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ひとつの事象をどう捉えるかは、立場によって異なる。昨日行われた記者会見で、クラブを運営するアスリートクラブ熊本の代表取締役が、約4年間社長を務めてきた岡英生氏からGMの池谷友良氏に替わることが発表された。ホーム開幕戦を目前に控えたタイミングでの荒療治とも言えるこの人事についても、立場や考え方が違えば捉え方は変わってくるだろう。経営者としての経験がない池谷新社長がどういった手腕を発揮するかは未知数で、実質的にGMを兼務する弊害が今後生じないとも言い切れない。
ただ、同日夜に福岡で開催されたクラブライセンス制度についてのメディア向け説明会に出席し、その思想や審査基準に関して細かいレクチャーを受けた感覚で言えば、今回の社長の交代は、単にクラブライセンス制度の審査基準をクリアするに留まらず、体制をより強化してクラブ理念を早期に実現するという強い意志に基づいて、アグレッシブな判断を下したものだと捉えることができる。選手や監督など現場にとっても大きな衝撃だが、覚悟を決めたクラブの姿勢に対してピッチで応えるんだという使命感は、ホーム開幕戦であることを差し引いても、今までのどの試合より大きく膨らんでいるだろう。
とにかく結果を出さなくてはいけない。
福岡戦では立ち上がりから相手の激しいプレッシャーを受けて守勢に回った。後半はシステムを変えた効果もあって押し込んだとはいえ、反撃は1点に留まって黒星スタートとなった。前節の反省をどう生かすかが、まずは今節の焦点だ。
「守備が良くなかった」と高木琢也監督は振り返り、今週のトレーニングではグループとしての対応に重点を置いている。特に鳥取の前線はスピードがあり、岐阜との開幕戦でも裏のスペースを狙った飛び出しなどからチャンスを作っているため、DFラインのコントロールが鍵を握ることになりそう。当然、安易に背後を衝かれるようなスペースを生み出してはリスクも大きくなるが、場合によってはシンプルに、意図的にロングボールを入れてエリアを回復するというチョイスも必要だろう。加えて、落ち着いた展開に持ち込んで主導権を握る上でも、試合の入りと立ち上がりも重要。「その辺は臨機応変にやらないといけない」と廣井友信は言う。さらに、ブロックを作っていても「警戒していた形」(高木監督)からやられた福岡戦の2失点目のように、マークがずれたり遅れたりして、いい体勢で打たせるような状況は避けたい。高木監督も「モビリティがある」と評する鳥取の攻撃陣に対して、スライドするのか受け渡すのかをはっきりさせ、「入ってくるボールに対してしっかり潰しにいく」(福王忠世)ことが求められる。
攻撃に関しては、コンビネーションで崩すこと、そのためにタイミングを合わせること、選択肢を増やすためにボールを追い越し前に出て行くことなどを継続して強調した。実際に先週の試合ではそうした流れでチャンスを作っているし、シュート数も福岡と同じ8本を放っている。入るか入らないかはフィニッシュの精度、ということになるが、精度を高める前の段階として、「打つ」という判断ができるかどうかを、この試合においては注目したい。例えば福岡戦で喫した坂田大輔の1点目は、熊本DFのクリアのこぼれに反応して迷わず右足を振り抜くという判断がもたらしたゴール。対して熊本は、シュートを選択できる場面でトラップし、タイミングを逃すような場面も目についた。
「練習ではタッチ数の制限があったりして、少し考えすぎてる部分もあるかなと思うけど、ゲームになったらそこは変わってくる。誰よりもゴールを狙う、裏へ抜けてシュートを打つという気持ちは、ぶらさずにプレーしたい」と白谷建人は口にした。全体でボールを動かして前に運ぶスタイルを志向する中でも、そうした個々の思いと判断が、得点するためには時に必要になってくる。
見応えのある展開も、老獪な試合運びも、華やかな個人技も、サッカーの持つ魅力であることは確か。しかしこの試合は、5度目にして今までとは違う意味を持つ、特別なホーム開幕戦。体制を新たにしたクラブの船出を彩るには、どうしても勝利が必要だ。
以上
2012.03.10 Reported by 井芹貴志