10月24日(日) 2010 J2リーグ戦 第31節
鳥栖 0 - 1 東京V (13:05/ベアスタ/3,966人)
得点者:86' 柴崎晃誠(東京V)
スカパー!再放送 Ch183 10/25(月)後08:00〜
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物事を振り返るときに、「○○だったら・・・」や「○○していれば・・・」は、得てして『負け犬の遠吠え』に聞こえることもある。しかし、悔やみはすれど、確かな自信をつけることも多い。「やっていることは間違っていなかった」ことを知ることもあれば、「進むべき方向性が明確になる」事もあるだろう。
今節のベストアメニティスタジアムでの一戦は、互いに得たものがある試合内容だった。
3得点後4失点を喫して、終了間際に追いついた前節(第30節・10月17日)から、鳥栖はGKを室拓哉に代えて臨んだ。「気持ちも入っているし、東京Vと戦えることを喜びに感じる」と練習中から気合が入っていた。この言葉どおり、室拓哉を中心に前節と打って変わって守備は機能し、東京Vの流れるような攻撃を押さえ込んでいた。
FW豊田陽平がチェイスを始めると、最終DFラインまでが連動してコンパクト陣形を引いた。選手間の距離が近ければ、東京Vの細かなパス回しを封じ込めることができる。この連動した守備が機能して、東京Vは中盤でのゲームの組み立てが思うようにできていなかった。「東京Vのリズムが出せず、動きも少なかった」と川勝良一監督(東京V)が認めるほど、今節の鳥栖の守備は強かった。
前半のスタッツを見ると、鳥栖のシュート10本に対し東京Vは2本。CKも6本に対し1本と完全に試合のペースを鳥栖が握っていたことがわかる。前半の唯一といってもいい東京Vの決定的なシーンを、室拓哉の好セーブでしのぐと、34分にはこの試合最大の見せ場を鳥栖が作った。
MF山瀬幸宏のシュートはクロスバーにはじかれたが、ゴール前でフリーな状態の藤田直之の前に転がった。このシュートのこぼれ球も、早坂良太のシュートにつながったが、得点には至らなかった。すべて、東京VのGK土肥洋一の好セーブが、鳥栖の先制機をつぶしたからである。
「必ず1点は取ってくれると信じていた」と鳥栖を無得点に押さえ込んだ土肥洋一は振り返った。そこには、リーグ戦29試合でわずか25失点という自信があったからだろう。この日の東京Vは、派手な攻撃で見ている人を魅了するのではなく守備で魅せた。
出場停止から戻ってきたCB土屋征夫は、その圧倒的な存在感をスタジアム全体に見せた。キャプテンマークを巻いた富澤清太郎もチャレンジとカバーリングを怠らずに、最後まで身体を張り続けた。彼らだけではなく、この日ピッチに立った選手全員で鳥栖の攻撃の芽を摘んでいったのである。67分に退場者を出して数的な不利な状態になってしまったが、逆に守備に対する集中力は増したようにも見えた。そして、その成果が86分に出た。
この試合では左サイドDFに回った高橋祥平が、鳥栖のペナルティエリア内で倒されてPKを得たのである。「“積極的に仕掛けてこい”と監督に言われていたので、思い切ってやりました」とそのシーンを振り返ってくれた。これをMF柴崎晃誠が落ち着いて決めて決勝点とした。
「あの山瀬幸宏のシュートが入っていたら・・・」、「藤田直之のシュートをGKの逆を突いていたら・・・」など、“○○たら”のシーンは確かに鳥栖のほうが多かった。「もっとボールをシンプルにまわしていれば・・・」、「もっと東京Vの選手を動かしていれば・・・」と、“○○れば”状態も鳥栖のほうが多かった。それだけ、鳥栖は『何かやってくれそうな・・・』期待感を90分間見せてくれていた。しかし、この試合で勝点3を上積みしたのは、“守備が機能すれば、攻撃にリズムが出てくるサッカー”を見せた鳥栖ではなく、“守備で耐え、ワンチャンスをモノにした”東京Vだった。
この結果が、昇格圏内を争っているチームと、シーズン序盤の勢いが失せて中位に甘んじるチームの差なのかもしれない。
もう一つだけ、筆者の感じたことをレポートさせていただくことをお許し願いたい。
この試合、最初の交代はともに63分。ともに攻撃的な選手を入れて活性化を図った。67分に東京Vが数的不利な状態になった直後、ワントップにしてDFの選手を入れて守備に重点を置いた。鳥栖にあった流れに対して、東京Vは“より強固”な守備体制を引かざるを得なかったのである。対する鳥栖は、79分にサイドMFの選手に代えて同じサイドの選手を入れた。最後の交代は84分に攻撃的なサイドDFを入れた84分である。そしてその直後の失点・・・。
東京Vが“より守備的”になった67分から、鳥栖の最後の交代までの17分間に、鳥栖は東京Vの守備を崩すのに手を焼いていたことになる。
17分間、引いた相手に対して有効な攻撃を行えず、最後の選手交代で前掛かりになったところを突かれて失点してしまったのは、前節同様交代で入った選手の役割をベンチからのメッセージとして、ピッチに立っていた選手たちに十分な形で伝わっていたのだろうか・・・。
選手たちは本当によく頑張っているのだが、“ベンチワーク”と“選手たちの意図”に若干の差を感じてしまったのは筆者だけだろうか。前節に続いて、今後の”可能性”と“不安”を感じた試合でもあった。
“後悔先に立たず”、“覆水盆に返らず”。故事成語には、先人の教えが詰め込まれている。
これらを教訓に進化するのが人間であり、“同じ轍を踏まない”ようにするための手段を経験から会得できるのかできないかが、凡人と賢人の差なのであろう。
相手があるサッカーは、同じ現象は2度と起きることは無い。しかし、似た状態を招くことや起こりえる状態を予測することは、試合を経験するたびに会得しなければ選手もチームもクラブも進化することは無い。応援しているサポーターやファンも、試合を観るたびに“その目は肥えて”来ているのである。
サッカーでは、過去の栄光から“学ぶ”ことはできても、“勝利”することはできない。
チームが“成長”し、サッカーを“進化”させないと、優勝や昇格という“栄光”を手にすることはできないからである。
以上
2010.10.25 Reported by サカクラゲン