前節・千葉戦の翌日となる3月18日に、横浜FCは岸野靖之監督の解任を発表した。第3節でのあまりにも早すぎる解任劇であるが、同時に横浜FCは中2日という究極の状況で、新たなスタートに否が応でも立たされることになった。一度開き直り、その上で個々ができる役割を果たして、新たな一歩を踏み出すしかない。この解任劇で払った犠牲に見合った収穫を残り39試合で得るために、大事な第一歩となる一戦。昇格に向けて順調な滑り出しを見せた東京Vは、その一歩の意味を測る意味で格好な相手と言える。
横浜FCが、この試合で成さなければいけないこと。それは、チームとして、クラブとしての「拠り所」を1つでも作ることだろう。開幕からの3試合で、不安定な戦い方を続けてしまった。それは、一度後手に回ると、ゲームを落ち着かせて再び自らのペースに戻すことができなくなる状況が続くことだ。開幕戦では、先制しながら同点に追いつかれると水戸にペースを渡して逆転負け。第2節の愛媛戦では、固い守備からのカウンター攻撃を繰り出す愛媛に90分間ペースを渡したままだった。そして、前節の千葉戦でも千葉の追い込み方にはまったまま、ボールの落ち着かせどころがなくなり、一方的な攻撃を受けた。後手に回った時に挽回する手段が少ないというのは、今シーズンだけでなく、横浜FCにとっては長年持っている課題とも言える。岸野監督が実現しようとした「粘り強いチームへの変革」というテーマは、誰が指揮を執るにせよ横浜FCにとっては避けて通れない課題だ。この東京V戦こそ、課題解決の第一歩を刻まないといけない。
とはいえ、中2日という状況での試合であり、18日はリカバートレーニングが中心だっただけに、戦術的な変化を付ける時間は少ない。その中で、1つでも「拠り所」となる戦術的なテーマを持ち、そのテーマを東京V相手に遂行できるかどうかがポイントとなる。その拠り所が、守備なのか、ポゼッションなのか、攻撃的な部分なのか、そのさじ加減は田口貴寛監督代行の手腕に託されるが、1つ拠り所が出来ることでチームに落ち着きが出来るはずだ。東京Vから勝点を奪うには、その第一歩が重要になる。
さらに、この試合は横浜FCの家(ホーム)であるニッパツ三ツ沢球技場で行われる。横浜FCが新たな第一歩を踏み出すためには、家族の団結が不可欠だ。2006年に、開幕戦後の監督解任を行ったとき、三ツ沢球技場では
「フロント・選手・サポーター今こそ団結しよう」
という横断幕が掲示され、家族は気持ちを一つにした。その試合で記された引き分けという一歩はJ2優勝へとつながった。再びクラブに訪れた試練は、この言葉を思い出す良い機会となるだろう。
そのニッパツ三ツ沢球技場に乗り込む東京Vは、第2節の甲府戦で苦杯をなめたものの、3年目の指揮となる川勝良一監督のもと、充実のサッカー内容を見せている。東京Vらしいパスワークに加え、一言で言えば戦術的なバランスの良さが加わり、多彩な戦い方ができるようになっている。特にジョジマールが確実にボールを収め、西紀寛が確実にサポートし、阿部拓馬のフィニッシュの力を最大限生かすコンビネーションは、すでに完成度が高い。
さらに、前節の富山戦では、小林祐希と梶川諒太のダブルボランチも、攻守にわたって質の高い動きを見せた。そして、土屋征夫を中心とした守備陣もバランスよく穴が少ない。退場者を出しながらも4-1で圧勝を見せた点も含めて、開幕から「チームとしての強さ」を見せている。東京Vにとっては、対戦相手の状況とは関係なく、この良い流れをさらに継続してスタートダッシュを継続していく大事な試合となる。その意味では、横浜FCが落ち着きを見せる前に、立ち上がりから東京Vらしいテンポ良いパスワークを出していくことが勝利への近道になるだろう。
試合展開は、直近の調子の差を考えると、東京Vがその良さを素直に出せれば勝点3に近いことは間違いない。しかし、横浜FCにとっても大事な試合。横浜FCが、狙いとする「拠り所」を構築できるか。その拠り所ができれば、後半に掛けておもしろい勝負に持ち込めるようになるだろう。スタジアム全体で、その拠り所の構築を後押しできれば、勝点の行方は順位表でのポジションとは別の方向に進む可能性が高くなる。
この試合が置かれた状況は、通常の試合とは少し異なる。だからこそ、プロとしての真価が問われ、サポーターを含めたクラブ全体の力も問われる試合となる。この試合の結果によっては、今シーズンの大きなターニングポイントになるかもしれない。横浜FC、東京Vの両チームのサポーターが結集し、文字通りの「サポート」をする熱戦を期待したい。
以上
2012.03.19 Reported by 松尾真一郎