チャンスをつかむ選手がいれば、その座を奪われたりつかめずにいる選手もいる。それが何度でも繰り返されるほどに、1シーズンは長い。ピッチから遠ざかっている選手にとってはなおのこと。
山形は9月の初めに4−2−3−1から3−4−2−1への変更を行った。ピッチ上には守備的な選手が増え、さらにその選手たちの負傷離脱でチャンスが巡ってくる選手が多い一方、配置される人数が減った攻撃陣には控えに回る選手が増えている。
そのなかで、昇格に必要なものは「一体感」、全員が同じ方向を向くことだとされる。昇格争いにいまだ踏みとどまるチームにあって、出場できない悔しさに正面から向き合うことと、チームの一体感の輪を構成する一員でいることの両立は、口で言うほど容易いものではない。その2つがようやくイコールする狭いスペースを見つけ、葛藤しながら、折り合いをつけながら、いつか来るチャンスを待っている。
昨年末の大ケガから復帰後もしばらく出場機会がつかめなかった林陵平は、9月10日、J1鳥栖との天皇杯4回戦に先発し、延長戦を含む120分をフルに戦った。結果は、内容で圧倒した山形が1−0の勝利。林の貢献度も決して小さくはなかったがそれ以降、公式戦での出場機会は得られていない。林がもっとも適性とする1トップには、トップ下でプレーしていたディエゴがスライドで起用され、山崎雅人、川西翔太とともに形成するトライアングルは現在、山形最大のストロングポイントとなっている。
「鳥栖戦では久しぶりに先発で入っても全然できていたし、自信もある。そういう意味では悔しいところはあります」。そう話す林も、自身の現状については謙虚に受け止めている。「誰のせいでもないし、自分自身でつかみ取っていかなきゃいけないこと。リーグ戦の残り試合と天皇杯もありますけど、そのなかで、自分でやるべきことはたくさんあると思います」
全体練習復帰後、ベンチ入り間近で臨んだ練習試合で負傷する不運もあった。チーム最多タイの12得点を挙げた昨季とのギャップを実感することもあるはずだが、持ち前のポジティブさで自らを支えている。
「一番大事なのはいまをどうするか。そのために集中してトレーニングができています。そういうチャンスが来たときに必ず結果を残せるように、準備をしっかりしておくだけです」
先述の鳥栖戦で途中出場から決勝ゴールを決めた萬代宏樹もまた、前線3枚のトライアングルに割って入ろうと、もがいている最中だ。と同時に、サブにはサブとしての役割があることを強く自覚している選手でもある。「チームのためにやらなきゃいけないことというのは変わらない」という信念は、苦労のほうが多かったサッカー人生のなかで培われてきたものだ。
「僕が自信を持って言えるのは、スタメン組が紅白戦でよくない時に僕らがしっかりやってきているからスタメン組の選手も気付いて、その結果、公式戦でも勝てているということ。いま勝っているのは、スタメンの選手だけの力じゃないぞ、とサブの選手は絶対そう思っていると思うし、全員がいつでも出たいと思っている気持ちは強いです」
チームメートのイジり方に長けている。比較的リラックスして取り組めるポゼッションやミニゲームではいつも場を和ませ、練習上がり前のジョギングをする際も自然に人が集まってくる。ムードメーカーである一方で、練習をするだけうまくなる自分を信じている。25歳以下の選手に義務づけられている週1回の「指名練習」にはいつも、自主的に参加する28歳の萬代の姿がある。
「いま攻撃に関して言えば、ディエゴ、ザキさん(山崎)、翔太(川西)のところでうまく回ってはいるけど、この先、ケガだったりアクシデントだったり、何があるかわからない。そういう時のためにギラギラしていられればいいなと思います」
山形はこのあと、リーグ戦ではJ1昇格プレーオフ出場の権利を懸けた最終節に臨み、天皇杯でも初のファイナル進出を懸けた一戦を残している。ピッチやベンチの内外を問わず、欠けていい選手など1人もいないことはここまでの戦いが証明している。それぞれがそれぞれのプライドを込めて過ごす1日が、今日も重ねられていく。
以上
2014.11.17 Reported by 佐藤円
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