横浜FMは、体調不良の中村俊輔が欠場し、4−4−2の布陣で臨む。2トップに入ったのは、肉体派の矢島卓郎と伊藤翔。必然的に2人の「高さ」や「強さ」を生かそうとするため、普段に比べて、長めのボールを供給する割合が多かった。だが、それは中を固めて守る甲府にとっての“土俵”。試合後、甲府DF青山直晃は「よく闘えた」と満足そうに笑みを浮かべたように、相手の土俵で相手の良さを引き立たせてしまった感は否めない。
しかしながら、横浜FMが全くノーチャンスだったわけでもない。この日は中盤の守備の中枢・小椋祥平が、相手の攻撃の芽を鋭い出足で摘み取るとともに、攻撃の起点にもなり、前線に良質なパスを供給。18分には小椋のサイドチェンジから奈良輪雄太が飛び出してフリーになるも、トラップが大きくなり自滅した。
チャンスはもう一つ。24分、リーグ戦での先発出場は前回3月の甲府戦以来となる佐藤優平が、下平匠の縦パスで裏に抜け出し、左からクロスを送る。ファーで兵藤が頭で落とし、中で矢島が敵DFに寄せられるもシュートを打ったが、ボールはGKの正面へ飛んだ。
後半へ突入すると、攻撃のアクセントが欲しかった横浜FMは、ベンチスタートだった切り札・齋藤学を59分に、レフティーの技巧派・端戸仁を75分に、それぞれ投入。この2人がどんな化学反応を起こすのか着目したが、「中でボールを受けられるスペースはなかったし、裏のスペースもケアされていて難しかった」(端戸)と、いい距離感で守る甲府に対し、ほぼお手上げ状態に。71分に齋藤学がボックス内でドリブルを仕掛けて相手DFに倒される際どいシーンもあったが、ホイッスルは鳴らない。
80分を過ぎると、相手を威嚇できる甲府唯一の“大砲”クリスティアーノに対し、城福監督はタッチライン際から大きなジェスチャーを交えて、「もっと下がれ!」と指示を出す。要はこの時点で完全に割り切って、勝点1を慎重に積み上げようとしていた。そして、無事にミッションをクリア。試合後、クリスティアーノは「ボールがほとんど前に来ない」と苦笑いを浮かべていたようにロングボールに偏る攻撃は課題かもしれない。だが、そのクリスティアーノも前後半を通し、懸命に前線からボールを追い回す姿を見て、チームとしての一体感の強さを感じた。
「今日の試合、勝点をゼロにしない、失わないということがいかに大事かというのは、我々だけではなくて、ゴール裏のサポーターの数、熱を見てもみんな分かってくれている」(城福監督)。
13位・甲府は、まさに全員が同じ方向を向き、着実に残留争いの渦中から抜け出そうとしている。
一方、横浜FMは昨年に引き続き、甲府の牙城を崩せなかった。この日はシュート数6本と少ないのも気がかりだ。ただ闇雲に打てばいいわけではないが、少し遠目からでも狙ってみるのも一手かも。19分に下平が珍しくミドルレンジから打ったように、攻め切れない状態が続くよりか、シュートで終わった方が気分的にもいい。食欲の秋ならぬ、シュート欲を高める秋にする必要があるのではないだろうか。
以上
2014.09.28 Reported by 小林智明(インサイド)
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