Q:就任を決意するにあたって迷いや葛藤はありませんでしたか?
●小野剛 新監督:
「迷いがゼロかと言われると、それはやはり、周りの方から『えっ?』と言われることはちょっとありました(笑)。でもやっぱり、いろいろやってきたなかで自分の中でやりたいこと、池谷社長も含めてそれを共有できる仲間達のなかでやっていきたい、そっちの思いの方が数段強かった。今自分の中で振り返ると、そういう気持ちだったんじゃないかなと思います」
Q:来年はワールドカップイヤーですし、ロアッソ熊本にとっても10年目という年ですが、それに対する期待も大きいと思いますがいかがですか?
「ここまで本当にチームとして、クラブとして多くの人に愛されて、非常にしっかりとした基盤、愛されるクラブを作ってきたのは素晴らしいことだと思います。10周年ということでさらにそれを飛躍させる、そういう使命を預かったんだなと自分にプレッシャーをかけて、そういう覚悟の中でやっていきたい。当然、ワールドカップイヤーで、サッカーが否応無く注目される年だと思います。そこに負けずにその波に乗っていって何とか県民の方に注目していただき、応援していただくだけじゃなくて僕らが活力を与える存在になれればと思っています」
Q:4年ぶりに日本のサッカーに携わるなかで楽しみな点は?
「2年間のFIFAのいろんな国での活動、それから中国での2年間の活動は自分にとってもいい経験になりましたし、ためになった。ただ、それを日本にかえって発揮したい、それは4年間の活動の中でずっと胸に秘めていたことです。それをこの熊本の地で復帰して、力をまた出すことができるというのは非常に嬉しく思っています」
Q:世界中のサッカーを見て来られている小野新監督ですが、サッカーが与える力、地域や人々に対してサッカーの魅力や力にはどんなものがあると感じていらっしゃいますか?
「すごくいい質問で。自分もまだ、サッカーのパワーの全てを知り尽くした人間ではないと思ってます。というのは、FIFAの2年間の活動の中で、ちょっと話が逸れちゃうかもしれませんけれども、いろんな活動がありました。特に力を入れていたのが、より良い未来を創造しようと。サッカーがサッカーの中で完結していたら意味が無いという強烈なメッセージがあります。スイスのチューリッヒでいろんな研修をして、そこから世界中へ飛んで、本当に貧困で困っていて、明日食べるものも無い、そういう人たちにどれだけサッカーが希望を与えて、それまでうまくいかなかったことがプラスの方へ回転していく、そういったことが多々ありました。例えば中東のイスラエルの子とパレスチナの子とグラスルーツのサッカーをやって、最後は握手をして涙を流す、そういったところに携わったり、あるいは自分が行った中ではフィリピンのミンダナオ、やはりここもイスラム教徒が激しく戦っている、そこで子ども達を集めて、ストリートチルドレンも呼んで、お互いに最初は緊張して全然話せなかったのが、何試合か楽しませてやっていくうちに最後は皆の涙と笑顔があったり、我々はサッカーに携わっていながら、本当に人間が生きていくためのサッカーのパワーというのを知らずに、僕らはここまで育ってきたなという印象を持ちながらのFIFAの仕事でした。まだまだ僕は、サッカーのパワーがあるんじゃないかと信じている1人です。サッカーがあるからこそ日々の生活に活力が出る、明日へのエネルギーが出る、それを少しでも、フルに実現するなんてことは到底できなくても、それを1歩ずつ実現していきたい。サッカー選手や我々サッカーコーチがなんでこうやってサッカーで食べさせていただいているのか、それは、それをしなければいけないという使命があるからだと信じております」
Q:熊本について、地元に人に支えられて育ってきたチームという印象があるとおっしゃいましたが、理由としてはどういうところにそれを感じられるんでしょうか?
「まず、このロアッソ熊本の話が決まってすぐにですが、熊本中のサッカーの指導者の人に連絡をいただいて、一緒にやっていきたいというメッセージをたくさんいただきました。それだけロアッソが根付いていることを理解させていただいたことと、やはりスタジアムの雰囲気が自分にとっては大きなインパクトがありました。苦しいときこそ支えて、応援して、一緒になって戦っていく。そういったスタジアムの雰囲気は一朝一夕にできるものではない、それも十分知っております。いろんな意味で、熊本中の力で戦っていく、そして、それが相互関係で、支えられて戦い、夢を与える存在になっていく、そういったロアッソに興味をもって、魅かれたというのが自分の中には非常に大きくあります」
Q:ファンの方にひと言。
「まだ、どういうサッカーをというのは作っていっていない段階なんですけれども、スタジアムに行ってみたい、応援したくなるとうようなサッカーをとにかく展開していきたい、それだけは強く思っています」
Q:先ほど、広島時代には市町村を回って指導者と交流されたというお話がありました。また、ここで育った選手が赤いユニフォームを着て、小さい子ども達がそこに憧れるという循環を作りたいというお話もありました。熊本でもそういう形で市町村を回って指導者の方と積極的に交流されるということでしょうか?
「広島の時はユース育成とコーチングのダイレクターとして、監督ではない時期があるんです。その後、日本代表でフランスワールドカップに行って、また少しして監督に戻ったと。その最初の時というのは、週に1回、トップから育成の指導者を全部集めて勉強会をやって、週末は市町村に出て行って、指導者と交流していたので、監督になってしまうと週末にきめ細かく回るというのは物理的に難しくはなると思います。ただ理念として、監督だからやらないということではなくて、時間的にどうしても限られてくる。その分、少ない時間の中でどれだけ効率的に、効果的に地元の指導者と触れ合って夢を共有し、あるいは自分で何か、彼らにとってプラスになることがあるのだったら、勉強の材料を提供するということは、継続してやっていきたい。それは非常に強く思っております」
Q:熊本には何度もいらっしゃっているとのことですが、熊本の人、食べ物などの印象と、あるいはこれから熊本で生活するにあたってやっていきたいことは?
「ヨーロッパに留学して帰って来て、加藤久委員長に強化委員に抜擢されて、最初に来たのがここだったんです。その時に、小中高のトレセンと呼ばれる組織の指導で来たんですけど、本当に熊本の指導者達の熱さに触れたのが最初の印象です。で、まあ、ここの食べ物がすごくおいしいというのが(笑)、ロアッソを選んだ1つの理由であるのも間違いないかなと思ってます。何を食べてもおいしいですし、山があって海があって、素晴らしい方々がいて、全ての面で自分にとって本当に素晴らしい地である、それはずっと自分の頭の中にありました。昔から非常に好きだったと思います。だから毎年のように来て。最初に育てた子達はもう指導者になってますけども、ここに帰ってくることができて、非常に嬉しく思ってます」
Q:それから、来年は午年なんですが、午年にかけて何かひと言いただければと思います。
「実は、今初めて気がつきました(笑)。10周年でしかも午年っていうことですね、馬が駆け巡るように、そういう熱いサッカーをやっていかなければいけない年になる。もうひとつ自分のところに(肩に手をやりながら)プレッシャーが来たので(笑)、このプレッシャーを力に変えていきたいと思います」
Q:社長にお聞きします。クラブ創設10年目ということで、新監督にチームを率いてもらう中で、具体的に求めること、達成して欲しいことは?
●池谷友良社長:
「指導者としては本当に信頼してますし、先ほどから話があってますが、自分の理想のサッカー論というのはあると思いますが、いろんな話をする中に、今いる選手をどうやって育てていくか、今までちょっとベテランが多かったので、これは僕らの反省でもあるんですが、トレーニングも怪我が怖くてなかなか(強い強度で)できなかったり、やっぱり日々鍛えていく中で成長していく、シーズンが終わった時に、選手本人もチームとしても成長を感じられる、それを十分、やってくれる監督だと思ってますし、こういう地域性を見た中で僕らがずっと言っているのは、赤い魂を持った選手育成をしようと言ってます。最後はトップになるか分からないですが、熊本で育ち、一緒の夢を描いて戦っていく、そういう選手がいろんな所に輩出されて、最後はまたここに戻ってくる、そういうクラブを作っていきたい。それを、経験から言ってもやってくれる監督だと思っています。いろいろ話をしてそれは自信もありますし、そういう意味でクラブとしての立ち位置は、監督をしっかり支えていきたい。そしてこの熊本を一緒に盛り上げていきたいと思っています。
全然違うんですけどエピソードとして、昔、僕があるクラブで監督をしていた時に、彼も広島で監督をやっていて。すごく印象深かったのが、これも縁かなと思ったんですけどね(笑)、うちにいる南(雄太)が自分のゴールに入れちゃった時に、相手の監督に小野剛がいたという(笑)。これも何か巡り合わせかなという風に思って、またより近いものを感じたというか。それを冗談で話しながら、一緒に仕事ができるということがすごく嬉しく思いますし、皆さんも、このクラブ、そして監督を支えていただければと思います」
Q:契約期間は?
●池谷友良社長:
「えーとですね、僕もよく分からないんですけど(笑)。あの、気持ちは、これが完結するまでやりたい。でもプロの世界なので、これは私も一緒ですけど、覚悟を持ってやらなければいけない。そしてそこに責任が生まれなければいけないと思ってます。そういう意味でお互いプロフェッショナルとして、いい仕事ができれば。それが続いていくことをこの時点では希望してますし、このクラブの理念を一緒に、共有して欲しいなと思っています」
Q:練習の指揮はいつから執られる予定ですか?
●小野剛監督
「1月15日にスタートする予定になっています。また、どういう形でスタートするかというのは、正式にリリースさせていただくことになると思います。そこから自分がやっていくことになると思います」
Q:憧れている指導者や理想とする指導者像があれば、具体名を挙げられるようであれば理由と合わせて教えてください。
「いろんな指導者に僕は影響を受けました。中でも、一番いろいろ勉強させてもらったのは、元スコットランド代表監督でUEFAのテクニカルダイレクターをやっていたアンディ・ロクスブラさん。彼にはたびたびヨーロッパにも招いていただいて、本当にいろんな勉強の機会をいただきました。あと、単純にすごいと思うのは、あれだけ長い間ずっとトップで君臨していたアレックス・ファーガソン。その中にある、いろんなマネージメントは非常に興味がありますし、今でしたらペップ・グアルディオラに非常に興味を持っています。あと、身近にいて一番影響を受けたというか、尊敬に値すると言っていいと思うんですけど、岡田武史さんとは今までずっと一緒にやって、その都度ですね、日本代表を指揮する時、それから中国で粘り強く指揮する姿、いろんな面で本当に、すごく勉強させていただいたと思っています」
Q:岡田さんからは熊本の監督就任について何か言葉は?
「最初は『えっ、行くの?』って言われたような気がします(笑)。最初は、中国のクラブの方を皆でポンと帰っちゃうわけにもいかないし、『お前、残れよ』って感じで言われてたんですけど、『ロアッソに決めました』と言うと『そうか、頑張ってくれ』と、意外と、その辺はさっぱりなんです(笑)。『応援するよ、1回美味いもの食いに行かなきゃいけないな』と言ってました(笑)」
以上