横浜FC、栃木ともに勝点45で、6位との勝点差9で迎えた試合。J1昇格プレーオフを本気で狙うのであれば、残り全勝が必要な崖っぷち同士の対戦、まさに土壇場の試合。さらに輪を掛けて、横浜FCにとっては、クラブの功労者である奥大介氏の訃報、そして、新たなスタジアム環境作りの決意表明という、いつもとは異なる状況下で迎えた試合だった。両チームにとってぎりぎりの状況で、なおかつ横浜FCにはさらに重しが掛かっている状況だったが、この状況で地力を発揮したのは横浜FC。前節までの6戦勝ちなしの試合では影を潜めていた緊張感を発揮し、栃木相手に堂々たる勝利を挙げた。
勝負を分けたのは、俗に言う「試合の入り方」。この数試合、横浜FCは試合の入り方の失敗で勝点を落としていたが、この試合では違っていた。「とにかく積極的にいくことだけを考えてプレーしていた」という横浜FCのキャプテン寺田紳一の言葉通り、積極的な姿勢を見せる。さらに、特長であるスピードを生かし裏のスペースを虎視眈々と狙う黒津勝へのパスが有効に通り始め、「あれでチームにも、自分にもスイッチが入った」と黒津が振り返るように、主導権は横浜FCへ。栃木のフィードも、ドウグラスと、この日センターバックに入った松下裕樹、そしてボランチに復帰した安英学が、最高の集中力で遮断する。そして、その流れのまま、横浜FCがリードを奪う。
1点目は、10分にドウグラスの守備からの持ち上がりで得たFKのこぼれ球を一度は安がシュート、さらにこぼれたところを黒津が詰めて先制。さらに28分には野崎陽介のスルーパスに黒津が鋭く反応。栃木GK・鈴木智幸ともつれながらもゴールにボールを流し込み、前半で2点をリード。栃木・阪倉裕二監督が「準備してきたことも全然出来ていません」と嘆いたように、栃木のエンジンがかからない一方で、横浜FCがフルスロットルで襲いかかった前半だった。
後半の立ち上がり、栃木はサイドバックを高い位置に上げ、サイドハーフを中に入れて、パワープレー気味な立ち位置で優位を狙う。ゴール前にボールを運ぶが、その時間も横浜FCが耐えると、前に圧力を掛ける栃木を冷静に横浜FCがいなしてカウンターを狙う展開となる。66分に投入された佐藤謙介が中盤での相手の攻撃の潰しとカウンターの起点となる。そして、76分佐藤謙介が黒津にパス、さらにオーバーラップをした小池純輝に渡ると、クロスを冷静に寺田紳一が押し込み3点目。寺田はベンチに駆け寄ると喪章を高々と掲げる。この試合への思いが結実したシーンだった。そして、ゲームはそのまま終了。栃木も後半シュートは6本放つが、横浜FCを崩すには至らなかった。
横浜FCの勝因は、なんと言っても、この数試合頭をもたげていた細かな甘さをほぼ排除できたことだろう。寺田は「アグレッシブに前から行く守備ということで、それを今週の練習でスタッフから強く言われて、みんなで考えながらやっていた。それが良い結果になって自信もついたと思う」と振り返ったが、練習を通じて取り戻すことができたことは大きな収穫。この試合では、奥大介さんへの思い、そして三ツ沢をより良くしたいという思いがプラスαを生んだ。レギュラーシーズンは残りは5試合。「お互い選手としてやっていた時にJ1からJ2に落ちたので、もう一回お互いに、俺は監督として、彼は強化部長として、その立場でもう1回上げたいし、魅力のあるチームにしたい、面白いサッカーをしたいよねという話は良くしていた」と奥大介さんに山口素弘監督が立てた誓いを果たすために全力を尽くすしかない。
一方の栃木は、一言で言えばもったいない試合をしてしまったという形だ。阪倉監督は、「メンタルの問題なのか、フィジカルの問題なのか、相手との関係の問題なのかわからない」とその試合運びに至った原因は詳細に述べなかったが、このようなもったいない試合を繰り返さないための修正が必要だ。
シーズン終盤だからこそ、多くの試合は対戦チーム同士の戦術の完成と綿密な研究により拮抗する。だからこそ、試合の入り方に象徴されるように、試合に賭ける思いの表現が勝敗を大きく分けるファクターとなる。その思いの強さは、クラブそのものの強さだ。思いを強く重ねていくことの大事さを認識させられた試合だった。
以上
2014.10.19 Reported by 松尾真一郎
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