昇格可能性を残し、プレーオフ圏内復帰をめざす山形と、前節で既に昇格の可能性が消えた福岡。最後にはゲーム内容を反映する結果に収まったが、追い込まれたホームクラブの劇的な逆転劇の余韻に、スタジアムの熱はいつまでも冷めることがなかった。

裏を狙い、前からプレッシャーをかけて攻撃を封じる両チーム。マッチアップするシステムのなかで互いにチャンスらしいチャンスはなかったが、それだけ集中した守備が展開された、締まった立ち上がりだった。流れが変わったのは15分過ぎ。ビルドアップを始めた福岡に対し、山形もディエゴ、川西翔太がアプローチの位置を一段高くした。プレッシャーをかける山形とつないでかわそうとする福岡の息詰まる攻防は少しの間続いたが、縦にボールが入った先で、それを狙っていた松岡亮輔のインターセプトが増えると、それに比例して山形がゴール前でのチャンスを増やしていった。19分、22分にはディエゴが、23分には宮阪政樹が、ミドルレンジからのシュートを放っていく。27分には川西がターンからのシュート、31分にはスペースへの飛び出しを再三見せていた山崎雅人がディエゴのクロスからバックヘッドのシュート。「前半は自分たちで中央を固めてサイドはある程度、やらせても最後でクリアというのができていた」（山口和樹）という福岡。その外側から多くのシュートを放っていった山形だったが、この日は枠を外すことこそ少なかったものの、ほぼGK神山竜一の正面付近を突き、神山も的確にキャッチしていった。31分にも山崎の強烈なミドルシュートを一度はファンブルしたが、こぼれ球に詰めたディエゴの到達よりも早くボールを抑えている。福岡はセットプレー以外に得点のにおいを感じさせなかったが、結局前半はスコアレスで折り返した。

後半開始から、福岡は坂田大輔に代えて酒井宣福を投入。山形が立て続けにシュートチャンスを重ねる流れは変わらなかったが、山形の足がやや重くなり、守備のプレッシャーがかかりづらくなった63分、福岡は２枚目のカードとして城後寿に代え、金森健志を投入。その４分後、ボランチのパク ゴンと中原秀人で挟んで奪ったボールは、酒井を経て金森へと渡る。「前半見てて、相手のディフェンスもそこまでうまくないというか、自分のドリブルで仕掛ければいけるなと思っていた」とドリブルの態勢に入ると、いったんは外へ逃げながら中央へと切り返し、マークしていたイ ジュヨンを完全に振り切った。危機を察知した松岡が足を速めてカバーに戻ったが間に合わず、ここしかないという狭いラインに左足で確実に載せて流し込んだ。

この失点を挟んで、山形は交代枠を２枚使っているが、前半のように高い位置ではプレッシャーがかからず、自陣に起点をつくられクロスやサイドチェンジで振り回されるような展開が続いていた。ここで山形は最後のカード、川西に代えて中島裕希を投入する。「中島の裏への飛び出しというところ、そういう彼の良さというところを出したくて川西に代えました」（石崎信弘監督）との期待を受けた中島は75分にはスタンバイが完了していたが、プレーが途切れず、ピッチインは79分になっていた。83分、宮阪からのスルーパスを右サイドのスペースで引き出すと中央へクロス。中に飛び込んだ選手には合わなかったが、逆サイドでフリーのキムが体勢を崩しながら打ったシュートは跳ね返されたが、中島のサポートで長い距離を走ってきた山田拓巳が右足インサイドで合わせて同点。さらにその３分後、相手のクリアボールを山田がヘッドで押し返し、ディエゴと伊東俊のコンビネーションで最後はディエゴが放ったシュートが神山に跳ね返された。しかし、そこへ俊足を飛ばして飛び込んだのは中島。「こぼれてくるなと感じてたし、いいところにシュートが打てた」とスライディングしながらネット上部から突き刺す軌道で逆転のゴールを決めた。

逆転勝利でプレーオフ圏内に再浮上。劇的な試合のあとでも、石崎監督はいつもの反省口調から入った。「あれだけ高い位置でボールを奪えて前半点が取れなかった。そこはやっぱり反省していかなきゃいけないのと、あれだけ押し込んでるなかでカウンターになったときのディフェンスの対応で、１点入れられたんですけど、そこの対応のところをしっかりしていかないと」。逆転勝利はこの先、チームに勢いを与えるかもしれない。しかし、本来はチャンスを多く作った前半で試合を決める勝ち方をしなければならない。そして、相変わらず自陣まで持ち込まれた際の守備の脆さも目立つ。そうした警鐘は劇的な勝利にかき消されることなく、鳴らされ続けなければならない。

他会場では５位・千葉が敗れたほか、当面のターゲットと目されていた勝点２差の大分が終了間際の逆転負けを喫している。「ミラクル」と言える状況は昇格クラブにはよくあるもの。今節に関しては、そうした勝ち方をした山形がその権利を手にしているようにも見える。しかし現実には、残り試合をすべて勝たなければならない、一つの引き分けも許されない状況は寸分も変わっていない。「ここで気を緩めずに、最後まで全力で一生懸命戦っていきたいと思います」と中島。邪念やプレッシャーをはね除け、これまでどおりのピュアな“一戦必勝”の思いを貫けるか。試練はここからが本番だ。

以上

2014.11.10 Reported by 佐藤円