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【第89回天皇杯2回戦 甲府 vs 関西大】レポート:毎年苦労する天皇杯初戦。120分+PK戦と、最高の苦労で関西大学に競り勝った甲府が3回戦進出を決めた。(09.10.12)

10月11日(日) 第89回天皇杯2回戦
甲府 3 - 3(PK 4 - 3)関西大 (13:01/小瀬/3,605人)
得点者:21' 金園 英学(関西大)、34' 佐藤 悠希(関西大)、39' 東間 勇気(甲府)、61' 金園 英学(関西大)、63' 金 信泳(甲府)、82' マラニョン(甲府)
天皇杯特集
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ポジティブな感情とネガティブな感情が次々と大波となって襲ってくる何でもありの天皇杯2回戦だった。まず100%休養組だと思っていた林健太郎の名前が先発メンバーにあったことに驚いた。8月23日の第35節から10月7日の第44節まで10試合連続で先発し、殆どの試合で90分プレーした37歳のベテラン。安間貴義監督はベンチ外の予定にしていたが、秋本倫孝が前日練習で脳震盪を起こしたために林を急遽先発に起用することになった。

そして、試合が始まってみると昨日NHKのBSで観た湘南対明治大学(0−1)のような展開に、「明日は我が身」という言葉が頭の中に浮かんできた。関西大学の選手は甲府のホテルでその中継を見ており、明治大学の勝利を自分たちのモチベーションに加えていた。対して甲府は、相手を舐める意識は無いものの口と頭でサッカーをしていた。指示はするものの自分は動かない選手がいるから前線からの守備が連動しない。3−5−2のサイドハーフに入った大西容平が一発で大学生に抜かれるシーンが目に付いたが、これは大西が動いても次の守備が連動していないだけ。抜いてコントロールが大きくなったボールを奪いに行かないからそう見えた。自分たちのサッカーが出来ずに大学生に押し込まれるのは湘南と同じだった。そうなった理由のひとつとして、関西大学の選手の足元の技術がしっかりしていることも挙げられる。運動量だけではなく、ボールを止める・蹴るという技術が高いからしっかりと繋いで簡単にはボールを失わない。そして、ツートップの金園英学、佐藤悠希の動きの良さ、サイドハーフの中村祐哉の正確なキックやオーバーラップなど特筆すべき個も基本技術の高さの中で生きていた。

「チームを引っ張るべき選手が動き出さないで指示ばかりしていた。やってはいけないミスも多かった。ボールを使わなくても出来ることが出来ていなかった。最低限やるべきことをやっていなかった(安間監督)」。甲府はこの難しい現状で選手自身が気が付いてピッチで答えを出さなければならなかったが、21分にクリアミスから金園に先制ゴールを決められ、34分には、誰もカバーにいない状況の杉山新が佐藤に競り負け、そのままかわされて追加点を許した。3−5−2をスタートの布陣に選択した安間監督は、藤田健、石原克哉、ダニエルなどリーグ戦で出場停止一歩手前の選手にその日が来たとき、代わりに入る選手がどんなプレーが出来るのか判断するつもりだったが、安間帳にはあまりいいことを書くことは出来なかったかもしれない。0−2になったことで安間監督は「これ以上(点を)取られるとしんどい」と判断して4−3−3に布陣を戻して、試合を取りに行った。

記者席で見ているときはそんなことは知らないから、散々な目に遭ったからシステムを変えたんだと思っていた。天皇杯はリーグ戦とは違ってヴァンくんもいないし、スタンドにビールも売りに来ないから物足りない気分だったけれど、ビールを売りに来ていればヤケビールがよく売れたはずの展開だった。ただ、他の会場でも埼玉の親分らJリーグ勢が大苦戦していたので妙に安心していたのも事実。これがリーグ戦だったら内気な女の子もヤジ将軍になっていただろう。甲府もチャンスが無かったわけではないが、シュートがポストに当たったり、片桐淳至(左利き)のボレーシュートの場面でボールが右足に飛んできたりとちょっと何かがズレていた。関西の有名私大相手に片桐の高卒(高速)シュートが炸裂することを期待していたが、上手くいかないときは上手くいかない。昨日の湘南サポーターの気持ちがよーく分かり始めた39分、コーナーキックから東間勇気がヘッドで1点を返してくれたことで「これで1点差」と再びポジティブになることが出来た。甲府に加入してからトレーニングマッチでもゴールを決めたことが無かった東間にとっても大きな1点だった。

ロッカールームから出る選手にスーツマン(ベンチ外の甲府の選手)が手を合わせて送り出す場面を見て、後半に向けて気持ちが高まっていることが判った。佐久間悟GMもマジ顔で選手を呼び止めてアドバイスしていたし、スーツマンの藤田健も配下の吉田豊に修正点を伝えていた。関西大学は後半になるとリード病か、疲れからなのか、少しミスが増えたように見えた。昨日の湘南のように後半は主導権を取り戻せると思い始めた61分、佐藤のクロスが金園に通って3点目を決められてしまう。普段なら絶対に出てこない言葉――「下手クソッ」――が遂に口から飛び出してしまった。隣に座る甲府番記者は放心したような顔で半笑いになっていた。ノートに甲府の悪口を散々書き殴っていると2分後に金信泳がゴールを決めて、またまた1点差。「下手クソ」は即時撤回して再び前のめりになることが出来るゴールだった。リーグ戦よりは気分は楽だが、天皇杯は心の別の部分が疲れる。

松橋優、國吉貴博、森田浩史と甲府がフレッシュな若手とオジサンを投入する中、関西大学の島岡健太監督は7,0の評価をしてもいい MF中村、FW佐藤を下げて中盤の選手を2枚投入する。試合後の会見でこの判断が正しかったのかどうかを島岡監督は自問していたが、甲府の安間監督はこの2人(中村、佐藤)が限界まで走っていて足がつり始めていたと見ていたので間違いではないはず。タラレバはないが、このまま関西大学が逃げ切っていれば正しい判断だし、出し続けていれば90分で逆転を許したかもしれない――最終的に島岡監督はどう判断するのか興味深い――。ボールを失うことが前半より増えた関西大学だが、交替で入った岡崎建哉が80分に決定的なシュートを打つなど決定機は作っていた。交代選手のレベルも高い。ただ、セットプレーではプロの集中力に屈した。82分のコーナーキックでマラニョンに遂に同点ゴールを決められてしまう。2ゴールを演出したキッカーの大西も素晴らしいし、決めたマラニョンも素晴らしい。

しかし、甲府は90分で勝負を決められなかった。腿裏の芯がつったDF東間は狙撃されたかのようにピッチに倒れ、延長戦では3トップの隅でヘディング要員としてピッチに戻った。「途中からはプライドだけで闘っていた」と安間監督が言うように、延長戦になっても37歳の林は動き止めないし、31歳のFW・森田も中盤で走った。國吉も得点に絡みたいのにサイドバックで大学生を追いかけた。そして、短距離選手だと思っていた松橋も素晴らしく走りに走った。これがプロの意地。夜は知らないけれど、大学生が授業を受けている時間も練習しているか飯を食っているか昼寝をしてサッカーに賭けているのだ。安間監督はJFLのホンダFCの監督時代には「相手が舐めているうちに点を取れ」と指示して戦っていた。GKの阿部謙作も筑波大学時代にそうやってプロに勝った経験がある。だからこそ逆の立場になれば、プロの意地で諦めない。延長戦はマラニョンがシュートをポストに当て、関西大学の岡崎はGK阿部の正面にシュートを蹴ってしまい、お互いにチャンスの痛み分け。観客を沸かせたのは足がつっている東間がマルセイユルーレットとオーバーヘッドパス(本人はシュートと主張)を見せた場面。大学2年までFWだっただけに、自然に身体が動く。延長後半の終盤はワンプレーごとに足がつる金も大学生に挑み続けた。これもプロの意地。

延長でも決まらなかった勝負はリーグ戦にはないPKに突入し、今シーズンリーグ戦では出番の無かったGK阿部がスターになる。阿部は山本英臣、森田、マラニョンの3人目までは決めてくれると信じて作戦を立てた。
「3人目まではわざと早く動いて、相手に『甲府のGKは早く動く』とイメージを持たせて、4人目以降は動かないで勝負する」
つまり、「甲府のGKは早く動く」という情報を聞いている4人目以降はGKの動きを見てから蹴ろうとするから、動かないGKに動揺して蹴る瞬間に迷いを生じさせるという狙いだ。そして、その読みの通りになり、阿部は関西大学の4人目を止め、5人目はバーに当てて甲府は4−3でPK戦を制した。天皇杯の初戦とリーグ開幕戦は苦労するのが甲府の宿命だが、ここまで感情が大きく動く試合になるとは思っていなかった。安間監督は「やってはいけないミスが出たし、3点取れた。選手が感じたことは多いと思う。選手は違うポジションでもよく戦ってくれた。いいことも悪いこともポジティブに捉えてリーグ戦に繋げる」と笑顔で話した。翌日のサテライトについて聞くと、「(今日)足がつった選手も出す」と自ら招いた120分+PK戦の精算をさせることも宣言した。これで甲府は集中して戦える公式戦を1つ増やすことが出来、昇格争い終盤にいい流れを作るスケジュールが出来た。

以上

2009.10.12 Reported by 松尾潤
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