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【第90回天皇杯3回戦 広島 vs 福岡】レポート:熱狂の120分を終わらせたのは、残酷なPK戦。広島、2年連続で九州の壁に屈す(10.10.14)

10月13日(水) 第90回天皇杯3回戦
広島 2 - 2(PK 5 - 6)福岡 (19:00/コカ広島ス/3,452人)
得点者:49' 田中 佑昌(福岡)、89' 高萩 洋次郎(広島)、107' 高橋 泰(福岡)、116' 槙野 智章(広島)
チケット情報天皇杯特集
ヤマザキナビスコカップFINAL一般販売は16日(土)10時〜
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「良太、顔を上げろ!」
サポーターからの激励が、120分+PK戦という激闘を闘い抜いた勇士に浴びせられる。だが、森脇良太は顔をあげることができなかった。敗戦の責任を一身に背負い込み、ただ一礼するのみ。「ロシアン・ルーレット」に例えられるほど残酷なPK戦は、誰かが必ず、どん底に突き落とされる。それでも必ず、勝者と敗者を生まずにおれないトーナメントというシステムもまた、残酷きわまりない。

試合を振り返ろう。前半は、両チーム共に低調だった。
広島は、やはり3日前のヤマザキナビスコカップ準決勝を闘った疲労が心身に残っているのか、身体の反応も判断スピードも遅く、プレーの決断に「潔さ」がなかった。一方の福岡も、ボールを持ててはいるが、そこからのアイディアが見えず、広島の陣形を崩すことができない。

だが後半、試合は想いもよらない形で動きだす。
広島は後半から青山敏弘と、日本代表から戻ったばかりの槙野智章を投入。だがその青山のパスが中盤でひっかかる。カウンターだ。大久保哲哉、突進。まるで重戦車のような力強いドリブルに、広島の守備陣は吸い寄せられる。
そのままシュートまで持ち込むのか。いや、パスだ。体勢を崩しながら、仲間を信じて、執念でボールを前に出した。槙野が攻撃に出ようとした、その裏のスペースを田中佑昌が落ち着いてゴールに流し込む。
ただ、この「対広島戦、傾向と対策」のようなゴールが、広島に火をつけた。その中心は、槙野である。ポジションを山岸と頻繁に入れ替わりつつ、まるで左ウイングのように攻撃にかかった。常にゴールを意識した強烈なドリブルに、福岡の守備陣は完全に振り回される。

しかし、この日の広島には、神様が味方をしてくれない。
63分、槙野のFKがポストを直撃。74分、李忠成の決定的なシュートが高萩洋次郎に当って逸れ、ストヤノフの強烈なシュートも、GK神山竜一の素晴らしい反応に弾かれる。その後につくった数々の決定機も、神山を中心とする福岡守備陣の強い気持ちの前にことごとく弾き返された。
89分、槙野が李とのワンツーで中に切れ込み、強烈なシュート。またもポストだ。だがそこに詰めた高萩がゲット。広島、ついに同点。だが90+4分、李のヘッドは、この日3度目のポスト直撃だ。ヤマザキナビスコカップ準決勝第2戦の清水戦で広島を救ったゴールポストは、この試合では完全に広島の敵にまわった。

延長戦、アクシデントが福岡を襲う。95分、センターバックの柳楽智和が足をつり、プレー続行不可能になったのだ。交代枠を既に使い切っていた篠田善之監督は末吉隼也をセンターバックに移動させ、動ける人材で守備を構築。広島の圧力を、全員で気持ちを一つにして、はね返し続けた。そんな集中が、延長後半に活きる。
107分、神山からのキック。ミキッチがヘッドで落とし、GKにつなごうとした。しかし中林洋次の手から、そのボールがこぼれた。そこに詰めていたのは高橋泰だ。広島時代、プロ初得点を決めた思い出のスタジアムで、福岡の選手としてボールを押し込んだ。「たまたま、そこにいただけ」と高橋は言う。だが、どんな時も豹のような感覚でゴールという「獲物」を狙う高橋らしいブレーだった。

広島も諦めない。高柳一誠が、森脇が、決定的なシュートを放つ。だが、いずれも神山の素晴らしい反応の前に、ゴールを割ることはできない。前半戦、静かだったスタジアムは、今や完全にヒートアップ。ミスもあった。だが、選手たちの熱い気持ちが、ミスへの脱力感を上回り、スタンドの熱狂が重いはずの選手たちの身体を突き動かす。
116分、高柳の突破。ファウル。PKだ。キッカーは槙野。ゴールに背を向け、振り向き様にダッシュし、ゲット。同点。さらに広島は猛攻。120分、高萩がオーバーヘッド。だがシュートは、枠の外だ。

PK戦、10人連続成功の後、森脇が外し、最後は末吉が落ち着いて決めて、試合は終わった。
広島、2年連続で九州のJ2クラブに屈し、天皇杯を去る。
選手とすれば「責任を感じてしまう」(李忠成)のは確かだ。ただ、もう結果は取り戻せない。「試合は続く。切り替えないといけない」。山岸智の言葉を胸に刻み、この敗戦から学んで、リーグ、そしてヤマザキナビスコカップの決勝へ立ちあがってほしい。

福岡の頑張りに対し、称賛以外の言葉が見つからない。確かに、チャンスは少なかった。だが、全員がチームのために、励ましあいながら闘う姿は、美しい。つった足を必死で動かし、少しでもチームのために貢献しようとする柳楽の姿が、福岡の魂の象徴だった。
中2日をあけて、重要なリーグ戦を迎える両チーム。コンディションは厳しい。だが、この試合で得た収穫を胸に抱き、広島も福岡も、再び素晴らしいサッカーを見せてくれることを信じてやまない。

以上


2010.10.14 Reported by 中野和也
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