イメージとしては「突然」かもしれない。第28節の対名古屋戦から3試合で8得点。それまではシュートを打つことにも苦しんでいたのに、いきなりの爆発である。
もちろん、サッカーに限らず人生においても「突然」良くなることはなく、必ず潜伏期間がある。そのきっかけは第19節・鳥栖戦からスタートした守備の再構築(ボールを奪われたら素早く帰陣し、5-4-1のブロックをつくる)。ペトロヴィッチ前監督時代から培ってきたこの守備は、広島にとっての原点回帰。やるべきことが明確になったことで、選手たちの頭はしっかりと整理されたことは事実。攻撃面が機能するようになるまで時間はかかったが、森保監督は「いい守備が構築できれば、必ずいい攻撃へとつながる」と自信を表明していた。「夏場、チームは壊れていた」(森崎和幸)状況からまず手をつけやすい守備から立て直し、勝点を拾い集めることで自信回復を図れば、元々持っているクオリティが発揮しやすくなるはずだ。
そんな指揮官の読みはピタリと的中した。夏場は余裕がなく、選手の必死な頑張りは見えてもそれが「チーム」というつながりに直結していなかったが、勝点を重ねたことが余裕につながり「緊張と緩和」のバランスがちょうど良くなった。やはり「必死」だけでは柔軟性がなくなるのである。「あんなことをやってみたら面白いかも」「こんなプレーができたら楽しい」という遊び心がアイディアにつながり、それが相手DFの意外性を生むわけだ。清水戦で見せた塩谷司のサイドチェンジ。名古屋戦で先制につながった青山の飛び込み、最近の試合で顕著になったダイレクトパスの連続。それは過緊張から抜け出したことで生まれる「遊び心」なくして、選択はないプレーだ。サッカー、いやスポーツに対するメンタルの影響の大きさをつくづく思い知らされた。
メンタル面から考察すると、現状の大宮に「余裕を持て」とはなかなか言いづらい。第23節から指揮官が渋谷洋樹監督に代わり、直後の6試合で5勝1敗と快進撃を見せて降格圏を脱出。一時は14位まで浮上した。大宮伝統のゾーンディフェンスのクオリティを取り戻し、6試合で5失点と守備の立て直しに成功したことで状態が良くなった過程は広島と似ているが、ここにきてその守備が崩れて(2試合で5失点)の連敗。降格圏の16位清水と勝点で並び、かろうじて得失点差で1点、清水を上回っていることで15位に位置しているが、崖っぷちに立っていることは間違いない。
広島も何度も味わっているが、残留争いの切実さは選手たちから「サッカーの楽しさ」を完全に奪い去る。「やらなきゃ」「勝たなきゃ」という気持ちが先に立ち、そこに「こんなことをやったら面白いかも」という遊び心は生まれ得ない。大宮は確かに残留争いを何度も経験しているが、だからといって「慣れる」ことはまずない。むしろ、この切実さを理解しているからこそ、「何が起きるかわからない」という恐怖心にとらわれ、ネガティブな思考が先に立ちやすくなるわけだ。
前節の神戸戦でも先制しながら逆転され、ボール支配率やシュート数で上回りながらも敗戦。その前の横浜FM戦でも一度は逆転しながらも追いつかれ、90+2分に失点して膝を屈した。もちろん横浜FMには中村俊輔、神戸にはマルキーニョスという一騎当千の相手がいて、彼らの能力にやられたことは否めないが、守備からチームを立て直したはずの大宮が「守れない」要因には、やはりプレッシャーとの関連を否定しがたい。
とはいえ、広島にとって非常に難しい相手となることは、間違いない。「必死さ」「切実さ」が何かのきっかけで「強さ」へと変換することは、過去のJの歴史が物語る。何より、NACK5での決戦では3-0という圧倒的な優位からズラタン・ムルジャにゴールを次々に決められ、引き分けに持ち込まれてしまった実績がある。あの驚くべき結果が広島のチーム状態を完全に狂わせ、3連覇への野望を砕かれる遠因になったことは間違いない。連覇中の王者を絶望に陥れた両外国人FWはもちろん、家長昭博やカルリーニョスら個々の能力が高いことは疑いのない事実で、特に自分たちが攻撃している時にこそ危険なカウンターが発動する。順位に関係なく、警戒レベルはMAXにしておく必要はある。
夏場は初対戦のムルジャに対して戸惑いを隠せなかった塩谷司は、闘志をむき出しにしながら語った。
「確かに得点能力の高い選手は多いけれど、自分たちの守備ができれば相手がどこであっても抑えられる。相手がどういう戦術できても、パスを出して動くサッカーを表現すればいい。今はチームとしていいサッカーができているし、すごく楽しい。自信はあります」
広島は好調を維持したまま、11月8日のヤマザキナビスコカップ決勝に向かいたい。大宮は厳しい残留争いを抜け出すために勝点3を求めるだろう。闘志と闘志、思惑と思惑がぶつかりあう、激戦必至の戦いとなる。
以上
2014.11.01 Reported by 中野和也
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