中国でのアウェイ戦。残念なことなのか、血が騒ぐことなのかはわからないが、日本のスタジアムでは絶対に経験できない空気がそこにある。
2008年のACL。4月23日、鹿島アントラーズは北京国安とのアウェイ戦に臨んでいた。この年のレギュレーションは各グループの1位のみがベスト8に進出するというもの。グループFは鹿島と北京の争いとなっていた。ホームを1-0で勝った鹿島はアドバンテージを持って北京に乗り込んだ。会場は北京五輪に向け工事中だった北京工人体育場でなく、北京の南西部にある豊台体育場。
五輪を控え、華やいだ雰囲気の北京市内と異なり、豊台体育場は緊迫感が漂っていた。それほど多くない北京サポーター、それに100人ほどの鹿島サポーター…。という試合にしては不釣り合いなほどの警官がスタジアムを取り囲んでいた。スタンドで話しを聞いた鹿島サポーターは「横断幕は持ち込めないと言われましたが、『これは俺たちの魂だ。魂を置いてくることはできない』と押し通した」と、表に出ることのない戦いを教えてくれた。
ピッチで選手が戦うのと同様、サポーターもスタンドでアウェイの洗礼を受ける。2012年の北京は4年前と大きく状況が変わっていた。2008年とは比べ物にならないほど増えたサポーター。そして、より好戦的な一部のサポーター。それでもF東京のサポーターたちはその圧力を受け流した。挑発を受けようと笑顔と拍手で返した。そのうちに毒気を抜かれた北京サポーターは挑発することを徐々に諦めていった。
しかし、広い中国、広州は北京と明らかに違っていた。広州の空港で入国する際、マスコミのビザで入国するためか、税関で呼び止められ、荷物のチェックを受けることになった。だが、「渡航目的は?」と若い係官に聞かれ、「ACLの取材だ。FC東京を知っているか?」と言うと、無愛想だった係官は「おー!ACLの取材か。ようこそ。でも、明日は広州が勝つよ」と笑顔になり、チェックせずに通された。スタジアムでも敗れて引き上げるF東京の選手に、広州のサポーターはスタンドから拍手をしてくれた。そして、F東京のサポが勝った広州の選手に拍手すると、広州のサポはそれに感謝してF東京サポにさらに拍手を送ってくれていた。
昨今の国際情勢で観戦には様々な制約があり、中国での観戦はアウェイ感が満載だが、それだけにゴール裏からの声援は選手の心に届く。昨年のACLベスト16で広州と対戦したF東京のポポヴィッチ監督は試合後こう言った。「今日は170人のサポーターが来てくれたと聞きましたが、1万7000人ぐらいの声援に聞こえました。サポーターの歌はスタジアムがどんなに騒がしくても私達に届いていました」。
そして、今年も各節2日続けて中国でJリーグのクラブがアウェイ戦を戦う。2月26日に広州で浦和、翌27日は貴陽で柏。3月は12日に南京で仙台が戦った後、13日は北京に広島が乗り込む。今年のFIFAクラブワールドカップはモロッコで開催されるため、Jリーグ優勝枠はなく、アジアで勝つしか出場することはできない。2007年の浦和、2008年のG大阪以来のアジアチャンピオンを目指し、クラブとともに早春の大陸へ乗り込もう。中国は世界への一里塚。その遥か先には世界が待っている。
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Reported by 小野寺俊明(スポーツ企画工房)