蛇口のレバーを赤マークに回してからお湯が出るまでの時間を長く感じる季節になり、J1リーグも残り3節と佳境に入った…特に上の方が。2013シーズンにJ1に昇格した甲府、湘南、大分の3クラブともに厳しい戦いを強いられることは予想通りで、甲府がリーグ戦で初勝利を挙げたのは第5節・アウェイ大分戦、湘南は第7節・ホーム大分戦、大分は第12節・アウェイ新潟戦、磐田は第8節・ホーム湘南戦。序盤はどのチームも勝ちに恵まれない状況でシーズンをスタートしている。偶然かも知れないが大分は残留争いをしている甲府と湘南にリーグ戦初勝利を奪われている。第5節もそうだったが、大分はシーズンを通じて競った試合が少なくない印象だが、勝ち切れずに最も厳しい結果を受け入れることになってしまった。一試合当たりではちょっとの違いでも積み重なると大きくなる、長丁場のリーグ戦の難しさ・厳しさを感じさせられる。

しかし、第28節でＣ大阪（中銀スタ)に敗れてJ2降格が決まって以降、公式戦3勝2敗とハイペース。天皇杯では甲府が大の苦手とする新潟に延長戦で競り勝ち、甲府が第29節で得点差（0−2）ではない部分で力の差を感じさせられた柏にも1−0で競り勝っている。新潟に関してはリーグ戦、天皇杯、ナビスコカップ合わせて2勝1分1敗と圧倒。相性もあるのだろうが、不思議。第29節から4バックにシステムを変更したことも要因だろうが、一番は降格が決まってしまったことで気持ちが吹っ切れたことではないだろうか、と勝手に想像している。降格決定後、公式戦3勝2敗という大分をホームに迎える甲府は前節の大宮戦以上に難しい試合になりそうだ。

今節の甲府は天皇杯4回戦の札幌戦（＠うまスタ）から中2日で、16日（土曜日）に4回戦を戦った大分よりコンディションが厳しいことは間違いないが、それを言い訳にする準備はしていない。やっているのは、勝つための準備だけ。熊本からの復路は、試合後バスで福岡に移動し、翌朝に福岡空港から松本空港に飛んで、羽田経由よりも移動時間を短縮した。大分戦の先発予想11人のうち、パトリック、柏好文、佐々木翔、山本英臣の4人が札幌戦で120分間プレーし、羽生直剛のケガでスクランブル出場した河本明人も約100分間プレーしている。大分と終盤まで勝負がもつれる戦いはしなくないので、ここ最近取り組んでいるカウンターと遅攻の使い分けで早い時間帯に先制ゴールを挙げて、少しでも楽な展開に持っていきたい。

ただ、ゲームプランも人生のプランも大抵は思い通りにならないもので、そうなってからの勝負でもある。魂のこもったプレーをする高松大樹、レイソルの方の柏を沈めるゴールを決めた西弘則、やんちゃな意外性の森島康仁らは怖い存在。負けない甲府の安定感、それを支える最後の砦の3枚のうち2枚（山本、佐々木）が120分プレーしているので気力だけでは補えないかもしれない終盤は少し不安。甲府のサブメンバーを正確に読むことは難しいが、ケガから復帰してコンディションが上がってきている土屋征夫、伊東輝悦、三幸秀稔、橋爪勇樹あたりが特に充実しているように感じるので、交代選手が試合を決める展開も想定内。攻撃ではパトリック、ジウシーニョ、河本の三角形に右サイドの柏が絡む展開で決定機を多く作りたい。大分は高木和道と阪田章裕のセンターバックコンビが巧みなラインコントロールで、第29節以降のいい流れに貢献しているが、今節は阪田が出場停止。甲府のカウンターをどれだけ防ぐことができるかの勝負にもなると思うが、阪田の代わりに入りそうな若狭大志がまずは守備でどれだけ貢献するかがポイントになりそう。そして、レイソルではない方の柏への対策もポイント。彼の仕掛けに対してボランチやサイドバックがどう対応するのか、それを彼がどう破るのかも見どころ。

青山直晃、山本、佐々木の面子の３バックになった第22節以降、公式戦は7勝4分2敗の甲府。山梨に乗り込んでくる大分は第29節以降、公式戦3勝2敗。守備の安定からチームを立て直した甲府と大分は少し似ている境遇。ともに天皇杯準々決勝に進む切符を持っており、両チームに思い入れのない世間さまは消化試合だと思うかもしれないが、両チームに関わる人にとっては12月22日の戦いを見据えた上でのリーグ戦でもあり、重要な一戦。守備の安定感を高めつつ、リスクを負った攻撃力もこれからは必要になる。また、大分も順位は確定していないし、甲府は鳥栖（14位）や大宮（13位）を抜いて一つでも上の順位に行きたい。吹っ切れた大分を甲府が受け止めるのではなく、甲府らしさを大分が受け止める展開に持っていけるかどうかで勝負が決まりそうだ。

以上

2013.11.22 Reported by 松尾潤