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【J1:第26節 浦和 vs 甲府】レポート:独特のシステムが機能しなかった浦和。甲府は反攻の姿勢が実った(13.09.22)

「我々は意図する攻撃の形を準備していたけど、残念ながらそれが思ったような形で出なかった」
浦和の新たな試みはうまくいかなかった。攻撃時にボランチが2枚ともDFラインに落ち、上からみると“◯”のような形になる特異なシステム。それはこれまでも試合状況によって何度か出ていた形であり、あるいは川崎F戦やF東京戦のように選手たちの判断で使われることがあった形だが、甲府戦では指揮官主導のもとで採用。今週の練習で入念に動きを確認してこの一戦に臨んだが、望んだようなパフォーマンスは見られなかった。

ボールを回すことはできた。5−4−1で守る甲府に対し、浦和は城福浩監督が言うところの“ゼロボランチ”。真ん中で相手のボランチ2枚がだぶつく分、DFラインやサイドで数的優位を作れるのでパスは回る。そして、そもそも甲府は引いて守っている。だから前半、浦和が圧倒的にボールを支配したのは当然の帰結だった。

ただ、その状態で効果的な攻撃ができたかというと話は別だ。ポジション取りを考えれば当然とも言えるが、ボールは相手ブロックの外を回るばかり。まるで「ロンド」と言われるボール回しの練習をしているかのようだった。指揮官は「特に前半はサイドにボールが展開されても、そこからバックパスや横パスが多かった」と振り返ったが、そうなるのも仕方がなかった。サイドで1対1を仕掛けるにしても、相手の守備の枚数が多いので、局面が変化するようには見えなかった。
そういった状況を打破しようと、特に柏木陽介がなんとか縦パスを引き出そうと前線から落ちる動きを繰り返していたが、バイタルエリアでいい形でボールをもらえることは少なかった。前線の選手にとっては不満のたまる展開だっただろう。

しかし、出し手の心理からすれば、バイタルエリアにパスを出すのは容易なことではなかった。ドーナッツ型のフォーメーションでボールを中央で失った場合、中盤には誰もいないので、守備陣は“丸はだか”の状態でカウンターを受ける危険性が高くなる。これまでの4−1−5の形であっても、縦パスにはある程度のリスクがつきまとっていたが、1枚でもフィルターがあるとないとでは大きく違う。ゼロボランチシステムでは、中央へのパスのリスクが格段に高くなる。
「縦パスを出してインターセプトされて前向きでカウンターを受けるよりは、サイドで起点を作りたいという心理が働く。どうしても横、横になるのは仕方ない」と森脇良太が振り返ったように、あの形ではどうしても縦パスという選択はしにくくなる。実際、浦和が中途半端な形でボールを失うと、甲府はシンプルなカウンターで何度か決定機を作っていた。後方の選手が縦パスを恐がるのも仕方がない。

前半、浦和は一方的にボールを回しながらも、シュートの数はわずか3本。引いて守る甲府の5本よりも少なかった。浦和の戦術はうまくいっていたとは言いがたかったが、それでも51分にPKのチャンスを得ると、これを阿部勇樹がきっちりと決め、欲しかった先制点を奪った。
あとはこのままボールを保持して優位に試合を進めればよかったが、そう簡単にはいかなかった。リードを奪われた甲府がそのままずっと引いて守っているわけもなかった。59分に羽生直剛を投入し、パトリックとジウシーニョの2トップに変更。リスクを負って前からプレッシャーをかける戦い方に変えると、浦和は一転して劣勢を強いられるようになった。

ゼロボランチシステムは、もう1つ大きな問題を孕んでいた。DFラインでパスを回している時にプレスを受けてサイドに追い込まれると、致命的な問題が浮上。普段のシステムであれば存在する、中央のアンカーへのパスルートがないので、同サイドの選手にマークがついていると縦に蹴り出すしか選択肢がなくなるのだ。
原理的に、甲府は2トップとサイドの選手1人のプレスだけで、浦和を“詰み”の状態にもっていくことができた。「あそこ(アンカー)に1枚いるだけでも違っていた」と槙野智章が振り返ったように、中盤に1枚でもいるかどうかというのは非常に大きなポイントだった。
甲府はその追い込み方を事前に用意していたわけではなかったという。「うちは高い位置からプレスを掛けたかったので、結果的にうまくいったという感じだと思う。もちろんうまくいけばああなるかなというのはあったけど、見た感じとしてそうやって言ってもらえるほど、簡単にいくのかなというのは僕のなかであった」と羽生は正直に説明してくれた。浦和は基本的なワンサイドカットのプレスを受けるだけで詰んでしまったのだ。

甲府は前からプレスを掛け、セカンドボールを拾って攻勢をかけるというパターンで優位に立った。それでもなかなかゴールを割れなかったが、最後はパワープレーから青山直晃が値千金の同点ゴールを奪った。浦和にとっては土壇場で勝点2を失う形となったが、決定機の数、そしてシュート数で下回ったことを考えれば、引き分けでも納得しなければいけない内容だった。

ただ、この試合ではうまくいかなかったが、ゼロボランチシステムにはメリットもある。サイドで数的優位を作りやすく、これまでよりもポジションの流動性も生まれやすいため相手のマークが外れやすくなる。この試合では型にとらわれすぎて、状況に関係なく使い続けたことで問題点も浮かび上がったが、相手の出方によって普段のシステムとうまく使い分けていけば機能させていくことは可能なはずだ。ディテールを少し変化させることで突破口も見えてくるかもしれない。この独創的なシステムを生かしていけるか、今後の成り行きを見ていきたい。

以上

2013.09.22 Reported by 神谷正明
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