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【J1:第13節 柏 vs 浦和】レポート:精彩欠く柏、怒涛のゴールラッシュに沈む。浦和は2試合連続6得点で3連勝を飾る(13.05.27)

ペトロヴィッチ監督が広島を率いていた頃から、ネルシーニョ監督との対決には、まるで将棋やチェスを見ているかのような「相手の出方に対し、自分たちがどう策を打ち、どう攻めに出るか」という駆け引きが感じられ、この名将2人がどのような策に出るかは、見どころでもある。

今節も例に漏れず、両監督による“一手”のある試合となった。柏は4−2−3−1を用いて、柏のダブルボランチが浦和の2シャドーを、柏の両サイドバックが浦和の両ウイングバックを見る形を取る。さらに浦和は後方からの攻め上がりもストロングポイントであるため、槙野智章にはジョルジ ワグネル、森脇良太には工藤壮人、クレオがセンターバック、茨田陽生がボランチをケアすることで、浦和のビルドアップを封じようとした。

「柏はカウンターが強い。相手がやりたいサッカーにいかにハマっていかないか」(ペトロヴィッチ監督)。柏と浦和は、今年2月の指宿キャンプで練習試合を行っている。その時は浦和がポゼッションし、柏がカッチリとした守備からカウンターを狙うという構図であったが、今回の対戦はその時とは若干様相が異なり「こっちが持たされている感じだった」と工藤は言う。厳密に言えば、浦和の帰陣が早く、即座に守備ブロックを作り上げてスペースを消してしまうため、柏が速い攻撃に出られず、どうしても遅攻気味になって攻めあぐねる。自分たちがボールを持って相手の術中にハマるのならば、相手に持たせて術中にハマらない。まるでそう語りかけるような浦和の試合運びである。

かといって浦和が守備的に戦ったかといえば、そうではない。柏が遅攻になると、先ほど述べた浦和に対するそれぞれのマーキングが当初の狙い通りとはいかない。前線は流動的に動き、ボランチもそのサポートに回ることで、柏の選手は持ち場のゾーンから離れるため、浦和が奪った時には必ず柏のマークが外れた状態であり、そのズレを巧みに突き、空いた選手を使って縦に速い攻撃を仕掛け、柏陣内へと攻め入っていく。

しかも阿部勇樹が状況に応じて最終ラインに降りたり、ボランチに入ったりして起点になるため、その場合は茨田とクレオが見ているのだが、そうなると那須大亮や鈴木啓太が空き、彼らの対応に柏のダブルボランチが引き出されると、今度は浦和の2シャドーが空くという循環が生まれていた。ただ、攻守の戦術面で浦和が上回っている感はあったにせよ、柏も1本のロングパスから工藤が抜け出すカウンターの威力を見せ付けており、前半の途中まではほぼ五分五分の内容だった。

明暗を分けたのはミスである。17分、増嶋竜也が横パスを奪われ、浦和がカウンターを繰り出す。柏の対応の緩さを突き、興梠慎三のポストプレーを使ってあっさりとボックス内に入った原口元気が綺麗にゴール左へ流し込む。その後、柏は一度持ち直したに見えたが、前半終了間際に右サイドを持ち上がった那須がクレオ、山中亮輔、ジョルジ ワグネルの間をあっさりと抜け出す。1人で3人を引き付ければ中の陣形、マーキングが狂うのは当然。破綻した柏の守備に対し、中央の興梠が左サイドの梅崎司へ、そこからのクロスに柏木陽介が決めて2−0とした。

綻びの糸口を突き、そこを見逃さずに仕留める浦和の精度はさすがである。柏からすれば、仮にミスが1つ出てもその後でしっかりとカバーできていれば失点は食い止めることはできるのだが、カウンターを浴びた後の対応も緩く、人数が揃っていてもマークを捕まえ切れていないため、傷口がどんどん広がり、ゴール前へ運ばれた時には前に入られ、打つ手なしといったところだった。
後半最初の失点、63分に柏木が決めたフリーキックも、1本のフィードの対応を渡部博文が誤り、そこで柏木を引き倒したファウルが引き金となった。

後半はもはや浦和の独壇場である。前がかりになり、しかも3点差で集中も切れたのか、さらにミスを頻発させる柏に対し、ボールを奪った後はグイグイと縦へのスピーディーなカウンターで押し込み、面白いように攻撃を仕掛けた。68分、GK加藤のクリアボールを興梠が前線で粘りマイボールにすると、DFを十分引き付けてからマルシオ リシャルデスのゴールをお膳立て。79分にはノーマークの森脇が、ボックス内でスローインのボールを受け、自らゴール前へ切り込み左足でネットを揺らす。87分、柏の連携のミスを突き、ボールを奪った原口が縦へ運び、ゴール前へ猛然と入ってきたマルシオのドンピシャのグラウンダーパスを通して6点目が生まれる。

終わってみれば前節の鳥栖戦に続く、2試合連続6ゴールと攻撃陣が大爆発の試合。多くの選手たちは2失点について「改善」という言葉を述べていたが、ペトロヴィッチ監督も話していたように、これだけ攻撃的に出て、DFも攻め上がる機会が増えれば、失点の危険性が増すのは仕方ない。例えば、もしこれが1点差の拮抗した試合だったなら、槙野も森脇も攻めに出る機会をもっと見極めただろうし、確かに改善の余地はあるにせよ、こういう試合展開ゆえの失点で、深刻な問題ではないだろう。

柏は、これほどまでにミスが頻発したうえに、淡泊な守備を繰り返していては、こういった結果になるのは必然である。もちろん、選手たちはAFCチャンピオンズリーグの疲労を敗戦の理由にしてはいない。だが、ACL明けの試合で不甲斐ないパフォーマンスする度に「改善しなければいけない」、「こういう試合はもうやってはいけない」、「これを次に生かす」と猛省しながらも、結局は同じような試合を繰り返し、いまだ解決策が見られないのが現状だ。

ミスが出てしまうのは集中力の欠如、判断の悪さが原因だが、それも精神的な疲労が影響しているからだと思っている。ACLでは素晴らしいパフォーマンスをしているのだから、状態は悪くはないはず。だからこそ、肉体的・精神的な疲労、モチベーションなど、どうやってACLとリーグ戦で折り合いをつけていくのか。それが柏の抱える、最大の難問である。

以上

2013.05.27 Reported by 鈴木潤
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