タイトルを争うには決定的な敗戦となった甲府戦をどう消化したのかが問われていた。決していいとは言えないここ数試合の内容に、悲観的な空気が横溢しているのだとしたらこの清水戦を含めたリーグ戦の残り4試合は厳しいモノになる。少しばかり悲観的になりながら選手たちに話を聞いたが、心配は杞憂だった。彼らが口にしていたのは、自分たちが展開してきたサッカーへの自信喪失の言葉ではなく、自分たちが技術を正確に使えば戦える、という言葉だった。チーム内の信念に、少なくとも表層上は揺らぎはなさそうで、残り4試合のリーグ戦に臨めそうだ。
僅かな可能性にかける川崎Fにあって、チームに必要なものを説明してくれた一人が、田中裕介である。「要するに失い方なんですよね」と甲府戦を振り返る田中は「うちが自ら崩れてしまった。1−0でリードしていたのに、やっちゃいけないやり方があった」と反省する。田中が言うところの「やっちゃいけないやり方」とは何なのか。それはリードした相手と対峙した時の「うちが攻めないといけない」という精神状態と、それに基づく試合運びだという。風間八宏監督はどう勝つのかを重視したサッカーを推し進めてきたが、その考えが選手に浸透した結果、状況判断に誤りが見えつつあるように思っていた。風間監督は相手ゴールを陥れるには、自分たちが主導権を握る時間を長くすればよく、不確実なロングボールよりは、足元に繋げるパスの方が結果的に効率がいいと教えてきた。
しかし、その一方で相手がゴール前を固めるわけでもなく、最終ラインの裏側にスペースがあるのであれば、そこを使うことは悪いことではないのではないか。つまり相手をわざと自陣に引き入れた上で、シンプルに相手最終ラインの裏を狙うというアイディアがあったとして、それは悪いことではないのではないかと田中は話す。その考えには一理ある。まずは合理的であり、更に言うと風間監督の教えにも反していないからだ。風間監督は、選手たちが繰り広げる想像を超えたプレーが、楽しさにつながるという事を常々口にしてきた。常識を疑い、固定観念を打ち崩せと話してきた。であるならば「フロンターレはパスサッカー」という固定観念を打ち崩すサッカーを見せてもいいのではないか。多様性があるからこそ、サッカーは面白くなる。ゴールを奪う手段はひとつではないのである。
川崎Fが今節ホームに迎える清水は、長短織り交ぜたパスワークが有効だと思わせる相手である。大榎克己監督への交代後、思うように勝ち星が増えず降格圏の16位に沈む苦しいチーム状態にある清水だが、監督交代からの13試合の傾向を見ると点を奪い合っての敗戦が多いことがわかる。無得点の敗戦は3試合に過ぎず、得点しながらの敗戦は6試合に上る。つまり点を取るためにはリスクを厭わない試合運びを行っているのだと考えられるわけだ。
たとえば前節の1-3で敗れた広島戦の戦いは典型的だった。広島の攻撃に対し、バランスよく選手たちがピッチ上に並び、ノヴァコヴィッチから始まる守備で効率よくボールを奪おうというコンセプトが見える戦いだった。マイボールは人数をかけたスピーディーなパスワークで前に運ぶ。また高い位置でボールを奪えれば、そこからシンプルにゴール前のノヴァコヴィッチをターゲットにしたクロスを入れ、シュートを打てるならノヴァコヴィッチがそのまま。打てずとも、2列目の大前元紀、六平光成、石毛秀樹といった選手たちが絡みゴールを狙う。攻撃的な両サイドバックの攻撃参加も含めて厚みのある攻撃ができていた。結果的に3得点した広島よりもパスの精度は高く、決して悪いサッカーではなかった。ある意味川崎Fのサッカースタイルにも通じるものを感じたが、それが川崎Fにとってはメリットとなる場面が考えられる。
清水のパスワークを止めるのは簡単ではないが、彼らは相手陣内の深い位置でもパスを回すべく人数を前線にかけている。それはつまり、裏のスペースが手薄になっている事を示している。そして川崎Fには、大久保嘉人やレナトに加え、ラインの裏を取る能力に天才的な才能を見せる小林悠が控えている。ボールを奪った瞬間にボールホルダーが彼ら前線の選手の動き出しを視野に入れ、ロングパスを通すことができるなら、崩せる場面は増えるはず。問題があるとすれば、ボールを大事にするあまり、身近な選手を見て、短いパスを選択しがちなこと。その点については、大久保が最終ラインや大島僚太に対して常に要求してきた。たとえば大島は「奪った直後に(大久保に)当てたほうがチャンスになると思っている」と自覚しており、狙いたいと話す。また、大久保は、ディフェンダーがボールを奪った後に大島に一度預けるつなぎのパスも、攻撃が遅くなるため、省略できないかと話していると大島は述べていた。
清水の戦いぶりを逆手に取り、そして川崎Fがあまり見せなかったサッカーで意外性を出すことでゴールを狙えるのだとしたら、逆に見てみたい。
ちなみに、10月31日に34歳の誕生日を迎えた中村憲剛は「数字上はまだ(優勝を)諦めるところではないし、誰も下を向いてないし、ここで一つ勝てば流れが変わる」と力強く述べて逆転優勝に目を向けていた。残り4試合で首位浦和とは勝点7差を付けられているが、数字上は可能性が残されており、川崎Fに「諦め」の雰囲気は無かった。
なお、16位と低迷する清水がどのような布陣を敷くのかはわからないが、少なくとも広島戦の試合内容は悪くはなかった。残留を確実にするためにも、勝点の上積みが必要な立場でもあり、ゴールを狙ってくるのは間違いない。そういう意味では、順位の違いがわからない試合展開になる可能性もある。甲府戦を見ても川崎Fのサッカーは盤石ではない。場合によっては力負けする可能性もあるが、どんな試合になるのだろうか。怖いもの見たさという意味でも楽しみである。
以上
2014.11.01 Reported by 江藤高志
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