さながら“異種格闘技”である。序盤から両者のアプローチの違いは極めて明確だった。
キックオフ直後からボールを支配したのはホームの磐田。最終ラインから丁寧にパスをつなぎながら相手ゴールを目指した。ただし、ボールポゼッション率とゲーム展開が必ずしも一致していたわけではない。駒野友一は「相手はしっかりと[4-4-2]の形を崩さずに守っていた。そこでパスは回せたけど、相手にとっては怖くないボールの回し方だったと思う」と序盤を振り返る。
鳥栖にとっては想定内の展開だっただろう。前節・C大阪戦同様、序盤から粘り強い守備を見せた。辛抱強く守り、けして集中力は切らさない。[4-4-2]もしくは池田圭がやや下がった位置で中盤をケアしながら、フィールドプレーヤー10人が一体となって構築する守備網は見事である。磐田の揺さぶりに対しても的確なスライドでしっかりと対応してみせた。
そして、そのハードワークが最高の形で実を結ぶことになる。17分、鳥栖がこの試合最初のビッグチャンスを確実にものにする。中盤のセカンドボールに反応した金民友が粘ってマイボールにすると、そのまま鋭いカウンターを発動。ドリブルで一気に敵陣へ攻め込み、ゴール前でスルーパス。これを磐田・チョ ビョングクとうまく入れ替わった豊田陽平が左足で落ち着いて流し込み、先制。「(金)民友がいいタイミングでパスを出してくれた」と振り返る鳥栖のエースがチームにJ1初ゴールをもたらした。
ただし、その後も磐田のボール支配は一向に変わらない。磐田の勝機はそこにあったと言えるだろう。同点ゴールは失点からわずか10分後に生まれた。27分、菅沼実がゴール前へクロス。このクリアボールを右足のハーフボレーでうまく合わせたのは山田大記。シュートは相手DFに当たり、軌道が変わってゴールへ吸い込まれた。「自分のところにちょうどボールが来たので、打ったら幸運にも入りました(苦笑)」と振り返る背番号10の一振りで同点。ゴール後は負傷離脱中の金園英学のゴールパフォーマンスを真似て見せ、両腕の巻いた金園の背番号17、同じく負傷離脱中の山崎亮平の背番号9のリストバンドを見せ、喜びを爆発させた。
さらに、この直後に逆転できたことも大きい。34分、前田遼一のポストプレーによって相手ゴール正面でFKを得るとキッカーは駒野友一。背番号5の描いた放物線にスタンドは息を飲んだ。右足の内側にかけたキックは鮮やかなカーブを描き、壁を越え、ゴール隅へピタリ。この光景を真後ろから見た川口能活が「久しぶりにいいFKを見たよ。(ボールが)一度(ゴールの)枠から外れてから入ったからね!」と興奮を隠せないほど難易度の高い一撃がこの試合のハイライトだった。ちなみに、駒野は「前日(非公開)のFK練習から相当フィーリングが高かったし、“異常”なくらい入っていた」(森下仁志監督)という。
後半に入り、1点を追いかけ攻勢を仕掛けてきたのは鳥栖。ここでも磐田のアプローチとは異なり、高さを前面に押し出したサッカーを展開してきた。負傷でこの試合を欠場した山本脩斗に代わり左サイドバックを務めた金沢浄は「相手の攻撃は予想通りと言えば予想通り。ただ、予想以上に徹底してきたかなと」と思わず苦笑い。磐田・最終ラインにとってはそれほどまでに忍耐を要する時間帯もあった。豊田に加え、後半途中にはトジン、さらには野田隆之介を投入。時間を追うごとに前線の迫力は増し、FKでは自陣からでも一貫してロングボールを入れてきた。CKではキッカー・藤田直之が意図的にファーサイドへハイボールを蹴り、ゴール前まで上がったキム クナンが驚異的な高さを見せつける場面もあった。得点こそ生まれなかったが、藤田のロングスローも含め、アグレッシブなパワープレーはやはり鳥栖の大きな武器である。GKの赤星拓はチームの思いを代弁する。「相手がうまいことはJ1昇格が決まった時からわかっていたこと。大事なことは自信を失わないことだと思っています」。
両者のチームカラーが如実に出た、見応えある一戦だった。
以上
2012.03.18 Reported by 南間健治