開幕戦を落としたもののその後は連勝とチームが機能してきた山形が、22クラブ中、3クラブのみとなった3連勝の甲府を迎える。
山形はホーム開幕戦の前節、大分を3-2で下して連勝。昨シーズンはJ1で5勝どまりだったが、奥野僚右監督のもとで攻撃サッカーへ転じて間もない山形にとって、勝利という結果がどれほどの自信を与えるか計り知れない。第2節は秋葉勝が2ゴールしたが、前節は山崎雅人が2得点、萬代宏樹が1得点とフォワードに得点が生まれたことが大きい。3トップそろい踏みとはいかなかったが、山崎がPKで挙げた先制点は中島裕希がファウルを受け獲得はしたもの。その中島は90分間を通してスピードと運動量を落とさずにプレーし続け、得点に劣らない大きな貢献を果たしている。試合終盤には、負傷退場で10人になった相手に2点を叩き込まれ冷や汗の勝利となったが、ネガティブな要素を取り上げて殊更強調しないのが“奥野流”。原因の分析をしたうえで、引きずることなく、成長している部分を大事にしながら今節に臨む。
甲府はここまで栃木、東京V、愛媛を破って3連勝。前節は開幕から2戦を無失点と堅守を誇る愛媛から2得点を奪い、城福浩監督が導入した「ムービング・フットボール」の概念が早くも浸透していることを証明している。前線ではダヴィと高崎寛之の2トップが攻撃を牽引し、特にダヴィは前節の2得点を含めて3試合で5得点とJ2得点ランクトップの破壊力。高崎はゴールこそないが、運動量のある確たる起点として前線で機能している。愛媛戦では山形同様、リードしたあとの失点で1点差とされたが、城福監督は「2点目が入った後のピンチは反省しないと駄目。相手が点を取りに前に来たところで3点目を取れるチームにならないと駄目。今日の勝点3を手放しで喜ぶチームになってはいけない」と厳しく戒めることで、同じ過ちを繰り返さない手段としている。
その甲府がなんとしても乗り越えなければならないのは、日程面のハンディキャップだ。試合は前節から中2日。前節、山形は13時にキックオフしたが、甲府は6時間遅れの19時キックオフ。さらにホーム連戦で移動のない山形に対し、甲府は比較的移動時間のかかる山形への移動が加わる。「ムービング・フットボール」を実践するには運動量の確保は大前提だが、“中2日未満”の今節でどれだけ「ムービング」を実現できるのか、あるいは、それを少し抑えるような戦術的な微調整を加えるのか。選手たちのコンディションを見極めたうえで方向性が示されそうだ。
甲府はボールを奪った直後、全員が2トップを意識することが徹底され、キープ力のある2トップにくさびを入れて落とす間に全体を押し上げたり、一気に裏へ走らせたりする。個人技で、または2トップだけでシュートまで持ち込める破壊力を最大限に生かす狙いだ。そのうえで、時間帯や状況に応じてポゼッションへ切り換えるオプションも備わっている。4-4-2のサイドハーフには堀米勇輝、柏好文とテクニシャンを配置。横幅を使いながらスイッチとなる縦パスのタイミングを狙うが、サイドハーフに付けると同時に2トップの一方が同サイドに走り込み、クロスにもう一方のフォワードが合わせるようなチョイスも多用している。
山形は、甲府2トップに対するセンターバックの対応が守備での重要な要素。裏へラフに蹴られたボールほど馬力で入れ替わられる危険性があるため、冷静な判断を持ちたいところ。厳しいチェックで起点を潰すことができればベスト。それができなくても裏への並走を見越した準備を整えることが重要だ。また、サイドの起点である甲府のサイドハーフにボールが入った際にボールに対してプレッシャーをかけることも必要。4-3-3の山形の中盤サイドは曖昧になりがちだが、インサイドハーフの秋葉勝、船山祐二が主にスイッチとなり全体を連動してスライドさせたい。
そして攻撃では、甲府が高いラインを設定するだけに与しやすい状況が整っている。中島は「まずは僕らがディフェンスの裏を取る動きが大事。裏が効いてくれば、ディフェンスとボランチの間が空いてくる。それとどのチーム相手でもサイドバックの裏のスペースは有効に使えると思う」と、今節も前線の3人の連動を活かして走りきる決意だ。状況で甲府のサイドハーフが中央寄りにプレーする時間帯にはサイドのスペースを狙うなど、引き続き十分な準備と状況判断が集配の行方に大きく関わってくる。
開幕3試合を終えた現時点で、今シーズンのJ2勢力図を定めるのは時期尚早だが、1試合の大切さは、シーズンの終盤と序盤では感じ方が変わるだけで、実際の質量は変わらない。山形は首位との勝点3差をキープすることが、甲府は4連勝で他を引き離すことが、今後の昇格レースを戦いやすくしてくれる。日程のタイトさも、予想される「みぞれ」も乗り越えるタフなメンタリティが、勝点3を得る勝者にふさわしい。
以上
2012.03.19 Reported by 佐藤円