一進一退、どちらが勝ってもおかしくなかったゲームを制したのは東京Vだった。4分間の後半アディショナルタイムの末、最後の最後、CKからのラストプレーで勝負をつかみとった。この劇的勝利こそ、冨樫剛一体制になってからチームが明らかに変わりつつあることの何よりの証明と言えるのではないだろうか。
前半は、東京V、熊本とも守備の安定感が存分に出た、非常に硬い内容となった。ボールを奪い、攻撃のスイッチを入れようとして出すパスが中盤でひっかけられ、互いにトップの選手に効果的なボールがほとんど入らないまま前半が終わった。両者とも、前半で放ったシュートが2本ずつだったことが、その何よりの証明だろう。
後半、先に策を講じたのは熊本だった。ハーフタイムで「相手がプレッシャーをかけてきた時に、かけられた選手が(球を出すのに)ターゲットになるところを明確にしてあげることが必要」、「相手が前にボールを奪いに来ていたので、巻が前線で頑張って押し下げてくれれば、そこの間のスペースが使える」との2つの理由から、小野剛監督は巻誠一郎を投入する。これが、効果てき面だった。立ち上がりから最前線で巻がターゲットとなり、そのセカンドボールを熊本が拾ってシュートまで持ち込むシーンが続いた。また、「(東京Vの)みんなの嫌がるところを知っているので、嫌なところ、嫌なところには立っていたつもりなんです」「(泥臭いプレースタイルに対し)プレー中にも、『やっぱり誠ちゃんは誠ちゃんだな」と、(東京Vの)みんなに言われました』」。対戦チームに昨季まで所属していた選手ならではの、“くせ者”として東京Vの警戒心を誘った。これが効き、15分ぐらいまでは、明らかに熊本に主導権があった。だが、「フィニッシュの質が落ちてしまっている(中山雄登)」前節同様、チャンスは作りながらも、決めきることができなかった。
そうなると、流れは移り変わるものである。東京Vは、同21分にボランチに田村直也を入れたことで流れを引き寄せた。「センターバックに吸収され過ぎずに、センターバックが競ったボールなど、とにかくセカンドボールを拾うことと、サイドバックをなるべく前に出すことを意識しました(田村)」。安西幸輝、安在和樹の両サイドバックが積極性を増したこと、そして、守備的な田村が入ることで、攻撃的なボランチ中後雅喜が前線に絡めることが増えたこともあり、徐々に攻撃にリズムが生まれ始めた。
そして迎えた後半アディショナルタイムだった。示された4分間も過ぎようとしていた。スコアレスドロームードが漂った中、最後のプレーとみられたCKからのチャンス。キッカーの中後が変化をつけ、ペナルティエリアから離れてたところでフリーでいた安在に流すと、そのままダイレクトでミドルを狙う。熊本DFに防がれたボールが二ウドに渡り、二ウドもシュートを狙うもミートできなかったが、これが逆に吉と出た。グラウンダーのボールが熊本DF橋本拳人、園田拓也の股を次々とくぐり、平本一樹への最高のアシストとなった。“Mr.ヴェルディ”は右足でしっかりと止め、そのまま左足で一閃。冨樫監督にホーム初勝利をプレゼントする、値千金の強烈決勝弾となった。
直後に鳴ったホイッスルを聞き、熊本の選手は悔しさを露わにした。「最後まであきらめない泥臭さが第一で、その次にセットプレーというのをストロングとして戦ってきているので、その差を見せて勝ちたかったですが、今日はどちらの面でも東京Vに差をつけられてしまいました(巻)」。ストロングだったはずの部分で敗れただけに、悔しさも強いに違いない。それでも、「自分たちのチームが日々成長できていることがすごく感じられる。勝ち星がついてこなかったり、上手くいかないこともありますが、そんな中でもしっかりと課題を見つけながら、アプローチして、一歩ずつ成長していって、また新しい課題が出たら、もう1つステップアップしてというのがチームとしてできている。これからも続けていきたい」と、巻は前を向いた。
一方、東京Vは、これまでリスタートからほとんど得点が挙げられていなかった。また、試合終了間際に決勝点が入る劇的勝利も、ここしばらく記憶に残っていない。しかし、「これまでは、セットプレーや、アディショナルタイムに入れられて負ける試合が多かったのですが、逆の展開になって、運もついてきたかなと思います(田村)」。勝つための要素を味方にできた価値は大きい。
そんなチームに対し、この試合からユニフォームの胸部分に、支援者によって設立された「一般社団法人緑の心臓」による「緑の心臓」のロゴが掲出されるという嬉しいニュースも重なった。
殊勲のゴールを決めた平本は、試合後、次のように語った。
「監督が代わって、すごく雰囲気が良い中で毎日やれています。その中で、これだけの環境、雰囲気を整えてくれたんだから、『あとはお前らが結果を残すしかないだろ』的な無言のプレッシャーを、僕が勝手に感じています。さらに今日、こうして胸ロゴがついてくれて、みんなが『よし!』と勢いづいている時にまた勝てなかったり、負けちゃったりしたら、選手たちはさらに『やばい、やばい』と、逆に追い込まれちゃうかな?と、思っていた中で勝てたことは、本当に価値があった。こういう試合になると、最後に点を取った僕だけが注目されがちですが、本当に冨樫監督や村田コーチ、土肥コーチがきっちり練習の雰囲気も作ってくれて、DFラインも中盤も、とにかくみんながひたむきに頑張ってきた結果が、最後ああやって僕のところにたまたま転がってきて、たまたま僕が決めただけ」。
多くの人からの期待を受け、そのプレッシャーと向き合い、きっちりと結果で応え、恩返しをしていく。プロとしての最高の悦びを、東京Vはこの試合で掴み取ることができたのではないだろうか。
いま、明らかに東京Vは流れが変わりつつある。
以上
2014.10.05 Reported by 上岡真里江
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