ハートはあったのか。そう疑いたくなるほど、前節の横浜FC戦の敗戦は衝撃的だった。内容も結果も大事だが、それ以上に戦えていなかったことが、選手個々のベクトルがバラバラだったことが見ていて辛かった。その点に関しては、阪倉裕二監督が最も敏感に感じ取っていたようだ。試合後の会見では厳しいコメントが並んだ。
「今日の試合というのは評価をするような対象の試合ではない。それぐらいひどいゲームだった」
経験に乏しく、誇れる実績もない。今季の栃木はそんな選手が大半を占める。強く言い過ぎれば自信を喪失させるリスクを孕む。指揮官はそう考え、ポジティブな姿勢で次の試合を迎えられるように敢えて仕向けてきた。だが、「100%でやっているプレーに対して評価する」という基準に前節は達しなかったことで、言葉は自然と尖がった。6連敗中にも聞かれなかった指揮官の苦言を、選手はどう受け止めたのか。その答えは今節の福岡戦で示される。
「あの(FKからの)失点でプランが崩れたというか…。実際、試合の入りも良くなかった」
前節を振り返る本間勲の言葉は歯切れが悪かった。福岡も前節は立ち上がりの不安定さを引きずったまま、ほとんど修正が利かなかった。となると、今節は互いに序盤の入り方に気を使うはずで、激しい主導権争いが繰り広げられる可能性が格段に高くなるはずだ。アグレッシブさを旗印にする福岡に負けない勇猛果敢な姿勢を打ち出せるか。まずは、そこが一つのポイントになる。
序盤戦をポイントに挙げたのには、もう一つ理由がある。前回の福岡戦では立ち上がりの攻防が雌雄を決したからだ。栃木はサイドを攻略して抜群のスタートを見せ、開始15分間で数多の決定機を創出した。ところが、そこで仕留め損ない、逆に福岡に立て続けに失点を喫して敗れることに。もう二度とあの苦みを味わうわけにはいかない。「今回もそういうシーン(決定機)が来ると思う。それを得点につなげられれば勝機はくる」と豪語する大久保哲哉には、古巣相手に恩返し弾の期待が集まる。ボールに食い付く傾向にある1ボランチのパク ゴンを動かし、空いたバイタルエリアを起点に侵略を図れるか。
警戒していたセットプレーから失点。前節の栃木はデータ通り横浜FCにしてやられた。これほど屈辱的かつ、つまらないことはない。データが当てはまらないからこそ、サッカーは面白い。福岡は高さがあり、キッカーも質の高いボールを入れてくる。セットプレーからピンチを招く危険性は高いと言える。DF陣は体を寄せる、ぶつける、弾く基本作業を徹底し、ウイークポイントを突かれないように心掛けたい。
前半だけでブーイングを浴びるなど低調な試合運びで、前節はドローに終わった福岡。その結果を踏まえ、今節は相当な気合いを入れて臨んでくるに違いない。「ガツガツくる」。栃木の近藤祐介は、そう確信している。導火線に火を付ける役を担うのは、キレキレのアタッカー金森健志。1−1に終わった先週の群馬戦でも身上のドリブル突破を仕掛けまくり、一人危険な香りを漂わせていた。ただ、金森を活かしきれなかった反省点もある。開始早々に失点し、その後はロングボールを多用したことで彼に入るパスが限られ、単調な攻撃に終始した。その二の舞を避け、出来るだけゴール前で勝負させる回数を増やせるかが、福岡の焦点になる。
リーグ戦も残り5試合。前節の敗戦が栃木のJ1昇格プレーオフ進出の雲行きを、より一層怪しくした。厳しい現実を受け止めつつ、最低でも昨季のクラブ最高位(9位)を上回る成績は残さないといけない。GK鈴木智幸は改めて決意表明をした。
「勝ち続けることが来季につながる。個人もチームもそれが基盤になるし、レベルアップにもつながる。それは応援してくれる方、サポートしてくれる方の頭に残るはず。ホームの残り3試合に全部勝ち、感動を与えたい」
現実的な目標を追い求め、結果を出して感動を与え、感謝の気持ちを伝える。最後の最後は、そこに強いこだわりを持ちたい。
以上
2014.10.24 Reported by 大塚秀毅
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