優勝戦線に名乗りをあげ、好調さをキープしていた川崎Fが勝てなくなっている。前節のG大阪戦は、チャンスを作りながらも無得点で試合を終え、セットプレーの1発に沈んだ。勝てない理由は明白で、点が取れないということ。全てはここに尽きる。
点が取れないことについては大久保嘉人と彼を操る中村憲剛の両選手が相手チームからうまく消されてしまっているように思える。ここ最近の試合後、大久保は「もっとパスを出してほしい」と繰り返しているが、その言葉どおり相手DFを背負う状態の大久保への縦パスが少なくなっている。そのため、パスを引き出そうと大久保が中盤にポジションを落とし、自ら中継地点として機能しようとするが、それによって大久保は必要な場面でペナルティエリア内にポジションを取れない場面が増えており、相手に脅威を与えることができずにいる。
また、中村に関しては、足首の状態が一定しておらず、コンディションの維持には苦労させられているようである。また、そうした中村の状態を理解する相手チームが試合序盤に激しいタックルを見舞うこともあり、難しいプレーを強いられている。
客観的に見て、川崎Fを支える彼ら2人の大黒柱が思うようにプレーできていないのは間違いない。大久保は、第25節・大宮戦でハットトリックして以降、リーグ戦では3戦無得点。大久保が得点を決められないことがチームの成績不振のすべての理由ではないが、この3試合で1分2敗と勝てていないのは事実だ。この3試合でフル出場している中村もチームを勝利に導くことができておらず、試合直後の試合対応では苛立ちを隠すことがない。彼ら2人の活躍がチームの成績を大きく左右してしまうようでは長いシーズンをいい状態で維持していくことは難しいが、まさにリーグ終盤の今、勝点を積み重ねられない現状が、チーム事情の苦しさを示しているとも言える。
そうした難しい状況の中にあって、風間八宏監督は動じることがない。これまでに作ってきたスタイルには確固たる自信を持っており、根本にあるそのスタイルに沿った形で選手たちが個性を出す分には全く自由にやらせている。たとえばG大阪戦において、森島康仁に対して比較的シンプルにクロスを入れていたことを特に問題視しないのもその一環だ。風間監督のその自信の根底には、技術の浸透についての手応えがある。風間監督が考える技術は一定水準ですでに身についており、あとはそれを出すだけ。つまり「(方法論は)頭の中にはあるわけだから、それをどうやるかやらないか」が試合を左右するのだと話す。そして「(相手から)逃げてボールをもらうのと、相手を動かして受けるのでは違う」と述べて具体的な技術の出し方を説明する。
よくサッカーでは、主導権を握るという言葉を使うが、それは相手が開けたスペース、すなわち相手が捨てた、相手にとっては怖くないスペースでボールを回すことを指す言葉ではない。主導権を握るというのは、自らが動き、相手を動かし、そうやって自ら作ったスペースを使って攻め崩す攻撃を指す。序盤戦はそれができていた。どれだけブロックを組まれようと、粘り強くパスを繋ぎ、穴を探し、時には仕掛けて守備のほころびを自ら作り出してゴールを陥れていた。
そうした攻撃を作り出してきた動きの本質にあるものを、もう一度引き出すことが肝要だと風間監督は期待を込めて話す。そしてその風間監督の期待に応えられるのかどうかが、この試合では問われることとなる。
主導権を握る攻撃の1つとして「意表を突く攻撃」を上げるのが田中裕介だ。「G大阪戦で言えばレナトが中に絞って、打つと見かけて縦にパスを出してモリシ(森島康仁)を使った場面。ああいう場面でレナトが右足で縦パスを出すとは誰も思ってない。ああいうプレーがもっと必要なんじゃないかと思うんですよね」
そうした、アイディアをベースにしたプレーができていない現状は風間監督も認識しており、「今は力技に頼ってますよね」とも話している。今までやれていたことを改めてやり直すことの必要性を説いているわけだ。
悪い現状を受け入れた上で、監督、選手はそれを打開しようと考える。下降線を描き続けてきた川崎Fにとってまさに正念場と言えるが、このタイミングで対戦するのが、28節を終了して順位で逆転された鳥栖である。首位に立っていたタイミングで監督が交代した鳥栖は、一時的な低迷を脱し復調のきざしを見せている。前節は試合終了間際に豊田陽平が決めた劇的な決勝点により勝点を50に乗せた。勝点48の川崎Fに2差を付けた形だ。
尹晶煥前監督から指揮を引き継いだ吉田恵監督は、はっきりとした守備でまずはチームのベースを作ってきた。その上で、前からの守備にも挑戦し始めている。前節のC大阪戦では、状況を判断した前からの守備でC大阪を追い詰める場面も散見された。また、最終ラインを起点としたトップへのロングボールも使っており、相手の最終ラインとの駆け引きから水沼宏太が抜け出す場面も作っていた。ボールが自陣のバイタルエリアにあろうと相手陣内にあろうと、どのエリアでも守れる手法を持ちつつ、豊田に限らず、前線の選手をターゲットにしたロングボールと、これを2列目の金民友、池田圭、水沼といった選手がフォローする攻撃のスタイルも確立しており、手堅いサッカーができるチームに仕上がっている。
監督が交代しながらも3位に浮上してきており、その実力はフロックではない。ただその一方で、前からボールを奪いに来るスタイルを併用しており、川崎Fの今までのスタイルが出せるなら、それをかいくぐることは可能であろう。風間監督はもちろん、選手たちも「頭の中にある」と認める川崎Fがこれまで作ってきたサッカーをもう一度見せるにはふさわしい相手だとも言える。順位的にも、勝てば鳥栖を再逆転できる位置にいる。首位とは勝点が離されてしまったが、シーズンは残り6試合。1つずつ勝ち星を積み重ねていくしかない。そんな現状について小林悠に聞いたが「僕たちは1つも落とせないので、って毎回言ってるから、なんか軽いですね」と苦笑いしつつ「結果で示さないとという感じなので、その件については話したくないです。話さずに結果で示したい」と力強く口にする。勝たねばならない試合はこれまでにも何度もあったが、繰り返してきた「負けられない」を結果で示すためにも、川崎Fの選手たちは強い決意を持ってこの試合に臨んでいる。
なお、負けられない試合だからこそ、サポーターからの後押しを切望していたのが中村である。「ホームでもありますし、(ヤマザキナビスコカップ準決勝)第2戦の空気感があれば相手を飲み込めると思います。まだまだリーグ戦は終わりじゃないですし、お願いしたいです」と話していた。中村が言及したあの試合の空気感は「これぞ等々力」というもので、それは選手たちのひたむきさに促されたものだった。つまり、サポーターに応援を望む中村は、逆に言えば、サポーターが盛り上がる試合を見せるのだという約束をしたと言えなくもない。
平日開催ということで来場者数では苦戦が予想されるが、勝っている時の声援は当然だが、苦しい時にこそサポーターからの声援が選手たちの力になる。1人でも多くのサポーターにスタジアムに駆けつけてもらい、ぎりぎりの戦いを続けている両チームへの後押しをお願いしたい。
以上
2014.10.21 Reported by 江藤高志
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