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【J1:第13節 甲府 vs 大宮】レポート:満足感で中断期間に入る権利を手にした首位・大宮。退場者を出して敗れた甲府は悔しい気持ちと危機感を持って中断期間に入る。(13.05.26)

勝利の喜びや歓喜の反対側にある感情に、苛立ちや悔しさがあるけれど、久しぶりに”悲しい”という感情が沸いてきた敗北。勝って欲しいと思っているチームが負けたから悲しいのではない。勝って欲しいと思っているチームの選手と監督が、チームメイトやコーチが身体を張って抱きかかえて止めないといけないほど激高して抗議する姿を見ることになってしまったからだと思う。後半になってから、ふと沸き上がってきた感情だったが、“サッカーにはこんなこともある”では済ませてはいけないと頭の中で警告音が鳴る嫌な後味。判定はサッカーの内側にあるモノなので判定云々を言っているのではない。ヴァンフォーレ甲府というクラブ、ファン・サポーターと城福浩監督との関係についての警告音が鳴っているような気がした。

右サイドバックの福田健介がドリブルで持ち上がろうとし、ボールタッチが大きくなったところに戻りながらディフェンスをするノヴァコヴィッチが寄せてきて、十分にコントロールできないで出したパスが通らずに大宮のカウンターになったのが開始40秒過ぎ。守備に切り替わった瞬間からの甲府の選手の判断・動きを結果から逆算しても、非常に難しい決断を伴う守備だったことがわかる。パスを受け、ドリブルするノヴァコヴィッチに対峙したCB青山直晃は中を切りながら、福田の戻りを見ながら、同サイドでフリーでいるチョヨンチョルを気にしながら、味方ボランチが戻る時間を稼ぐために遅らせながら頭も身体もフル回転で下がる。青山の左後方にいたCB土屋征夫はズラタンをマークしつつ、青山のカバーに入ることができるポジションで、ノヴァコヴィッチがシュートを打つかパスを出すかの決断の瞬間に起こる(かも知れない)隙を狙っていたと思う。シュートの決定率が高まるペナルティエリア付近まで下がった青山が並んだ時に土屋はズラタンを捨ててノヴァコヴィッチのボールを奪いに行く決断をする。その瞬間にノヴァコヴィッチはズラタンにパスを出し、左サイドバックの松橋優が土屋のカバーに入り、ズラタンの足下のボールを狙ってペナルティエリア内で後ろ側からスライディング。ボールをクリアすることはできずにズラタンが倒れて、レッドカードが出て松橋は退場でノヴァコヴィッチがPKを決めた。ズラタンへのパスが通っていなければすぐに忘れてしまうピンチ。しかし、忘れられない場面になった。

首位の大宮に開始4分で1点を献上した上に1人少なくなった甲府。ゲームプランは当然崩れる。期待できるのは”松橋のために戦う”という気持ちが1人少ないという現実を超えることができるかどうか。甲府サポーターも声を出し続けていた。甲府はボランチの佐々木翔を松橋のいた左サイドバックに下げ、FW平本一樹を中盤に入れてオルティゴサのワントップに配置を変更。しかし、ワントップでは前からプレスが掛からず、ディフェンスラインは下がってしまい、1人少ない現実がそのまま不利な内容に直結。20分にはFKのこぼれ球を菊池光将に決められて0−2。甲府は1点差で踏ん張ることができず、43分にはノヴァコヴィッチにスーパーなミドルシュートを決められて0−3で前半を終える。・・・終えるはずだった。ハーフタイム、戻ってくるレフリーに抗議しようとする城福監督はコーチや通訳が3人がかりで身体を止めないといけないほど一気に激高。この抗議がもとで城福監督は退席処分となり後半のベンチから姿を消した。

後半、前半途中から4−3−2に変えたシステムが機能したのと、3点リードして少し安心感が出た大宮のメンタル的な変化もあって甲府は決定機を何度も作ることができた。選手は責任を感じて涙を流しながら退場した松橋や猛抗議で選手の思いを代弁した城福監督のためにも1点でも多く返すというつもりで戦っていた。しかし、ポストに嫌われるなど決定機はあっても決定力はなかった。何一ついいことがない残酷な試合だが、修正点は教えてくれていた。”1人少ない”、”大きくリードされる”という追い込まれた状態になれば後半のように、思い切りのいい仕掛けや迫力を持ってボールを奪いに行く守備ができたのだ。羽生直剛は、「開き直ってリスクを冒してでもサイドバックが上がったりという状況を作ってチャンスになった面があるけれど、それが11人の時に上手くできるのか。『行くしかないんだ』という状況だったから一人ひとりが積極的に出て行ったと思うけれど11人の時にそれをどこで出すのか。11人の時に出せなかった攻撃を(10人で)出せたということは11人の時はやりきれていなかった面もあると思うと、そこの質をもっと上げていかないといけないと感じた」と話す。ゴールデンウィーク明けあたりから甲府はバランスが崩れだしていた。順位が中位だったからではなく、”負けない甲府”の次のステップである”勝点3を取れる甲府”に進もうとする中で結果的に”(勝てるポテンシャルはあるのに)勝てない甲府”という姿でもがき苦しんでいる。城福監督は全部自分の責任だと背負い込むだろうが、VFK甲府はプロの集団。同じようなミスを繰り返したのは選手の責任でもある。

大満足の大宮。30点台一番乗りの勝点32、二桁一番乗りの10勝、総得点も1位タイの25点、負け数は最小の1敗、失点は唯一の一桁9点と全てで1位(ACL組は1〜2試合未消化)で中断期間に入る大宮。あと1〜2勝でJ1残留も決定的になりそうな勝点。チームもファン・サポーターはいつもの心配ではなく、優勝争いやACL出場圏入りの心配をする権利を手にして、機嫌良く中断期間を迎えることができる。首位の重圧が後半に向けて大きくなっていくことが予想できるが、そのなかで選手がどう受け止めてそれに立ち向かっていくかが後半の大枠の見所になるだろう。

試合前のセレモニーでJ通算100試合出場記念で妻と子供から花束を貰った松橋。晴れ姿を見せたかったという思いが悔しさや情けない気持ちをより強くした思う。花束を貰ってから5分も経たずに退場になったことは本当に辛かったはず。でも、「泣くな」。2試合程度の出場停止の処分が下されるのではないかと推測するが、リーグ戦は続くし松橋優は必要な選手。次も怯まずスライディングして足をボールに当てればいい。それだけではないが、そのために必要なことを徹底して中断期間にやればいい。気になるのは城福監督がひとりで抱え込んでいるように思えたこと。選手の能力を活かし、時には逆風から守るのは監督だが、監督を守るのは誰なのか。フロントもそうだけど、主力はファン・サポーター。同じ船に乗っている仲間として苦しみや危機感も共有したいし、城福浩の監督としてのストロングポイントを十分に発揮できる雰囲気を作りたいと思っている。サッカーに対する溶けた鉄のように熱い気持ちや真摯な取り組み方を尊敬しているからこそ、ネガティブな感情を城福監督の中に増やしたくない。

中断期間を、悔しい思いと危機感を持って迎えることができるアドバンテージが甲府にはある。大宮もそうだけど対戦する大抵のクラブは甲府より予算規模が2倍以上。甲府がやっている、やろうとしているのはマネーボールの世界でもある。負けても13位、全然問題ない。前半戦で甲府に勝ったチームは”全部後半戦で倒してやる”という意気込みで6月を過ごすだけ。再開後のホーム国立の浦和戦のベンチに城福浩が座れないことと、ピッチに松橋優が立てないことが残念だけど、この試合を凄い試合にするためにみんな一丸で闘おう。

以上

2013.05.26 Reported by 松尾潤
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