群馬にとってのクライマックスは終了間際に待っていた。0−1で迎えたゲーム終盤。数分後には1点リードの磐田が勝点3を手にするはずだったが、順当なシナリオは群馬の執念の攻撃によって書き換えられた。ボランチ加藤弘堅のミドルシュート炸裂。決死のカウンターから同点ゴールをもぎ取った群馬が土壇場で勝点1をすくい上げた。
前半の群馬は何もできなかった。というよりも何もしなかった。平繁龍一、クォン ハンジンをケガで欠き青木孝太がベンチスタートとなった群馬は、リズムが作れずに防戦一方。覇気がないチームは磐田の攻撃を自陣で受け続けて時間を浪費、秋葉忠宏監督の意図と異なるスローテンポな戦いを演じてしまう。34分、中盤のパスミスからFKを与えると、その2次攻撃から小林祐希に先制ゴールを許して0−1。前半のシュート数は0。群馬は沈黙したままハーフを折り返す。
後半に入ってもリズムは磐田のままだった。磐田に押し込まれたチームは、ダニエル ロビーニョまで自陣に引いて守備に回るシーンが多く、前線の人数不足を引き起こしていた。そんな状況をみた指揮官は金沢浄、有薗真吾に代えて青木孝と瀬川和樹を投入。攻撃的な采配によって積極性を取り戻していく。青木孝が相手プレスをハズしてボールを運ぶことで、チームが活性。鋭いカウンターからチャンスを作り出していく。
だが磐田の守備網は簡単には崩れず、群馬がチャンスをモノにしたのは88分だった。それは4人の連係によって生まれた。中盤の底でボールを受けた黄誠秀が右サイドを駆け上がる久富良輔へスルーパスを配給。サイドを深くえぐった久富はマイナス気味のボールをゴール前へと送る。それを受けたのは大津耀誠。「左足で受けて右で打つイメージだったがトラップがズレて、結果的に弘堅君(加藤)に落とした」(大津)。大津の臨機応変なプレーが奇跡を呼んだ。
大津の“落とし”を受けた加藤弘堅が放った低弾道ショットは磐田守備陣の足に当たり、ゴール右へと吸い込まれる。「耀誠がうまく落としてくれたので、タイミングを合わせてシュートまで持ち込めた。みんなのイメージの共有から生まれたゴールだったと思う」(加藤)。同点にしたことで勢いづいた群馬はアデョナルタイムにCKから瀬川が強烈なヘディングシュートを見舞うが、GK八田直樹に阻まれて試合終了の笛を聞いた。
磐田は、終了間際に同点ゴールを許して勝点2を失った。70分までは圧倒的にボールを支配しワンサイドゲームとしていたが、残り20分で群馬に主導権を譲ってしまった。名波浩監督は「60分過ぎから相手が全体を間延びさせてきて、間に入ってくる選手を捕まえられなくなった」と話したが、群馬の捨て身の戦法にのまれる結果となった。ドローに終わった磐田だが、プレーオフ争いのライバル千葉、大分がともに敗れたのは不幸中の幸い。次節山形戦に勝てばプレーオフ“第1シード”が確定する。
加藤の起死回生弾でドローに持ち込んだ群馬は、磐田から貴重な勝点1を奪ってみせた。苦しい戦いだったが、ひたむきなプレーが勝点1を呼び込んだ。今季限りで退任する秋葉監督に残されたゲームは2試合。現在は19位だが、このままでは終われない。「2連勝してチームの集大成をみせたい」(秋葉監督)。ひとつでも多くの勝ち星をサポーターへ届け、ひとつでも上の順位でシーズンを終えることが、このチームに託されたラストミッションだ。
以上
2014.11.10 Reported by 伊藤寿学
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