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【J1:第31節 大宮 vs 甲府】レポート:臥薪嘗胆の城福甲府。大宮に雪辱し残留リーチ。(13.11.11)

会見場に現れた勝利監督は、満足そうではあったが、その表情に笑顔はなかった。むしろ、言葉を紡ぐたびに怒りが蘇るといった態で、「50秒ほどしか11対11でやらせてもらえずに点を取られ続けた」(城福浩監督)5月25日の前回対戦が、甲府にとっていかに悔しいものであったか、強い口調でくり返した。あれから169日を経てなおこれほど強く怒りを持続していたことに、甲府側の記者たちも半ば呆れ気味に感心していたほどだ。まさに臥薪嘗胆。あの時と同じ「0-3で終わりたかった」という指揮官の願いはかなわなかったが、大宮を攻守で完全に凌駕し、城福甲府は雪辱を果たした。

試合は不穏な幕開け。3分に菊地光将がパトリックとの空中戦から脳震盪を起こして救急車で搬送され、大宮は早々に交代カードを1枚切らなければならなくなった。代役としてのニール投入が大宮の敗戦の遠因になったのは確かだが、試合の大勢にまで影響を与えたわけではない。甲府は守備時は5-4-1の布陣で守りを固めてカウンターをねらう。大宮はボランチに上田康太を起用し、ボールを動かして甲府の守備ブロックを崩しにいく。予想通りの展開で試合は進んだ。
甲府の守備は実に堅かった。ただ引いて守るだけでなく、「前から奪いに行くところと、しっかりオーガナイズしてゴール前を固めるメリハリ」(城福監督)が効いていたし、帰陣が速く、最終ラインの5枚と中盤の4枚の間も狭い。大宮はバイタルエリアになかなかボールを入れられなかったし、入れてもあっという間に囲まれて奪われた。ただ、そこから始まる甲府のカウンターに対して、大宮もコンパクトに守って対処はできていた。しかし21分、「警戒していた、やられてはいけない形」(小倉 勉監督)だったはずの、自軍コーナーキックからのカウンターで先制点を献上すると、そこからの守備組織はバラバラになった。
ボールを保持して攻める時間は長いぶん、傷口は大きく広がりはしなかったが、甲府の簡単に最終ラインの裏へ蹴る攻撃と、ピッチの横幅を使った揺さぶりに、大宮の守備ブロックの間隔は広げられ、その間を面白いように回された。特に甲府の左サイドで、福田健介を起点に村上和弘とニールの間から裏へ飛び出され、クロスがパトリックの頭に合う決定機を何度も作られる。もちろんそれは大宮が前がかりになっていたからでもあるが、その攻撃でも意図が合わない場面やミスからのボールロスト、甲府の激しい守備に選手もサポーターもフラストレーションを募らせた。

そして37分、ズラタンが競り合いから佐々木翔を後ろから蹴り、1枚目の警告を受ける。さらに55分、大宮の左コーナーキックからファーサイドで合わせようとしたノヴァコヴィッチが倒れたプレーを主審が流したことに抗議し、ズラタンが2枚目の警告。前回対戦で松橋優を退場に誘った選手が退場したことに、何か運命的なものを感じずにはいられない。
10人になった大宮はそれでも攻勢を続けていたが、攻めあぐねた末の選手交代が裏目に出る。76分に小倉監督は村上に代えて渡部大輔を投入し、3バックへの変更を指示。チョ ヨンチョルとノヴァコヴィッチが2トップとなり、「僕が3バックの右で、ルーカス(ニール)がアンカーというかボランチの位置にという指示だった」と金澤は言う。つまりベンチの思惑としては3-4-2の形だったが、言葉の壁もあってかニールに伝わりきらず、結果として金澤が右サイドバックに入る4-3-2の形になった。それはそれで収まりは良く、基本的に攻勢に出ていたこともあって混乱したというほどではなかったが、どこからどう指示が伝わったのか、80分にはニールが右サイドバックの位置に移動したため、金澤が右センターバックに入った。その直後、甲府のサイドチェンジからのパス回しに、ジウシーニョをマークしていた金澤が中盤に釣り出される。そのポッカリ空いたスペースにパトリックが走り込み、甲府の2点目が生まれた。
90+2分にノヴァコヴィッチのフリーキックで一矢は報いたが、大宮は最後まで甲府の堅守を崩せなかった。守備のみならず、攻撃でも甲府に完敗した。ブロックの外でのボール回しに終始し、行き詰まったあげく最後は下平匠のクロスしか大宮の攻撃に可能性はなかったし、縦の速さとパワーに、遅攻では横の揺さぶりを加えた甲府の攻撃は、決してカウンター頼みのチームではなかった。あの日から積み上げてきたサッカーで、169日前の因縁の相手を叩き伏せたのだから、城福監督にとっては残留がほぼ確実になったことよりも、ただこの試合に勝利したことが何より感情を高ぶらせたに違いない。試合終了後に、小倉勉監督が審判に詰め寄ろうとしてスタッフに制止されていたが、もしあの日の城福監督と同じように退席処分を受けていたら、完全に運命の皮肉となっていたところだった。

残留を争う磐田、湘南がともに敗れたことで、磐田は降格が決定(※)。湘南と甲府の勝点差は残り3試合で9となり、得失点差が14あることを考えれば甲府の残留はほぼ確実となった。「攻撃にもう少しエネルギーをかけさせてやりたかったが、我々の置かれた立場から、絶対に守備だけは妥協できなかった」(城福監督)というこの堅守速攻をベースに、城福監督の代名詞のムービングフットボールを加えていくであろう来シーズンの甲府は、面白い存在になりそうだ。

一方の大宮は、これで7連敗。選手のプレーは自信を失っているし、自信を失っているから互いのプレーへの信頼度も落ち、連動性は望むべくもない。そこに輪をかけて、ベンチワークも問題だ。F東京戦、前節の名古屋戦に続き、今節でも選手交代に伴う布陣変更から混乱が起き、その中で失点している。机上ではいかに理にかなった策だったとしても、選手の判断力と適応力、それによって起こる化学反応に期待して、あらかじめ練習やミーティングで共通理解も作っていない策を実戦に投入するというのは、ギャンブルにすぎるだろう。
大宮も甲府も、169日前とはまったく違うチームになった。選手が本来持っているはずの力を発揮できていない状況が、ただただ歯痒い。

以上

※Jリーグ理事会の承認をもって最終的に確定します。

2013.11.11 Reported by 芥川和久
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