愛媛に0-4と大敗した前節からの立て直しを図る山形と、前半に先制を許すドローゲームを4試合続けたあと、守備の意識を高めた前節で1-0勝利の成功体験を得た京都。システム的にミスマッチするなか、守備意識の高い2チームが主導権争いを演じていた。「特にディフェンス面に関しては本当に全員がよくハードワークして、前半はほとんど決定機をつくらさず対応できた」と山形・石崎信弘監督が語れば、京都・川勝良一監督も「後ろは前半からよく守ってくれてた」と振り返る堅調な展開。しかし時間が経つにつれ、切り換えの早さ、セカンドボールへの反応、球際の厳しさの差が徐々に表れ、より青写真に近いプレーを表現したのはホームの山形だった。
この日、山形の2シャドーに入ったのは、J1鳥栖を破った天皇杯4回戦でもコンビを組んだ山崎雅人と川西翔太。守備では連動して高い位置からボールを追い、攻撃でもシンプルにスペースへ送られるフィードに全力疾走で飛び込んでいた。「『お前が付いてきてくれるから俺も行けんねん』って言ってくれるから、だから俺もザキさん(山崎)のきつさもわかるし、前から行かなアカンと。すごいっすよ、あの人は」。山崎をリスペクトする川西が山崎のがむしゃらさの基準値に歩調を合わせ、それと呼応するように1トップのディエゴ、ボランチの松岡亮輔らが次々にサポートの位置へ顔を出し続けた。6分には川西からパスを受けたディエゴの鋭いグラウンターのクロスを山崎がミドルレンジから思いきってシュートを狙うなど、近い位置でプレーする前線の3人のコンビネーションが、京都に生じたギャップを突くシーンも目立っていった。
京都の前線では、一発で仕留められる背後へのボールを引き出そうと大黒将志が駆け引きを続けていたが、そうしたボールはほとんど出せないほどに自陣で圧力を受けていた。さらに川勝監督は「今日見てるとデーゲームで寝てる人が何人かいた」と、特に攻撃に移った際の前線での運動量、動き出しの少なさを指摘する。「前半、ちょっと窮屈というか、もっとコンビネーションで引き出していくというのが全然できてなくて」(石櫃洋祐)と縦のフィードを送る前にひと手間かけることができなかったことや、大黒への厳しいマークが分散されなかったことも攻撃停滞の背景にあった。前半に記録された京都のシュートはわずかに1本。10分のコーナーキックからバヤリッツァがヘディングで放ったものだったが、これもGK山岸範宏に難なくキャッチされている。
前半の終盤は山形の前線の運動量がやや落ちたことで京都がボール支配率を高めていたが、40分、バックラインでいったんボールを落ち着けた山形は、舩津徹也が前方へフィード。右サイド寄りバイタルエリアのディエゴがヘッドで中央の川西へ落とし、川西からさらに左へと渡されたボールを、山崎が胸トラップから左足の強烈なミドルシュートに換えた。「前が空いてしたので、思いきって打ちました」と積極的に狙った山崎はこれが今シーズン初ゴール。京都は起点の舩津をフリーにしたままフィードを送られ、ターゲットのディエゴにも競ることなく、川西、山崎にはプレスバックが間に合っていない状態で、ディフェンスラインが下がることで空いたバイタルエリアを使われた。
「こういう追う展開を前々節で終わらせたかったけども、結局今日、またこういうゲームをやった」(川勝監督)。前半に先制を許し、追いつけたがドロー止まりだった前々節までの4試合の記憶が蘇る。払拭するには逆転して勝つしかない。後半から横谷繁に代え、三平和司を投入。ただ、前がかった状態で何度もカウンターを受けたことから、トップ下でプレーしていた石田雅俊を下げ、田森大己をボランチに据えた。このとき、山形の2シャドーはすでに足をつっていた。66分、山形は京都のパスミスに乗じてカウンターを仕掛けたが、そこで再び奪われると戻りの足がついていけずに京都がカウンター返し。田中英雄から左のアウトサイドのスペースに膨らんだ大黒へとパスが渡り、大黒はカットインからシュートを狙った。山形の疲労が顕著になったところでいよいよ3枚目のカード、山瀬功治と代わって工藤浩平が登場した。
山形も萬代宏樹、ロメロ フランクとシャドーを相次いで交換したが、足が重くなり始めた山形のラインは京都の勢いに後退を余儀なくされる。ラインが下がれば2シャドーは守備でサイドをケアする必要に迫られ、次第に近い距離を保つことが難しくなる。「相手のリズムになったときに、今日は守りに入り過ぎたというか。クリア練習みたいになっちゃって、全部自分たちのボールにできずに相手の攻勢を受けてしまうということになった」(小林亮)。京都攻勢の82分、田中のスルーパスでペナルティーエリア左に進入した工藤がそのまま左足を振ると、ボールはファーサイドのポストに跳ね返る。もう少し左にズレればそのままゴールマウスに吸い込まれ、もう少し右にズレれば詰めていた大黒が蹴り返したはずのボールは、やや内側に跳ね返り、混戦を経てかき出された。86分には工藤のクロスの跳ね返りをバヤリッツァがミドルシュート。山形は山岸の好セーブでなんとか失点を防いだ。アディショナルタイムに入っても、コーナーキックから三平のヘディングシュートがわずかに外れるなど京都が攻め込んだが、近づいた1点を最後まで手にすることはできなかった。
攻撃に個の能力を擁したまま組織としての守備の堅さを身につけることで、一気にJ1昇格プレーオフ圏内への突入を目論んでいた京都。しかし、時計の針を逆に戻したような展開で8試合ぶりの敗戦を喫した。「残り試合も限られているので、昇格に向けて特にそういう闘うということに関して何が必要かというのは、ちょっと浸透していないような人に関しても少しこっちも考え方を変えないと」。次節、大きな注目を浴びるホームでの湘南戦で、勝点とチーム状況を照らし合わせた川勝監督はどのような変化を持ち込むのか。
「今日の試合に関しては勝つということがすべてだと僕自身は思ってましたし、愛媛戦の0-4からチームとしてもう1回立ち上がるためには、なんとしても勝利が必要で、また今日から連戦が始まるので、なんとしても勝ちたい試合でした」。スピリットこそ備わってはいたが、攻撃面でミスが多く、追加点も奪えず、終盤は防戦一方になった山形。内容的には合格ラインを大きく越えるものではなかったが、それでも小林は結果の重要性に言及した。そして勝てたからこそ、次の段階として、今シーズン12度目の挑戦となる“あの”目標が浮かび上がる。「また中2日、大変きついですけど次の栃木戦、もう何っ回も言ってますけども、連勝できるように頑張ります」(石崎監督)。
以上
2014.09.21 Reported by 佐藤円
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