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【第89回天皇杯2回戦 広島 vs CUPS】レポート:サポーターの言葉を支えに重病から立ち直り、ピッチに戻ってきた広島の誇り=森崎和幸のホーム復帰戦、白星で飾る。(09.10.12)

10月11日(日) 第89回天皇杯2回戦
広島 5 - 0 CUPS (13:00/コカ広島/3,485人)
得点者:9' 服部公太(広島)、25' 高萩洋次郎(広島)、37' 柏木陽介(広島)、53' 高柳一誠(広島)、80' 平繁龍一(広島)
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慢性疲労症候群という病気を検索してみると、この病がどれほど深刻なものか、よく理解できるはずだ。その名前から「疲労蓄積が原因」と誤解されやすいが、この病気の原因は不明。身体の疲労だけでなく思考能力も激しく減退して日常生活にまで支障をきたし、症状が重くなると立ち上がることすらできなくなる。

森崎和幸がこの重病を発症したのは、今年の春だった。昨年のJ2独走の立役者となった広島の司令塔は、今季はキャンプから絶好調。超攻撃的サッカーを支える頭脳として、若い選手たちの躍動を支えていた。その森崎和幸がそんな重病に冒されようとは、彼本人が一番、信じられなかった。3年前、オーバートレーニング症候群で苦しんだ経験を持つが故に、体調管理には特に気を使って、こまめに病院にも通っていたのに。

5月9日の千葉戦を最後に、森崎はチーム練習から離脱。練習場に行くことすら、かなわなくなった。「ドクトル・カズ」と敬意を込めて彼を呼び、絶対的な信頼を寄せていたペトロヴィッチ監督は、森崎和幸の病気発症を憂い、大粒の涙をこぼした。

一時は「もう復帰できない」と思い詰め、家族にも「サッカーをやめる」と口にした。身体が思うように動かず、サッカーへの意欲も失ってしまった「ドクトル・カズ」が、引退する。そんな怖れが現実になる可能性もあった。

しかし発症から約2ヶ月後の7月7日、森崎和幸は、動き出した。軽くジョギングをするだけのトレーニングではあったが、ピッチへの復帰を視野に入れて立ち上がった。その最大のモチベーションは、サポーターが彼のために歌い続けるチャント=「俺たちの和幸、俺たちの誇り」という言葉にあった。
「もし、このまま引退したら、こんな重い意味のある言葉で自分を励ましてくれていたサポーターに恥をかかせてしまう」
サポーターに「誇り」と歌われた男は、その言葉に支えられて絶望の淵から立ち上がった。その後も、復帰への道のりは決して楽ではなかった。薬の副作用から目まいにも悩まされ、上がらないコンディションに苛立ちも見せた。そんな苦境でも、サポーターの言葉と家族に支えられ、彼は自分の身体と闘った。

J1リーグ戦前節の清水戦で5ヶ月ぶりの復帰を果たしホームに戻ってきた森崎和幸を、サポーターは温かく迎えた。練習時から繰り返される「俺たちの誇り」。キャプテンマークを巻いて入場してきた彼の姿に対し、スタジアムに駆けつけたサポーターから大きな拍手が鳴り響いた。

9分、その「ドクトル・カズ」が見せる。引き気味に守るJAPANサッカーカレッジ(以下、CUPS)が創る鉄壁のブロックの隙間を、1本の縦パスで鋭く切り裂く。森崎和幸の武器の1つである高精度のクサビのパスが、李忠成の足下にピシャリと入った。相手を引きつける李は、服部公太にスルーパス。左ウイングバックがペナルティエリアの中でシュートを放つ広島らしいプレーが、豪快に決まった。

CUPSも厳しい中盤のプレスからボールを奪い、広島ゴールに迫る。Jリーグでの経験も豊富なFW宇野沢祐次を中心にミドルレンジからシュートも狙い、ひやりとさせる場面もあった。しかし、どうしてもゴールマウスを捉えることができない。

一方の広島は森崎和幸と中島浩司でボールを落ち着かせ、チームに秩序をもたらす。25分に高萩洋次郎、37分には柏木陽介が「たぶん初めて」と言うヘディングシュートを叩き込み、前半で勝負を決した。

後半、広島が高柳一誠のゴールで4点目をあげた後は、CUPSがボールを支配するシーンも。68分、宇野沢が強烈なミドル。しかし広島GK佐藤昭大が、見事にはじき返した。彼もまた、森崎和幸と同様に長期離脱からの復帰組。4月18日の対新潟戦で右膝後十字じん帯断裂の重傷から立ち直り、約5ヶ月半ぶりの公式戦復帰をファインプレーで飾った。

80分、平繁龍一が今季2点目をゲットし、5-0で広島が快勝。ただ、しっかりと組織を創り、最後まで全力を尽くしたCUPSの戦いぶりには好感が持てた。「勉強になる部分がたくさんあった。そこを活かし、悲願のJFL昇格に向けて頑張りたい」とCUPS・有田一矢監督は言う。11月21日からスタートする全国地域サッカーリーグ決勝大会で上位2チームに入れば、JFLへの自動昇格を果たせる。過酷な戦いが待っているが、この試合での経験をぜひ糧にしてほしい。

「自分は、サポーターの歌に、ふさわしい選手なのかな、と思うこともある。だけど、そのサポーターに自分が支えられている、ということは間違いない」

笑顔で「ドクトル・カズ」は感謝の言葉を口にする。その大黒柱のホーム復帰戦勝利を祝い、試合後のスタジアムには再び「俺たちの和幸、俺たちの誇り」の歌が鳴り響いた。

以上

2009.10.12 Reported by 中野和也
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