前後半でお互いに表情を違えたゲームだったと言えるだろう。前半はおおむね湘南の時間であり、後半の一定の時間は水戸の手のなかにあった。どんなゲームでもすべての時間帯を掌握するのは難しい。自分たちの風をいかに捉え、相手になびいた風にどう対処するか。勝負は、詰め寄られても突き放した湘南に軍配が上がった。
キックオフ間もない40秒、湘南は大竹洋平が前を向き、ゴール前の狭いエリアでスルーパスを通す。これに武富孝介が反応し、落ち着いて流し込んだ。「今週は自分のタイミングでリラックスしてシュートを打てていた」そう話していた武富の12試合ぶりのゴールは、曹貴裁監督をして「今年いちばん美しい得点だったかなというぐらいパーフェクトだった」と言わしめる一連だった。
先制後も彼らは好機を重ねていく。「洋平やタケ(武富)、ウェリ(ウェリントン)がアイデアを出して前半から崩してくれていた」と永木亮太が語ったようにFW陣の連係は深まり、加えて永木と岩尾憲のダブルボランチや藤田征也と菊池大介の両ワイドも係わりながら、緩急に富んだ多彩な攻撃を繰り出した。
他方、防戦に回っていた水戸は、小澤司の投入とともに3−4−3から3−5−2へと中盤の構成を変えて後半に臨んだ。立ち上がりは攻勢に出て流れを掴みかけたが、湘南も菊池がポスト直撃のシュートを放つなど互いに主導権を奪い合う。すると56分、大竹がドリブル突破からミドルを狙い、GK本間幸司が一度は阻むもこぼれ球に武富が詰めた。さらにカウンターから藤田が送ったクロスが相手のファウルを誘い、ウェリントンがPKを決めた。
湘南が3−0とリードを広げたが、しかし水戸もそのままでは終わらない。さかのぼることハーフタイム、柱谷哲二監督がシステムの変更とともに選手たちに働きかけたのがメンタル面だった。
「怖がって取りに行かない、体を接触しない、というのが前半だったと思う。切り替えや球際のところで一つひとつの出足が遅かった。まずはメンタル面で前向きさを選手たちに伝え、同時に組織的なものも含めて後半送り出した」
「システムを変更してから動きやすくなりました。相手もうまくパスを回せなくなって、リズムを崩しているのがわかった」そう語る吉田眞紀人がペナルティエリアに向かってドリブルを仕掛け、手にしたPKを自ら仕留めた63分前後から風向きは水戸に傾いていく。64分には吉田を経て船谷圭祐がシュートを狙い、こぼれ球に小澤が詰めて1点差に詰め寄った。さらにカウンターを仕掛けて小澤がシュートを狙うなどゴールに迫ったが、湘南もこれを凌ぐと75分、コーナーキックのこぼれ球に永木が反応する。「シュートで終わったほうがいいかなと思って大胆に、ミートのときだけは慎重に行きました。いいコースに飛んでくれてよかった」右足を一閃、相手の流れも同時に断ち切った。
「我々のポジションはいまどこにあるのか、将来J1を目指すために何が必要なのか。逃げることなく勝負しに行き、とても収穫のあったゲームだったと思います」柱谷監督は語り、曹監督も「反省しなければいけないところもたくさんありますが、久しぶりにホームで4点取って勝ったことは彼らの自信に繋げていってもらいたい。3-0から3-2にされて、最後に突き放した展開をシーズンの中で経験できたことも自分たちの力にしていかなければいけない」と、それぞれがこの先に繋がる収穫を口にした。
湘南は次節、アウェイ京都戦に臨む。3位の磐田が引き分け以下の場合、湘南の2位以内確定の可能性が生まれる。結果次第で次節にもJ1自動昇格が果たされることになるが、「この3連戦3連勝すれば相手の結果に関係なく決まるので、そこだけを意識してチーム一丸となっていかないといけない。ここからがほんとうに大事だと思います」永木は言う。粛々と積み重ねてきたこれまで同様、自らと真摯に向き合っていく。
以上
2014.09.21 Reported by 隈元大吾
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