横浜FMが9年ぶりの戴冠への情熱を、序盤からたぎらせた。「いつもならボールを下げる」(中村俊輔)キックオフ直後のプレーを、この日は前へ。齋藤学がドリブルで左サイドから突っかけ中へパスを出す。その先にいたマルキーニョスは、強引にシュートを放ち、相手DFにシュートブロックさせる。そこまで開始20秒に満たなかった。3試合ぶりの勝点3獲得への強い意志が感じられるファーストプレーに、スタンドの約8割をトリコロールに染めたファン・サポーターが呼応。ハイテンションな大声援で選手を後押し、中村の先制点が生まれる。
4分、敵陣中央でボールを受けた背番号25は、“中村番”に指名されたマーカー村松大輔がチャージに来た際に踏ん張り、弾き飛ばして加速。だが、勢い余って転倒した村松はすぐさま起き上がり、再び中村に食らい付こうと飛び込む。それをマタドールのごとく左にひらりとかわした中村に、迷いはなかった。ゴール前は混雑気味で、左には攻め上がったドゥトラがフリーで待機していたが、左足を大きく振り抜く。グラウンダーショットが一直線、ゴール右隅へ吸い込まれた。
その後も横浜FMがアップテンポのボール回しと対人プレーの強さで主導権を握り、清水を自陣に押し込む。“受ける”格好になった清水は、ただ守るだけではなかった。ボール奪取後に素早く縦パスを送り、高さと速さを兼ね備えた前線を生かすカウンターを試みる。特に本田拓也は、切れ味鋭いロングパスを何度か通し、反撃の起点となっていた。
29分にはその本田と相手の齋藤が交錯。獲得したFKをラドンチッチが直接シュート。巨漢に似合わぬ繊細な左足キックで放物線を描いたシュートは、クロスバーを叩く。続く30分には石毛秀樹が右サイドをえぐり、際どいシュートを放つ。最前線のラドンチッチという強靭な的に合わせるハイパント攻撃も、ジワジワと相手DFラインを押し下げる効力を発揮。そのため、横浜FMの中盤はやや「間延びしてしまった」(栗原勇蔵)。その兆候が見られたのは40分過ぎから。その後はスタメンの平均年齢で7.09歳も若かった清水が躍動し、主導権を握る。
その証拠に2度の決定機もあった。後半開始早々、大前元紀が栗原を鋭いターンで揺さぶり、一瞬できたスペースを見逃さずにシュート。ボールは右ポストを直撃。84分にはCKでのクリアボールを拾った杉山浩太の一撃が再び右ポストを叩く。首位チーム相手に最後まで果敢に攻め、アフシン ゴトビ監督も「素晴らしい試合だった」と自画自賛。連勝こそストップしたが、下を向く必要はないだろう。
一方の横浜FMは、“結果”に満足気な選手が多かった。「1−0で勝てるチームは、優勝にふさわしいと僕は思います」。安堵の口調で中澤佑二が言った。長いシーズン、選手個人もそうだが、チームにも調子のバイオリズムがある。たとえ内容が良くなくても帳尻を合わせて勝つことができるのが、常勝への近道と言える。この一戦の横浜FMがまさにそう。苦しい中、体を張って耐え、1点を守り抜いた。辛勝ながら、大きな意味を持つ白星に違いない。
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2013.09.22 Reported by 小林智明(インサイド)