりたかったです。まずは3月1日に開幕戦ができることを感謝し、国立競技場まで来てくれるファン・サポーター、テレビの前で開幕戦を見てくれるファン・サポーターを感じながら戦いたい」と話す。2014年の強みは「2013年の継続」という話や新加入選手の状況、チーム・個人の戦術や技術についてあれこれ期待を交えて語りたい開幕戦であるが、2014年の開幕戦は完全に別のものになった。山梨県では個人の被害に加えて農業と観光の被害が大きく、農業被害はこの先何年も回復しないと言われている。東日本大震災で茨城県も大きな被害を受けた。今もその傷は癒えていないし、鹿島もスタジアムやクラブハウスなどの施設が直接被害を受けているからこそ、甲府の苦境を理解して手を差し伸べてくれたのだと思う。甲府は改めて、多くの人に感謝して迎える開幕戦だ。
プレシーズンマッチやトレーニングマッチの結果とニュースを見ると、鹿島は熟成させる余地が少なくない状況のようだけど、選手の名前を見れば本番になれば決定的な仕事をやる、やってきた実績充分の選手が多い。城福監督は、「去年、ホームでは鹿島に3−0で勝つことができたが、忘れてはいけないのはアウェイで戦って2倍以上のシュートを打たれて格とスキルの違いを見せつけられた試合。大迫(勇也)は抜けたけれど、それ以外のメンバーはほとんど変わっていない」と何度も話している。締めて締めて締めて甘い考えは絞り出して捨てきらないと戦えない相手。鹿島対策の紅白戦では、いろいろなケースを想定するなかで鹿島の2次攻撃のスキルの高さやパンチ力を意識した指示も多かった。トニーニョ セレーゾ監督が、1トップをダヴィで行くのかスーパールーキー・赤崎秀平にするのか、2人同時起用もあるのか、高卒ルーキーの杉本太郎の先発はあるのか、アルベルト ザッケローニ(日本代表監督)が柴崎岳の電話番号を急に知りたくなるようになるのか、関西出身の苦労人・昌子源はCBでレギュラーを取れるのかなど、鹿島のこの先5年、10年を支えるような選手の成長と実績のあるベテランが上手く絡み合えば、勝ち負けに関係なく「希望」が大きくなる鹿島。その第一歩は第2節からでお願いしたいところではあるが、お互いに「希望」を心の中で温めながら岐路につける試合内容にしたい。
赤崎のことをライバル視はしていないようだが、全日本大学選抜で一緒にプレーした湘南ファン(平塚市出身)の下田北斗は甲府のゴールデンルーキーのひとり。開幕戦で先発する可能性がある。「プロの世界では本番の当たりの強さやスピードはトレーニングマッチとは違うのと思うので、(チャンスを貰えるのなら)覚悟して臨みます。赤崎と同じピッチに立てれば面白いと思いますが、仕事はさせたくないですね」という。甲府の攻撃の選択肢を増やしてくれる存在になりそうな下田だが、彼の成長や対応能力を見守るのは甲府のファン・サポーターの楽しみになるはず。チームの最大値を探す2014年の旅は始まったばかりなので、新加入のクリスティアーノを軸とする攻撃面では「う〜んっ、もうっ!」となる場面も少なくないだろうが、下田以外にも育てがいのある「希望」はチーム内にいっぱいあるのでいい所を探そう。まずは、堅さ自慢の守備意識が鹿島のアタッカー陣を相手に昨年並みのレベルでスタートできるのかをベースに、開幕直前2週間のスケジュールが大きく狂った中でも選手が真摯に準備し、逆境に立ち向かう心意気で挑む姿勢を見てほしい。自分たちの日常生活が大変な状況のファン・サポーターや大雪災害で自社工場に被害が出たにも関わらず、練習場の除雪に力を貸してくれたスポンサー企業の存在や心意気に、選手・スタッフ、フロント職員は力を貰っている。その力を国立で発揮して今度は県民が災害から立ち上がるための活力を送り返したい。国立競技場に入ったときからPRIDEのオープニングテーマが勝手に頭の中でかかり、アドレナリンがどくどく流れだしてきそうな開幕・甲府対鹿島。もちろん勝ちたい。ただ、逆境から立ち上がる心意気を見せ、勝ち負けを超えた部分でも心に残る試合にしたい。
以上
2014.02.28 Reported by 松尾潤