出場停止に代表招集。さらには負傷者と選手の入れ替えを余儀なくされた試合だからこそ、先制点の意味は大きかった。前半5分。ボランチとしてプロ入り後初先発した谷口彰悟からのパスを受けた小林悠がダイレクトで安柄俊につなぐと、安はファーストタッチでゴール方向に持ち出し、相手選手と競り合いながら強引にシュート。これがGK長谷川徹の股下を抜く貴重な先制点となる。
会見の冒頭、何を置いても真っ先に「立ち上がりの失点がものすごくもったいなかったと思います」と口にし、1失点目を悔やんだ小林伸二監督に対し、風間八宏監督は「彼というのはスピードと強引さがありますので、それが一回でも出てくれればいいというくらいで出しましたが、よくやってくれたと思います」と称えた。
その安は、デビューから3戦連続で前半だけで交代してきた過去がある。「今まで、去年も含めて3試合連続で前半だけで交代していたので、前半で代えられないようにと思っていました」とこれまでの試合を振り返る安は、チームに貢献すべく場面に応じて前線から激しくチェイス。積極的な守備の結果、試合終盤に両足をつらせ、倒れこむ場面も。その結果、後半アディショナルタイムの90+2分に交代でピッチを去らざるを得なかったが、それまでに彼が果たした役割は大きかった。
風間監督は「一生懸命基礎トレーニングを積んできた。それからやっとここ2週間くらい、ゲームの中に少しずつ入れるようになってきた」と先発の理由を口にすると「彼にはおめでとうと言いましたが、これからこれを自信にして続けていってほしいと思います」と述べ、労いつつもこれからの活躍に期待を寄せた。
加入2年目となる安は、中央大学時代に膝を痛めており、2013年5月15日のヤマザキナビスコカップにおけるプロデビュー戦も無理しての出場だった。その結果、試合中にヒザの痛みが再発。激痛に耐えながら前半を戦い切るが、後半からベンチに下がらざるを得なかった。結局昨季の出場はこの試合1試合のみ。ここから長い治療の生活が続いたことになる。痛めたヒザをかばう事で、反対側の足を痛める悪循環にも悩まされるなど苦労しただけに、今シーズン前のキャンプ中には、痛みなくシュート練習ができる事を喜ぶほどだった。そうした過去があったからこそ、プロ初ゴールにチームは喜ぶ。チームを乗せたという意味で、この先制点の価値は高かった。
1点をリードされた事とは関係なく、徳島は前からボールを追った。アレックスによると、ワールドカップの中断明けからそう戦い、名古屋戦(15節)や大宮戦(17節)で上手くいっていた形だったという。徳島なりに自信のある戦いではあったはずだが、川崎Fにしてみれば望むところだった。
前から取りに来てくれた事で、磨いて来た戦いが思う存分に出せたのである。前からくる相手を外し、パスを前方に繋ぐ。いとも簡単にプレスを外し、ボールを前に運ぶことで、徳島に脅威を与え続けた。
川崎Fは、前半終了間際にシンプルな崩しから小林が決めて追加点を奪うと、ハーフタイムでの風間監督による「いろいろなことを整理した」指示もあり、後半からさらに徳島を押し込む。川崎Fは後半にも2点を追加したが、それ以外にも決定機を作っており、大量得点のチャンスを作った後半だった。
相手の順位を考えた時に、負けられない試合である一方、そうした試合を過去に落としてきた経験を持つ川崎Fなだけにしっかりと4点を奪い、無失点で試合を終えたことは誇れる結果であろう。これにより順位は2位へと浮上。首位浦和とは勝点差が4あるが、我慢して付いて行くしかない。
敗れた徳島は、6節と同じスコアでの大敗となったが、前述したアレックスの言葉にもある通り、やろうとしている事自体は悪くないはず。引き過ぎてバイタルエリアを使われた中断期前の戦いから比べると対戦相手によっては改善の様子が見て取れるからだ。
「ワールドカップの前は全体が後ろ過ぎた。それを前から行こうとしていますが、その意識によってチームは少しずつ変わっています。名古屋にも大宮にもある程度うまく行った」のだとアレックスは話すが、それにしても「フロンターレは強かったです」と試合を振り返った。相手によってはまだ通用するレベルにないということだが、ワールドカップの中断から再開して9試合で、勝点8を稼いできた。中断前の勝点4点からは倍増しており、この戦いを続けることに意味はあるはず。あとは選手たち自身が自信を持てるかどうかの問題であろう。J1残留に向けて厳しい戦いが続くが、結果が出つつある戦いを放棄するのも惜しい。自分たちのサッカーを信じて戦うしかないということだろう。
優勝を狙う川崎Fと、残留争いを戦う徳島。それぞれの目指すところは違えど、同じサッカーの土俵の上で真っ向勝負が繰り広げられた。結果は4-0という一方的なものになったが、気持ちのこもったいい試合だった。
以上
2014.09.14 Reported by 江藤高志
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