古巣相手にキャプテンマークを巻き、勝点3を手中に収めることができた。だが、GK鈴木智幸の顔は曇ったままだった。憂いに沈んだ表情の守護神は、その理由をこう話した。「今日は3点を取ってくれたから良かったけど、やっぱり2点を取られたことは後々に響くと思う。本当に申し訳ない気持ちが強い」。
好調な攻撃陣を守備陣が支えられるのか。今節の東京V戦の注目ポイントのひとつは、そこにあった。結論から言えば、残り15分までは理想的な試合展開だった。
ところが、そこから状況は暗転する。楽勝ムードが一転、連続失点を喫してドローに持ち込まれる危機に瀕したのだ。辛くも逃げ切ったが、「締まりのないゲームになってしまった」(阪倉裕二監督)。そのため、試合終了のホイッスルが鳴っても、観衆は歓喜を爆発させるには至らず、戸惑いだけがスタジアムを包んだ。“グリスタ”での2か月ぶりの勝利は、なんとも後味が悪かった。
3戦無敗の栃木の入りを、2連敗中の東京Vが凌駕した。開始早々に右サイドからチャンスを作る。栃木は一気に飲み込まれそうになったが、「相手は思った以上にプレッシャーが早く、いきなりCKまで持っていかれたけど、そこをうまく我慢できたことが良かった」(近藤祐介)。5分の杉本真のダイビングヘッドはGK佐藤優也に弾かれるが、これで嫌な流れを断ち切った。その後は、赤井秀行とチャ ヨンファンのセンターバックコンビを中心に、球際の激しさで相手を圧倒。近藤と西川優大がゴールを脅かし、39分に近藤のグラウンダーのクロスからイ ミンスのJ初ゴールが飛び出した。守備でリズムを掌握し、攻撃につなげる試合運びがゴールを生んだ。
後半も立ち上がりにミスでピンチを招いたが、前田直輝のシュートが枠を逸れて救われた栃木。その直後にスローインから西川、湯澤洋介とボールが渡り、最後は杉本真が冷静にGKとの1対1を物にした。決定機を確実に決めた栃木は、61分にも荒堀謙次が2試合連続となる3点目を奪取。リードを拡げ、あとは試合を閉めるだけだったが、「ボールホルダーにプレッシャーがかからず、甘いところを崩された」(杉本真)。アディショナルタイムに連続被弾。「あと3分あったら危なかったかもしれない」(近藤)。最後の最後で冷や汗をドッとかかされることとなった。
最終盤に盛り返した東京Vだが、追い上げも及ばずに3連敗。「最後に出たがむしゃらさを、もっと立ち上がりから怖がらずやっていければいいと思う」とGK佐藤が振り返ったように、ゴールに対する貪欲な姿勢を継続的に示すべきだった。3失点後は開き直ったのか、ボールの動かし方がスムーズになり、栃木のシステム上のウイークポイントを突けた。その成果を、「15分プラスアディショナルタイムを未来に繋げていく必要がある」(三浦泰年監督)。次節は、残留争いを繰り広げている富山との重要な一戦が控える。なりふり構わずにもぎ取った2ゴールのイメージを、死闘になることが予想される試合に持ち込みたい。
4戦無敗で6位・大分との勝点差を6に縮めた栃木だが、ゲームマネジメントに大きな課題を残した。失点の予兆があった中で、それを食い止められなかった。GK鈴木智は、「ゴール前でボリ(荒堀)が体を張って止めてくれたところもある。そこで気付ければいいけど、今日は気付けなかった」と悔いた。75分、83分、88分と、計3回も荒堀は身を挺して失点を回避したが、1人で事態改善を図るのは困難だった。大久保哲哉と中美慶哉が得点機で仕事を果たしていれば、という見方もあるが、やはりこの日に限っては「ゼロで終わらせないといけなかった」(近藤)。攻撃陣がゴールを取れている間に、なんとしてでも複数失点する悪癖を矯正しないといけない。それが出来ないようでは、順位は上がっていかない。
以上
2014.09.15 Reported by 大塚秀毅
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